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ダチが女になりまして。三年目  作者: あけちともあき
三月~あるいはエピソード・ゼロ~
3/81

玄神の呪い(?)に挑め! その3

 玄神の里にやってきたのである。

 季節は春。春といえば、桜なんかを想像する人も多いのだが、この地方、ソメイヨシノは植えられていない。

 山間に咲くのは、ちらほらと山桜。

 駅を出てからバスで少々。

 一山二山越えて行くと到着する、れっきとした田舎であった。


「まさかすぐにここに戻ってくるとは思っていなかった」

「ま、完全無欠の田舎町だよね」


 一弥と淳平がしみじみと呟く。

 同行する、心葉と龍、遥も夏以来の来訪となる。

 ただ、田舎町の春景色というのには馴染みがないから、それなりに新鮮味があるようだ。

 特に店というものも無いような町……いや、村の景色を物珍しげに眺めている。


「のどかで、いいよね、こういうのも……。あ、そうだ!」


 遥がリュックを降ろすと、その中からスケッチブックを取り出す。

 そして、鉛筆片手にサラサラと風景のスケッチを始めた。


「おおっ、久々に遥の肉筆か!!」


 何故か龍が大興奮して遥の背後から覗き込んでいる。


「これこれ、これだよ……! やっぱ遥は絵が上手いよな……。ああ、これが遥の絵だよ」


 最近はディスプレイ上でだけ描いていた遥である。

 ウェブ上のコミックとは言え、プロはプロ。なかなか仕事の外で絵を描くというわけにはいかない。

 そんなこんなで、最近すっかりと遥の生イラストに飢えていた龍であった。


「おー、マジか! 黒沼先輩超うめえ!」

「ほんとだー……って、この絵柄どこかで見たことがあるような」


 淳平はどうやら彼女の漫画の読者であったらしい。


「まあ、最近は似た絵柄の人も多いから」


 と遥に言われて、納得してしまう淳平だった。

 一弥は彼女で、遥をちょっとキラキラっとした尊敬の眼差しで見つめている。

 何故か背後にいる龍がドヤ顔だ。


「はいはい皆さん。さっさと動きますよ。いつまでもここに留まっているつもりですか。まずは今夜の宿になる夜鳥さんの家に挨拶に行かねばですよ」

「ええっ!? お、俺の実家に泊まるのか!!」


 いきなりの宣告に、仰天する一弥。


「兄貴たちにまた会うのか……!」


 うんざりした顔をしている。

 その理由が理解できる淳平はともかく、実家へ帰るのが嫌な理由が想像できない、龍と遥である。


「もしかして、夜鳥は兄弟と仲が悪いのか?」

「いんや、その逆ですよ。一弥のやつ、こうやって女になってから、物凄くちやほやされてるんですってば。こいつ、何気に女物の服を結構持ってるんですけど、全部こいつの兄貴たちが買ってくれたとかで」

「あー、あーあー」


 なんか分かってしまった遥である。

 高いところにある一弥の肩をぽんぽんと叩く。


「あのクソ兄貴ども、俺が女になり始めたとわかった途端、めちゃめちゃに甘くなりやがって……! そんなに妹が欲しかったのか……!!」

「なんというか、新鮮な人間関係ですね。さあ行きますよ」

「ちょ、ちょっと心葉さん!! 俺の話聞いてました!?」


 聞いているが理解する気はない。

 そんな冷徹な金城心葉は、夜鳥邸へと乗り込んだのである。



「まあまあ、そんなことが。男の子に戻れるんですか?」


 一弥の母は大変残念そうに言った。

 何故だか揃っている、一弥の二人の兄たちも、とても悲しそうだ。


「一弥、どういうことなんだ」

「俺たちはお前が妹になって、こんなに嬉しかったというのに」

「ええい、うるさい! 俺は男に戻りたいんだよ!」

「おおお、一弥、どうしてこんなになってしまったんだ!」

「俺たちの愛が足りなかったというのか! あ、金城のお嬢さん、それと黒沼さんのお嬢さん、お茶お代わりどうですか」

「あ、い、いただきます」

「どうも」


 一弥の兄、妙に気が回る。

 男ばかりの家に、一弥も含めて女子が三名もやってきたのだ。

 最愛の妹と、宗家のお嬢様と、そして何やら奥ゆかしい黒縁メガネの少女である。


「これが張り切らずにいられようか」

「おうよ、兄者」

「頼むからやめてくれ、やめてくれ……!」

「お前の兄弟面白いな……」


 しみじみ、龍は頷いた。

 そんな龍は、さすがに男女分けて泊まることができる客間が無かったため、黒金淳平氏の家に宿泊である。


「僕も正直、女子を泊めたかったんですけど」

「すまんな」

「仕方ありません」


 男たちは去っていった。

 ちなみに、一弥の兄たちという危険因子がいながら、龍が遥をこの家に任せた理由は簡単である。

 金城心葉がいるからだ。

 龍が知るかぎり、彼女は同年代の人間で一番強い。

 つまり、一番安心であろうと踏んだわけだ。心葉が言うには、もう一人自分と互角の女子高生がいるというのだが、そんな化物みたいな女子がぽんぽんいてたまるか。というわけで信じない。


 夕食は大変なごちそうが出た。

 そして、何故か心葉に背中を流してもらうことになった一弥。


「ふふふ、そうです。一般的な女子とはこれくらいでいいのですよ。勇太のあれは規格外なのです。反則です」


 ささやかな一弥の膨らみを見て、心葉は実に満足気に頷いた。

 一弥はというと、同年代の女性と入浴など初めてなのだ。

 湯加減ばかりでなく、終始真っ赤な顔をして過ごすばかりである。

 

「そ、その、俺は男なので、心葉さんと一緒にお風呂にはいるのは倫理的にいかがなものかと……」

「おや、見た目の肉体的には完全に女性になっているではないですか。何が問題なのですか」

「お、俺の心の問題ですっ!!」

「勇太はすぐにその辺り、女子っぽい思考にシフトしたというのに……往生際が悪いですね」

「いやいやいや!? 今回のは、俺が男に戻るための方法を探す旅行なわけですからっ」

「勿体無いですねえ……」


 心葉は小柄ながら、しなやかに鍛えられた、野性美を感じる肢体である。

 そんな一糸まとわぬ姿が、透明な湯船を通して見えている。

 こう、今はなくなってしまった部分に幻肢痛めいた疼きを覚える一弥であった。

 夜鳥一弥は、結構すぐに女性を好きになる。


 風呂からあがると、不肖の兄たちが遥を拝んでいた。

 何事であろう。


「何事じゃねえぞ!! 一弥、こ、この人はなあ、コロボンオンラインで連載中の新進気鋭作家、HARUKA先生なんだぞ!!」

「おおお、HARUKA先生が俺たちの家に……! ありがたやありがたや」

「あ、あのぉ、やめてくださいよー」


 遥は大変居心地が悪かったらしく、逃げるようにお風呂に行ってしまった。


「俺はてっきり、兄貴たちが遥さんを襲おうとしてるのかとばかり」

「そのような気配があれば、私が飛び出していましたね」

「馬鹿な!! 俺たちは紳士である! 断じてそんなことはしない!」

「うむ。HARUKA先生がスケッチをしていらっしゃるので、覗きこんだらその独特のタッチにティンと来たにすぎないぞ」

「……濃いですねえ」

「色々すみません」


 何故か一弥が心葉に謝ることになった。

 そして。


「……どうして俺の部屋じゃないんだよ?」

「ごめんねえ。一弥の部屋、今は夫婦のガーデニングルームになってて」

「なんで!? なんで出てってすぐにそんな風に息子の部屋をリフォームしちゃうの!?」


 というわけで、客間で川の字になる女子三人組なのである。


「ひとまず、この家からは玄神の気配は微弱にしか感じませんね」

「心葉さん、玄神の気配が分かるんですか!」


 驚く遥に、心葉はうなずいてみせた。


「伊達に、家の道場に炎神を住まわせていません。今は遥さんのご友人に憑いてますが」

「えっ」

「それはともかく、確かに玄神は立ち寄ったようですね。一弥さんのご母堂は、かの神の祝福を受けたようです」

「じゃあ、なんで兄貴たちじゃなくて、俺が……」

「一番玄神好みだったのでしょうね。性格的に」

「うっ」

「あれ、それってつまり……玄神は、自分の意思で僕や一弥ちゃんを女の子に変えることができるっていうことですか?」

「ええ、そう言える可能性は高いと思います。私に影響がなかったのは、炎神の加護が強かったためでしょう」


 玄神は心葉さんが怖かったんじゃないかなー、と思う一弥と遥だったが、それは黙っておくことにした。

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