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玄帝のお里でお泊まり会

「田舎だーっ」

「田舎だーっ」


 同じことを叫びながら、小鞠と鈴音が突っ走って行ってしまった。


「おぉいっ!? 迎えが来るまで大人しくしてろよお前らああああっ!!」


 一弥が必死になって追いかけていく。


「淳平は追っかけないんだ?」

「あ、あはは、僕はいいっす」


 勇太に問われて引きつり笑いの淳平。

 ここは駅から出たばかり。まだまだ里には遠く、しなびた田舎町が視界には広がっている。

 家々はすぐに途切れ、後はどこまでも続く大平原と森である。都会っ子である小鞠と鈴音には、衝撃が大きかったのであろう。


「あれ、でも板澤さんって、修学旅行ではそうでもなかったわよね」

「ああ、うん、多分あれは海があったからじゃないかな。あと、島と内陸の森だと環境が違うからさ」

「何かが琴線に触れたのかも知れないな」


 英美里の感想に対して、勇太と郁己が頷きあう。

 比較的、あの姉妹は脊椎反射で生きている傾向が強い。

 今も、何も考えないままに飛び出していったのだろう。

 待つこと数分。

 一弥に手を引かれた鈴音と、横に抱えられた小鞠が戻ってきた。


「うぬ、なんだかこの扱いは納得いかないわ」

「一弥って何気にパワーあるよねー」

「一応言っておくけど、重いんだからな!? あと、迎えの車が来るんだから鈴音も板澤先輩も動き回らない!」


 姉妹が、へーい、と気の無い返事をした。


「お、来た来た。おーい、来たぞー」


 少し離れた場所で、風景の写真など撮影していたのは、龍と遥の二人組みだ。

 彼らは遠くからやって来るマイクロバスの姿を見つけて、一同に声をかけた。



 里のおじさんが運転するマイクロバスに全員が乗り込み、いざ出発となる。

 道は舗装されているものの、ところどころで森の中を突っ切ることになる。

 手が届きそうなところに木々が生い茂り、時折、炭焼き小屋のような古びた建物が姿を現す。


「むむむ」

「お姉、ちょっとどいてお団子写っちゃう」

「むぎゅう、す、鈴音覚えてなさいよー」


 隣で姉妹がごちゃごちゃしながら、珍しい光景に携帯のカメラを向けている。

 一弥としては、彼女たちが窓を開きすぎて落っこちてしまわないかハラハラである。


「この風景も、なんだか三度目ともなると慣れて来るねえ」

「ああ。初回は俺が婿殿とか言われてな……。あの時は非常にびっくりしたもんだけど」

「それが真実になってしまった」

「うむ……」


 重々しく頷く郁己。

 並んで座る二人の姿は、なんだか堂に入っていて、まるで長年連れ添った夫婦のようだ。

 ちらりとその様子を横目で伺い、遥は心に決めるのだ。

 ああいう風な二人になろう、と。


「しかし珍しいねえ。里が気に入ったかい?」

「はい。なかなか一人だと、東京から外に出ませんから。空気もきれいだし、山も川も素敵で、勉強の息抜きになるんです」

「ほう、それはそれは! お祭りは参加したのかい? うちの祭りは、ちょっと特別なんだよ。何せ玄神様が直接いらっしゃるからなあ」

「あ、はい。会いました」

「会ったのかい!? どひぇーっ」


 助手席に座った英美里が、送迎のおじさんと話し込んでいる。

 考えてみれば、玄帝の里と縁もゆかりも無いというのに、こうして二年連続で遊びに来ているのだ。

 しかも祭りの神様を直接見ていたり、英美里としてはこの里に並ならぬ縁を感じる。

 一向はめいめいに楽しみつつ、里を目指した。

 一名、静かに気配を殺して小鞠に見つからないようにしている淳平を除き。




「そんなわけで、女子はうちの実家の大部屋を使うことになります」

「おおーっ」

「男子は?」

「男子は三人しかいないからなあ。庭でテント生活かな」

「ひでえ!」


 早速到着した一行。

 大きな玄帝流宗家を見学し、道場を見て回った後、荷物を置く下りとなった。

 その上での部屋割りの話である。


「男子が三人……? ええと、坂下先輩、村越先輩、淳平と……」

「それで三人でしょ。一弥は女の子なんだから」

「げげえっ」


 一弥は愕然とした。

 精神的には男のつもりなのに、肉体的な理由で女子側に組み込まれてしまうのか。


「正確には女子のうち三人は……」


 勇太は言いかけて、英美里がその辺の事情を知らないことを思い出す。

 咳払いした。


「ま、まあ女子六人だね」

「六人分ですね」

「お、俺も結局カウントに入るのか……」

「夜鳥くん、ちゃんと女の子らしくしないと、丸山先輩に怪しまれちゃうから、しっかりね」


 遥に念を押され、一弥はぐったりとした。


「そんじゃ勇! あたしたちはちょっとその辺回ってくるから! ほら行くわよ丸山さん!」

「はーいっ」


 そんな事をしていたら、城聖学園の豆タンク、小鞠がすっかり痺れを切らしてしまったようだ。

 あろうことか、鈴音ばかりではなく英美里をつれて、外へと出て行ってしまう。


「うーむ……小鞠ちゃんが気を吐いている」

「テンションたけえ……。あの人たち、長旅の後なのになんであんなに元気なんですかね」

「さあねえ……。あ、淳平が捕まった」


「うぎゃー」

「あんたもついてきなさいよ! 案内なさい! ほらほら!」


 勇太、遥、一弥は見なかったことにした。


「それじゃあ、残った僕たちで準備しちゃいましょうか。あと、その、男子も外だとかわいそうなんで、どこか部屋を用意してもらえたら……」

「うんうん、テントっていうのは冗談。客間を貸してもらえるはずだよ」


 心優しい遥の助言のお陰か、男たちは屋根のある生活を送れるようである。

 かくして、お里での生活がスタートする。

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