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お祭りの予感、今年の巫女

 翌日。

 里全体が、なんとはなしにフワフワと現実感がない空気に包まれている。


「こ、これは一体!」


 道場を見学に来ていた鈴音は、明らかに昨日とは違う空気に戸惑った。

 隣にいる一弥に尋ねてみる。


「これは何かの祭りがあるの?」

「そうだよ。今日から祭りの準備なんだ」


 それに合わせて、一弥は一旦実家に戻るらしい。

 淳平もである。


「では私もついていこう」

「なんでだよ!?」


 一弥は抵抗した。

 道理の通らぬクラスメイト女子の横暴に、抵抗したのである。

 だが、無駄に押しが強く、言い出したら姉の小鞠でも持ち出さなければ意思を翻さない鈴音のこと。

 惚れた弱みもあって、結局一弥が折れた。


「いいか、変なこと言うなよ! 兄貴たち、すぐにそういうネタに飛びついて来るんだから。田舎だから娯楽がないからな」

「ほほー、一弥のお兄さんたちがねえ」


 目を爛々と輝かせる鈴音に、もう嫌な予感しかしない。




「初めましてー! 板澤鈴音です! 一弥さんとは、良いお付き合いをさせていただいてます!」

「なにぃ、一弥に彼女が!?」

「女の子が女の子と恋愛するだと!? 素晴らしい!」

「や、やりやがったな鈴音ーっ!!」


 まあ、予想通りというか予感が正しかったと言うか。

 昨今では妹ラブ勢となり、毎週一弥に電話をかけてくる兄たちは大変ヒートアップした。

 携帯で動画を送ってくれと頼んでくるので、時折送ってやるのだが、この兄たちはそろそろどこかへ幽閉しなければ危ないのかもしれない。


「うんうん、妹に都会で友達が出来るかどうか心配だったのだが、こんな素敵な巨乳の都会美少女が付いていてくれるのだな兄者」

「羨ましい気持ち半分、貴いと思う気持ち半分だな弟者。しかし一弥……よくぞ……よくぞ俺達の理想の女になって……ククククク……」

「泣くな兄者ーっ」


 なんであろうかこの兄弟。

 大変仲が良い。


「だから、だーかーら、違うんだって!! おい! 二人で肩を叩き合ってないで俺の言うことを聞いてくれよ兄貴たちーっ!?」

「すっご、面白……!? なに、一弥のお兄さんたちって常にこうなの? お酒入ってるわけじゃなくて?」


 一弥の二人の兄は、既に成人している。

 無論、アルコールだってオッケーなのである。


「残念ながら、一年中あんな感じなんだ。俺が男だった時は、割りと共感できた気がするんだけど……俺が女になってから、テンションがずーっとおかしいままでさ」

「それは当たり前だろう。一弥、お前はもともと夜鳥家には珍しい美形だったんだぞ。子供だった頃、親父とお袋が、病院で取り違えられたんじゃないかって騒いだくらいには俺達に似ていなかったのだ! 遺伝子を検査するとかそういう物騒な話になり、ついには離婚一歩手前かというところになったよなあ兄者」

「うむ……。それが小学校に入学する頃合いに、母方の婆様の若い頃の写真が出てきて、これが一弥そっくりでな。そうそう、ちょうど今の一弥によく似てるんだ。だから隔世遺伝であろうという話になって、今は夫婦円満だぞ父と母」

「そ、そんな事があったのか……!! 俺、全然聞いてなかったぞ!?」

「そりゃあもう、家族みんなで一弥にはこういう面倒な事態は知らせないようにしていたからな。それに遺伝子が違っていても、こんな可愛い弟を手放すものか……」


 一弥がひえー、と悲鳴を上げて後退った。

 鈴音は一弥の肩をぽむ、と叩き、


「あんたが男だった頃からチヤホヤしてるわね、あれ。女になってテンションあがってっての、分かるわー


 メンタリティ的には、鈴音の方が夜鳥兄弟に近いのかも知れなかった。


「おっ、母者が飯を用意してくれるそうだぞ。昼飯を食っていきなさい鈴音ちゃん」

「はーい、ご相伴にあずかりまーす」


 鈴音はとびきり可愛い声を出して答えた。

 夜鳥兄弟、うんうん、あの計算で声色を変えたり、一弥と絡んでるときのラフな感じもいいよなーと頷きあう。大変業が深い。


 昼食はそうめんだった。

 ガラスのボウルに冷水と氷を入れて、そこに山盛りの真っ白な麺。

 これを昆布だしのつゆで頂く。


「そう言えば一弥、今年の祭りの巫女はな」

「うん」


 一弥は勢い良くそうめんを啜る。

 見た目はすらりとした精悍な美少女だから、この男勝りなそうめんの食べ方も堂に入っている。


「お前を推薦しておいた」

「ぶーっ!!」

「ぎゃーっ」


 思わず吹き出すそうめん。

 被害にあったのは鈴音であった。


「ええい、お約束とは言え、どうして私に吹きかけるのだーっ!!」

「うわーっ!? 鈴音、後ろから組み付くな―!? 当たってる、胸、当たってっ!」

「おお、おお、あんなに喜んで。やはり俺達の考えは間違っていなかったなあ兄者」

「うむ。今から綺麗に化粧をした一弥の巫女姿が楽しみだ。女に変わったものが巫女になると、一生女のままで過ごすとか聞いたことがあるが素晴らしいではないか弟者」


 大変物騒な話をしているのだが、鈴音とわいわいやっている一弥には聞こえていないのであった。


「で、お断りはできるのか……?」

「祭りは明後日だぞ。今から出来るわけが無いだろう。一弥の写真を見せたら、実行委員会の連中も飛び上がって喜んでいたぞ。一昨年は金城のお嬢さん、昨年は黒沼の家の子、今年はお前だからな。レベルが大変高い巫女が三年連続だ」


 ちなみに兄の好みは、ボンキュッボンなので勇太。

 弟の好みは、すらっとしてちんまいタイプなので遥らしい。

 互いの好みが異なっているからこそ、こうして仲の良い兄弟でいられるのかもしれない。

 一弥は兄である兄と好みが近い。


「ううっ……わ、わかったよ。俺がやるよ」

「おお、物分りの良い妹で助かるぞ!」

「今から実行委員会の人たちも来るからな! お! どうだ、鈴音ちゃんも見学していくか!」

「はい、ぜひ!」


 そういう事になってしまったのである。

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