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デート終盤は、やっぱり観覧車で……?

 メリーゴーラウンドに乗っては、周囲にいる家族連れや学生たちの中に、デジカメを構える勇太を見つけ。

 ゴーカートでは、何故か横を彼女が併走しており。

 フリーフォールに至っては、落下中の凄い顔を激写された記憶がある。

 なんという奴であろうか。

 心葉は戦慄した。

 姿を見せぬまま、勇太は確実に自分をスニーキングしている。

 腕を上げた。

 斜め上の方向に。

 そんなに暇なのか……!!

 夏休み最終日に何の予定も無い姉は、少々可哀想に思いもする。だが、とにかくうざい。


「勇太を撒かねば……!」


 既に、桐子を補助するという今回のダブルデート。その目的を忘れかけ、憔悴した心葉は呟いた。


「いやあ……お姉さん、この遊園地を知り尽くしていますよ……。僕たちの先回りをしているんじゃないかという動きです」


 風間くんは妙に楽しそうである。


「それに、二人の写真を撮ってくれてるんですから、悪気があるんじゃないんです。ありがたいじゃないですか」

「むう、ポジティブシンキングですね……!」


 悔しいが、風間くんくらいの発想が一番ストレスが溜まらなくていいのかもしれない。

 あとで勇太は道場でとっちめる、と心に決め、心葉は遊園地を楽しむ事にした。


「心葉、そろそろ……」


 桐子が目配せをしてくる。

 なるほど、様々なアトラクションを楽しんだ今日。

 既に、日差しはゆっくりと傾きつつある。

 夏は日が長いから時間感覚が狂いがちだが、時計を見てみればもう午後四時である。


「では、観覧車と行きましょうか。もちろん、お二人からどうぞ」

「そ、そお? それじゃあ」

「うん、行こうか、本城さん」


 馬場さんと桐子、このデートで随分と仲が近づいたようだ。

 考えてみれば、この本城桐子という女、昔からもてていたと聞いている。告白されたり、略奪愛をしようと思えば容易に出来てしまうスペックを持っているから、本当の恋愛と無縁だったのではないだろうか。

 馬場さんと、初々しさを感じさせるような距離を保ちながら、はにかみ笑いをする彼女を見て思う心葉なのだった。


 さて、大観覧車である。

 遊園地において、観覧車と言うものはシンボルみたいなものだ。

 高さがあるし、配置は園の中央だったり。

 見晴らしが命のアトラクションでもあるから、どちら側の窓から覗いてもそれなりに良い風景が見られるよう、工夫してあるものだ。

 この遊園地でも、それは例外ではない。

 次に乗る列に並んでいると、なるほど、前にはカップルが多い。

 家族、カップル、カップル、家族、カップル、というような。

 自分たちもカップルに見られているのだろうと心葉は思った。


「じゃあ、い、行ってくる……!」

「閉鎖空間で男女二人……。健闘を祈りますよ、桐子。なんなら押し倒してしまえばいい」

「やめて!? い、意識しちゃうから!」


 馬場さんと桐子が乗り込んでいく。

 向かい合った二人は、見た目でも分かるくらいに緊張しており、大変微笑ましい。


「お次のお二人どうぞ」


 促された。

 心葉は進み、さっさと観覧車に腰掛けた。

 風間くんも対面に。


「いやあ……ベタだけど、こういうのっていいですよね……。本当なら、お姉さんもカメラマンで来て欲しかったんですけど」

「それは断固お断りです」


 円形をしている観覧車は、座席を配置しても互いの距離がとても近い。

 見詰め合わざるを得ない状況になり、なんとなく視線を逸らすと周囲の風景が見えるわけだ。

 この一畳半ほどのスペースしかない密閉空間……。

 もしも襲われたらどう返すか。

 戦闘的な思考を始める心葉である。


「いや、襲いませんから」


 風間くんに心を読まれたか。


「命が惜しいです」


 賢明である。

 観覧車はじっくりと上にのぼっていく。

 すぐ上のゴンドラに乗っている二人は、今頃ロマンチックな雰囲気になっているだろうか。

 ちょっと気になる心葉である。

 風間くんはと言うと。


「あっ、心葉さん見てください! ここからだと山向こうの海が見えるんですね……! もう少し遅ければ、夕日が沈むところが見られたかもしれない。残念だなあ……」

「ふっ、無邪気なものです。だけど、よくよく考えたら私も海に沈む夕日というベタなものは見たことが無いですね。そもそもこちらは太平洋側ですから、海に沈む夕日は見えないのでは……?」


 心葉の冷静な突っ込み。

 だが、そこに秘められたちょっとした夕日への憧れみたいなものを、風間くんは敏感に嗅ぎ取ったらしい。


「それじゃあ、今度一緒に日本海の夕日を見に行きましょう。卒業旅行で、二人きりなんて……どうですか?」

「な、なななななっ!?」


 ゴンドラが激しく揺れた。


「落ち着いて心葉さん!?」

「おおおおっ、か、風間くん、あなたは本当に私の貞操を狙っていたのですね……!?」

「いや、人聞きが悪いですよ!? 僕は心葉さんと一緒に旅行に行きたくて」

「年頃の男女が二人きりで何事も起きぬはずがないではありませんか……!!」

「心葉さん、本の読みすぎです」


 だが、心葉もそんなことを連想するあたり、満更でも無いのかもしれなかった。



 頬が熱いまま、熱が冷めない。

 桐子の付き添いだったはずなのに、なんだか自分が恋愛ごとの熱に当てられてしまったようだ。


「ふらふらしてますよ。大丈夫ですか?」


 風間くんに心配されながら、ゴンドラを降りた心葉である。

 そこを、パシャッと激写された。

 ちょうど、彼に手を引いてもらったシーンで、とても絵になる場面。


「なっ……」

「うん、最高の一枚が撮れたよ! いやあ……心葉もそんな顔をするんだねえ。双子ながら、木の股から生まれたんじゃないかと思ってたけど、やっぱり私と双子だったんだねえ」

「あ、お姉さん、現像したものは後日……」

「任せて風間くん。ベストショット多数。お楽しみに」

「依頼した甲斐がありました」


 聞き捨てならぬ会話がされた。

 さてはこれは、風間くんの仕込み……!? と心葉が慌てて振り返る。

 そこで、桐子の咆哮が響いた。


「あ、あ、あんたはあああああっ!?」


 今まで馬場さんの手前、猫をかぶっていた本城桐子が本性を……いや、本性よりもなんというか、勇太専用の戦闘モードみたいなものが曝け出されたのである。


「あ、やば、見つかった」


 そそくさと逃げ去る勇太。

 圧倒的に足が早い。

 何せ逃げ足が男子の速度なのである。一瞬でスカート姿の桐子をぶっちぎった。


「きいいいいい!! ま、まさかあいつが来ていたなんてえええ!! 心葉! あれってどういう……」


 桐子と、びっくりした顔の馬場さんが目を合わせる。

 一瞬、桐子の顔がポカーンとしたものになり、それが徐々に……やってしまった、という表情に。


「あああああっ、こ、これは違うの、違うんです亮太郎さん……! その、これは、あのお……!! ああああああ、もうだめ! もうおしまいだわあああああ!!」


 地面に突っ伏して、おろろーんっ、と嘆く桐子。

 心葉はもう、この一連の出来事に勇太に抱いていた怒りや、風間くんへの疑念なんてものが吹き飛んでしまっていた。

 ……こりゃあ、大変なことになりましたよ……!?

 こんな衆人環視の中で!!

 本城桐子、十八歳。

 彼女の本当の恋は、こうして儚くも終わってしまう……かと思われたが。


「本城さん、服が汚れてしまうよ。落ち着けるところに行こう」


 手を差し伸べる馬場さんである。

 ほ、仏がいる……!!

 心葉と風間くんは腰を抜かしかけた。

 あれほどの醜態を見ても、女子に対して愛想をつかさない人間がいたのか……!!

 桐子はべそべそ泣きながらも、馬場さんに付き添われてベンチへ向かっていった。

 あのカップルは、案外上手くいくのかもしれない。

 桐子は猫をかぶっている部分も、本性の奥底にある部分もいきなり曝け出してしまったわけである。

 馬場さん的にそれが許容範囲なら、桐子は何も恐れるものなど無いではないか。


「桐子、彼は絶対手放してはダメな案件です……」


 ぐっと拳を握り締め、親友の健闘を祈る心葉なのであった。





 後日、激写された心葉と風間くんのツーショットの数々が届けられ、心葉は羞恥のあまり地面をのた打ち回る羽目になった。

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