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ダチが女になりまして。三年目  作者: あけちともあき
三月~あるいはエピソード・ゼロ~
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玄神の呪い(?)に挑め! その4

 朝になったのである。


「なんだ、この沼か」

「この沼でしたか」


 腕組みして立つ龍と心葉の姿。

 どうやらこの二人、何やら心当たりがあるらしい。


「ぼ、僕はちょっとこの雰囲気苦手だなあ……」


 ここは、里にある大きな沼である。

 地元の人々は池と呼ぶが、まあ都会からやって来ると、これはどう見ても沼である。


「池かと思ってたぜ……」


 一弥が唸った。

 ここは、伝承に伝えられる、里の神様が住まう場所なのだと言う。

 道理で遊泳禁止である。


「心葉さんたちはここで何をやったんですか」


 淳平の質問に、心葉は重々しく頷いて見せた。


「伝説の破壊を行いました」

「は!?」

「はい!?」


 目を剥く、一弥と淳平。

 この人は何を言っているんだろう。理解できない。いや、理解したくない。


「沼の底をさらったのですが、まあ何も出てこなくてですね。石像が出てきたのです。それを、レヒーナさんが」

「レヒーナさんが!!」


 反応するのは淳平である。

 あの人は何をやってくれてるんだ! と天を仰ぐ。直接の面識はほぼ無いものの、宗主であるホセの妹君である。


「えいっとばかりに投擲しまして、ほら、あそこの欠けている岩に当たって割れまして」

「割れた!!」

「ひええ」

「その後何も無かったので問題ないでしょう」

「まあ、何かはあったんだけどな」

「ありましたか」


 話に入り込んできたのは龍である。

 それに、心葉がいかにも間抜けな返答を返す。どうにも緊張感に欠ける光景に、遥はクスクス笑った。


「でも、去年の夏は楽しかったね。僕は巫女さんなんてって思ったけど……これはこれで貴重な体験だったと思うよ」

「ああ。遥の巫女姿は可愛かったなあ。え、心葉さん? ま、まあ綺麗だったんじゃないか」

「あー、その時レヒーナさんも巫女してましたもんねえ」

「マジで……? 俺、遥さんも心葉さんも、レヒーナさんって言う人も見てねえよ……!」

「おやおや一弥。そいつは人生で最大の損失だよ……!」

「おのれ、おのれ淳平……!!」


 どうやら昨年のギャラリーの中に淳平がいたらしい。

 一弥は彼なりに忙しかったらしく、山車が出る日にはお祭りに参加してなかったようだった。


「どーれ」


 何やら声をあげるなり、心葉が持ってきていた長い棒を、おもむろに沼底に打ち込んだ。


「あっー!!」

「な、な、なにしてるんですかっ!!」


 一弥と淳平が飛び跳ねて仰天する。


「何って、玄神とやらを探っているのです。そらそら、出てきなさい」

「こえー、この人怖いもの無しだ」


 昨夜、心葉の裸身に感じたときめきなど吹き飛んでしまう一弥である。


「よし、俺も」

「二人がかりで池を棒で!!」

「恐ろしい恐ろしい……って、黒沼先輩何してるんですか?」

「あ、うん」


 淳平の横で、遥がスケッチブックをパラパラ開いている。

 それは、昨日使っていたものとは違う、ちょっと古いもの。


「去年ね、玄武の石像をスケッチしたんだ。それを思い出して」


 ぱらりと開いたページ。

 そこには、実におどろおどろしい雰囲気の玄武の石像が活写されていた。


「うお」


 淳平が一瞬たじろぐ。

 ただの絵であり、鉛筆の後が前のページに写ってしまっている。無論カラーではなく、白黒だ。

 だというのに、見るものに何やら威圧感を与える一枚だった。


「そういえば……色々軌道に乗り出したのって、この絵を描いてからだったような……」

「黒沼先輩、何かしらこの絵に塗りこめたんじゃないですか……?」

「あり得ますね」


 心葉がやってきた。

 どうやら池底を棒でかき回すのに飽きたらしい。


「あの石像が玄神だったとしたら、それを書き写した遥さんのスケッチに、かの神の半身が塗り込められたとしても不思議はありません。古来にもそんな話はよくありますしね。化け物を絵に封じると言うケースもあります」

「あー、それであいつ、煙みたいな姿で弱々しかったんだな」


 龍は、納得した、と言う顔で呟いた。


「え、龍、何か知ってるの?」

「おう。お前の巫女姿の山車をな、ふらふらと煙みたいなのが追いかけていったんだよ」

「あの煙……!」


 ちょっと青ざめる遥である。

 確かに昨年、巫女服の合わせをしていた時に見た記憶がある。


「なんか、僕や金城先輩を目当てに動いてきたから、凄く怖かったんだよ。でも、なんだかレヒーナ先輩や心葉さんが凄く苦手みたいで」

「それで私たちが一緒にお供をしたんですねえ」


 今明らかになる新事実! という顔の心葉であった。


「あの、去年もその話をした上でお願いしたと思うんですけど」

「……そうでしたっけ」

「そう言えば」


 何やら龍が思い出したようである。

 心葉のぼけっぷりはスルーされてしまった。


「ここにさ、俺が確か代わりの奴を……」


 龍が案内したのは、沼に注ぐ小さな流れの先にある、手作り間溢れる可愛らしい社だった。

 その中に、何やらチープなものが納まっているではないか。


「あ、大怪獣ガメス……」

「その人形だ。こいつをご本尊代わりにしてやったんだよ。あんまりにも弱っててな」

「じゃ、じゃあ、玄神様はここにいるっていうのかよ!?」


 ごくりと唾を飲む一弥であった。

 今、運命の対面……というやつだ。

 だが、じっと見ていても、何も現れる気配が無い。

 もしや、やはり神様と言うのはいないのではないか。

 一弥がそんな疑惑を抱いた時、龍が動いた。


「おーい、俺だ、俺。いるなら出て来いよ」


 龍の声に呼応したのか、一瞬、周囲の日差しが(かげ)った。

 吹き抜ける風が肌寒いほどのものに変わり、辺りの雰囲気が変わる。

 何か、人ならざるものが発する気配に包まれたのだ。

 見れば、小さなお社の扉が小さく開いていた。


「お、いたな。ちょっと頼みがあって来たんだが」


 龍には何かが見えているらしい。

 心葉もまた、開いた扉の奥を見据えている。

 だが、一弥にも淳平にも、そこには何も見ることが出来なかった。


「いるよ、煙みたいなの」


 遥に言われて、なるほど、いるのかと理解する事ができた。

 どうやら、自分たちは大変に霊感みたいなものが弱いみたいだ。


「こいつが女になっちまって困ってるんだが、戻せないのか?」


 龍の言葉は大変分かりやすい。

 何やら、言葉ではないもので意思疎通を始めたようだ。

 龍がうんうんと頷いている。


「力が? 半分封じ込められて……ははあ……、なるほどな。じゃあ遥に纏わりついたのは、それか。分かった分かった」


 龍が振り返る。

 どうやら、彼と玄神のやりとりで察したらしく、遥は古い方のスケッチブックを開いた。

 びりっと一枚の絵を切り取る。

 それは、玄武の石像の絵である。


「いいか?」

「うん、いいよ」


 遥の許可を得て、龍はこの絵を目の前で真っ二つに引き裂いた。

 すると……。

 何か、社の中にあった、亀の怪獣フィギュアが見えにくくなった。

 社の中が、一弥と淳平にも分かるほど黒い影に包まれたのだ。


「お、力が戻ったな。で、どうだ」


 また、何やらやりとりが始まる。

 ふむふむ頷く龍。

 そして、遥を見て、悲しそうな顔をした。


「いや、遥はちょっと。あ、いや、あいつの意見じゃないが……」


 遥が首をかしげた。


「うむむ……」


 何かを伝えられたようだった。

 難しい顔をして龍は振り返った。


「あのな、結論から言うと……完全には戻らない。女になった歳月が長いほど、定着してしまって戻らなくなる。だが、遥や、金城先輩、あとは一弥は可能だそうだ」

「……え、ま、マジで……!? お、おおお、おおー!!」


 一弥は驚愕し、喜びのあまり飛び跳ねた。

 そして濡れた足元で滑って転んで淳平を巻き込んだ。


「ぐわーっ」


 龍は難しい顔をしている。


「で、遥は、どうする? この玄神の気持ち的に、今回の俺の行為に対して見返りとしてやってくれるらしいが……」

「僕は」


 ちょっと思案して、遥は微笑んだ。


「僕は、このままでいるよ。だって、龍はその方がいいでしょ? 僕は龍がそうして欲しい方にするよ」

「……!!」


 何やら衝撃を受けて、龍は天を仰いだ。


「遥ーっ!!」


 熱烈なハグである。


「うわー」


 心葉が一歩退いた。


「村越くん。気持ちは分かりますが、かの神様と意思疎通できるのはあなただけなんですから、もっと詳しく説明して下さい。一応うちの姉の将来もかかっているんですから」

「あ、悪い。取り乱しました。ただまあ、簡単に戻れるわけではないらしく、そいつの気持ちが男の方でしっかり固まれば、一年ほどで完全に男に戻れるとか。男と女で揺らいでると、まあどっちでもないものになると。あとは、女の気持ちのままでいると……一年ほどで完全に女になるそうだ」

「断然俺は男になるね!」


 一弥が断言した。

 そこに、何かフラグの香りを感じる淳平である。


「これは早速、勇太さんに伝えねば!!」

「あ、おい待って一弥!! 足元滑るからって、さっきも……」

「うわーっ」

「ぐわーっ」


 騒がしい二人である。

 さて、金城勇太はどんな選択をするのだろう。

 淳平は考えていた。

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