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さあ、綺麗になってしまうがいい

「な、なにをするおまえらー」


 一弥があまり色っぽくない悲鳴をあげた。


「もー、違うでしょー!! 『お、おやめになってえー』とか色っぽい声出しなさいよ! ほらほら!」

「板澤さんが本気すぎる」


 淳平は今まさに、顔をお化粧で彩られる親友へと黙祷を捧げる。

 これは男である自分では、救い出すことが出来ない状況だ。

 具体的には、里の自治会の満場一致で、巫女は一弥で決定した。

 じゃあさっさとリハーサルしようかという事で、一弥をお化粧させる話になったのである。

 集うは女性陣。


「むっふっふ、どうしてくれようかしら」

「お化粧かー。私も今年は初詣とかしたいし、やってみようかなあ」

「はーい! 私も色々研究したよ! 試してみたーい!」


 小鞠、英美里、勇太が揃って、鈴音を従え一弥を囲む。

 一弥、絶体絶命であった。


「うおお、だ、脱出ーっ!!」

「ははは、させないよっ」


 逃げようとした一弥の前に立ちふさがる勇太。


「いかに勇太さんと言えど、手加減はしないぜ! おりゃあ!」

「ははは、私も見くびられたもんだね。一弥如きが生意気な……!」

「うぐわあああっ!?」


 勇太が足を引っ掛けた瞬間、一弥が空中に跳ね上げられる。

 そのまま重心をコントロールされ、落下して尻餅をついた。怪我をしないように配慮したと見える。


「うわあ、金城さん凄いね。……勇太……?」

「愛称なんじゃないの?」


 英美里が勇太の本当の性別を知らない風だったので、しらばっくれつつフォローする小鞠である。


「うおお、ジーンと痺れた……」


 尻餅とは言えど、結構な高度からの落下である。

 怪我は無かったが、全身が痺れてしまった一弥、あえなくお縄となった。

 そんな訳で、三年生女子がお化粧道具を手に、いたいけな一年生女子をキャンバスにする。

 相手は女子としても初心者。


「ひい、やめてー! く、口紅はいやー!! うわー、何をばふばふ粉をっ、ごっほ、げほっ」


 初々しい反応が実に可愛いではないか。


「おー……お、おおー」


 見学している鈴音が若干引く。

 暴れようとすると、勇太が急所を押さえて動きを止める。

 そこに襲い掛かる小鞠。

 英美里は何やら実験しているらしく、手にした乳液やら化粧水を、一弥の肌にちょん、ちょん、とつけたりして手触りを確認している。


「むごい」


 淳平は悲しいものを見つめる目をしつつ、離れたところでお茶を飲んだ。

 すぐ横で、眼前の惨劇をガン無視して談笑するのは、村越龍と黒沼遥の二人だった。


「そういえば、黒沼先輩は去年、巫女をやったと思うんですけど」

「うん」

「どうだったんですか? いや、一弥の奴は今、ああやって地獄絵図ですけど」

「遥の巫女姿は綺麗だったぞ。あれは尊い」

「いや、自分も去年見てましたから。分かってますけど」

「うーん」


 遥は首をかしげる。

 去年の自分はどうだっただろう?

 案外、普通だった気がする。

 むしろ、玄神様に狙われているっぽいのが気になっていたくらいで……。

 それも、今年はすっかり大人しくなっていることだろう。

 今、玄神様はよく洗濯され、宗家の庭で物干し竿に引っ掛かって天日干しになっているはずだ。


「普通だったよ? お化粧とか、里のおばさんたちにお願いしたし。僕はお化粧のノリがいいから、楽しいって言われた」

「ははあ」


 淳平はスッと地獄絵図を横目に。


「うわー、一弥は肌がきめ細かいから楽しいー!」

「一見気を使ってないように見えるくせに、さらさらしてるのよねー。この肌質は化粧が映えるわ」

「あっ、この化粧水でこんなにしっとりするんだ」


 遥はうん、とうなずく。


「あんな感じ。概ね言ってる内容は同じかなー」

「苦労したんですねえ」

「苦労した甲斐はあったぞ。何せ遥は綺麗だったからな」

「もぉ、龍ったら」


 ちょっと頬を赤くして、遥は綺麗綺麗と連発する龍をぺちぺち叩いた。

 はっはっは、と龍が笑っている。

 バカップルであった。


「ごちそうさまです」


 イチャイチャを見ていたら胸やけがしてきたので、淳平はその場を離れた。

 目ざとく彼の接近を見つけたのは小鞠である。


「あっ、どこで油売ってると思ったら! 黒金ちょっとこっち来なさい!」

「うーわー」


 ベルトの辺りをがっちり小鞠にキャッチされ、淳平も連行されていく。


「完成したわよ、あたしたちの自信作! 講評しなさい!」

「おお。お疲れ様です」


 連れて来られた淳平、まずは周囲の女子たちに(ねぎら)いの言葉をかける。

 勇太も英美里もやり遂げた顔をしている。

 小鞠がドヤ顔なのは割といつもの事のように思う。

 鈴音は嬉しそうな顔をして、一弥の前で淳平を待っている。


「絶対驚くから」

「はいはい」

「めんたま見開いてよく見なよ?」

「へえへえ」


 もったいぶる様に、淳平は気の無い返事を返す。

 すると、鈴音はフフフ、と笑みをもらしながらスッと横に動いた。

 果たして、そこには……。


「ど、どなた様ですかね」

「俺だって!! 一弥だよ!」


 変わり果てた……というか、大変女子力を高めた一弥の姿があった。

 丁寧にファンデを掛けられた肌の上に、細かな化粧を施されている。

 目元は日焼けの跡も消え、くっきりと強調されている。

 唇の存在感も増したように思う。艶やかに光る、薄紅色の口元は、これが元は親友であると分かっていても、ちょっと惹かれるものがある。

 要は、ちょっと濃い目のお化粧ではあったが、大変綺麗になっておられたわけである。


「でもケバいなあ」

「なんですって!」

「なんだってー!」

「……そうかも」


 小鞠と勇太がグワーッと淳平に襲い掛かった。


「ぎゃーっ!!」


 女子の心を理解せぬ男は淘汰されるのである。

 淳平の断末魔が響いた。

 で、彼の叫びをBGMに、


「でもまあ、こんな感じだって分かってよかったんじゃない?」

「そもそも俺は巫女なんてやりたくないんだけどなあ……」

「いいじゃん。女子だって滅多にできない役割なんでしょ? 楽しんじゃおうよ。来年は一弥も男に戻ってるかもしれないっしょ?」

「それはそうかもしれないけどさ。こう、男の矜持が……!」


 かくして、祭り本番へ向かっていく今日この頃。

 後からやって来た郁己が、一弥を見て曰く。


「一弥くんはあれ、多分和風の化粧の方が似合うんじゃないか? 肌質とか顔立ちとか見るとさ」

「郁己、いつのまにそんなに詳しくなったの……?」

「うむ、文化人類学のフィールドワークをするとな。不思議な知識と見る目が養われていくのだ……」


 そんな事を言われて、まあ満更ではない気分の一弥なのであった。

 少し、内面が女子化してきているのかもしれない……という事に気付かないのは、お約束。

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