報告会。傾向と対策とか。
「ぐふうっ、結構、いけるもんね……!」
「うっ、わ、私、もう、お腹いっぱい、すぎて、動けない……」
女子たち+1の目の前には、空になった皿があった。
あのハニトーを、一人一皿片付けたのである。
とりあえず、麻耶と楓が食べすぎでぐったりしている。
「正直な話、楓ちゃんが全部食べられるとは思わなかったよ……」
「うん、私、頑張った……」
弱々しく力こぶを作る楓である。
もういい、無理をしないでゆっくりしていて欲しいと願う勇太である。
「それじゃあ、話に戻りましょ。つまり、勇は男だってわけね?」
「元、男、ね」
「ふん、確かにそうよね。あんたの水着姿とか、どう見ても女だったしね」
「そりゃあまあ、もうついてませんので」
まじまじと勇太を眺め回す小鞠。
胸元で視線が止まり、ぐぬぬ、と彼女の唇からうめき声が漏れる。
「そ、そ、その胸は」
「もちろん天然ものだよ」
「おのれ」
「きゃーっ、くすぐったーい!? あの、麻耶ちゃんに利理ちゃんに洋子ちゃんまで、なんでみんなで揉みにくるのーっ!?」
「うーん、極上の柔らかさだねえ」
「坂下くんったら羨ましーい」
「ふかふかー」
ひとしきり勇太の胸を揉んだ後、女子たちは席に帰っていった。
肩で荒い息を吐く勇太。
「き、気は済んだ?」
「うん、確かに本物の胸だねえ」
みんな納得したようだ。
「ま、私としては勇が男でも女でも変わりは無いんだけどね」
男らしく言い放つのは夏芽。
「だって、そうじゃない? 私らが友達ってのは何も変わらないでしょ。些細な問題よ」
「些細かなあ……どうなんだろうなあ」
考え込む利理。
だが、勇太はというと、夏芽の言葉にちょっとじーんと来ている。
入学して一番最初に接触した女子が彼女なのである。階段から落ちかけたとき、抱きとめられた彼女の胸の感触も今は懐かしい。
「ハニトーお代わりする?」
「するー」
「あ、私は今度は、これを食べてみたいです」
栄と洋子と理恵子がまた何か注文したようである。
「それに私、勇の裸なら何度か見たけど、完全に女だったわよ」
「……取っちゃったの?」
麻耶の言葉に、一瞬黙り込む女子たち。
郁己は真っ青な顔をして何か抑えている。
で、少ししてから少女たちも真っ赤になった。
「ひ、ひ、彦根さん、何てこと言うのよあんた!?」
「えへへー、ついー」
「いや、その、取ったんじゃなくて、自然と無くなっちゃったんだってば」
「ふむふむ、それは、ホルモンバランスの異常でしょうか」
ちょっと頬を赤らめながらも、冷静な理恵子。
「あまりそういうケースは耳にしたことが無いのですが」
「あー、うん、そんな感じ。手術とかした跡無かったでしょ?」
「無かったわね。っていうか私が羨ましくなるくらいすべすべで綺麗な肌をしてたわ」
心強い夏芽の証言だが、後半のディテールはいらない。
また女子たちが群がってきたではないか。
同じ女であると思えばそこまで興味は無いが、男だと分かると興味を抱く、年頃女子のサガである。
「ひえー!?」
さんざん撫で撫でさわさわされて、また体力を奪われる勇太。
「あれだけ夏場に日焼けしていたはずなのに……! 恐ろしい子!」
「私は結構スキンケア気を使ってるんだけど、男の方が肌がきめ細かい……!?」
「あれ、小鞠ちゃんも同じくらいもち肌だよね」
「ほんと?」
洋子の言葉に、女子の視線が小鞠に向いた。
「な、何よあんたたち!? や、やめろー!!」
さんざん撫で撫でさわさわされて、精魂尽き果てる小鞠。
また落ち着いたようで、みんなは元の席に戻っていった。
「と、という訳で、私は男だったから、これは中学の頃の写真で間違いないよ! でも、今は確認してもらったとおり、完全に女の子だから!」
「彼氏もいるしねえ」
麻耶がチラッと郁己を見た。
「それに、うちが一緒にいて感じた限り、勇は間違いなく女子だったよね」
「そういえば一年の頃は最初、ちょっとぎこちなかったけど……。私に抱っこされてにやけてたわよね?」
「は、申し訳ありません」
夏芽に平身低頭する勇太である。
「よし、じゃあ勇が元男、今は女ってことでこの話は終ね。ってことは、あたし恋愛で男に負けたのか……ぐぬぬ」
「どうどう、小鞠んどうどう」
女子たちは疑惑の視線……とはならず。
散々勇太にぺたぺた触って納得したようだ。
目の前で、元男であると言っている友人は、現在のところ間違いなく女である。
彼氏もいるし、とても演技とは思えないほどベタベタとラブラブな雰囲気を出しているため、中身もかなり女である。
そういう結論になったようだ。
何より、勇太の一番の親友たる、楓と夏芽が擁護側についている。
この事態に最も疑念を抱いていた小鞠としては、割と納得できる答えが得られたことで、勇太が男であった件はよしとすることに決めた。
「っていうか、今まであたしたちに話さなかった理由はまあ想像できるわ。めんどくさいものね。それはそれでいいのよ。じゃあ、どうして三年目になろうかという今日この日に、こんないたずらが起こったのかしら」
びしっと小鞠はテーブルの上、学ラン姿の勇太の写真を指差した。
怪文書はテキストエディタで打たれたありきたりなゴシック体。
手がかりなどあろうはずもない。
「これってさ、悪意があるじゃん。間違いなく勇に敵意を持った人の仕業だよねえ。……小鞠ん」
「ちがーう!? あたしはこんな卑怯なことはしない! あたしは正面突破するわ!」
「小鞠は、正面からぶつかって玉砕するタイプだもんねー」
「うっ」
「うっ」
何故か、小鞠だけでなく郁己までダメージを受けた。
「と、とにかく。学内でさ、勇に敵意を持つやつなんていないと思うのよ。この学校ってびっくりするくらいお人よしの集まりだもの。勇を悪意からどうにかしようなんて発想、出てくるもんじゃないわ」
「つまりそれは……学外の人ってこと? それってやばいじゃん!」
麻耶が頭を抱えた。
学外の人間がいつの間にか入り込んで、こんな事をしたというのだろうか。
勇太と言う人間を陥れるためだけに、リスクを犯してこんなことをしたのか?
「……なんか、もう話題が変わっちゃってるみたいだけど……私、許された?」
相変わらず話の渦中にいるのだが、男、女問題から主題がずれてしまっている。
勇太は戸惑いがちに聞いてみた。
ふん、と鼻を鳴らす小鞠。
「はあ? あったりまえでしょ? 勇は勇じゃない。少なくともあたしらは二年とちょっと、あんたの素行をずっと見てて知ってるんだから。二年も嘘をつけるもんじゃないでしょ? 特にあんたの性格だと」
「うん、私は顔に出るね……」
「そそ、っていうことで、これからもよろしくって事。おっけ?」
麻耶が親指を立てて見せた。
利理も、洋子も、理恵子も勇太を許してくれている。いや、最初から許す許さないではなかったのだ。
彼女たちは、今まで見てきた金城勇太という人間を信じたのだ。
じわっと目頭が熱くなる勇太。
「勇、ちゃん。む、胸を貸す、よ!」
「楓ちゃーん!」
「きゃーっ」
ばっと手を広げた楓目掛けて勇太が飛び込んだので、非力な楓が倒れそうになった。
後ろからそれを支えたのは夏芽である。
「ま、そういうことでさ」
夏芽がウィンクした。
「その、勇の敵ってやつを、まずはどうにかしなくちゃね」
これが、その場の総意であった。
「でさ、他の子たちにもその辺説明すんの?」
「あー……どうしよっかなあ……」
今後の事は、またその時に考える。勇太はそういうことにした。