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ダチが女になりまして。三年目  作者: あけちともあき
三月~あるいはエピソード・ゼロ~
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玄神の呪い(?)に挑め! その1

3月度は一弥と淳平のターン。

「まずい……こいつはまずいよ一弥」

「な、な、何がまずいって言うんだよ」


 もうじき、城聖学園高等部の新一年生となる、二人組の学ラン姿が話し込んでいる。

 片方はふんわりした印象の男子生徒。ちょっと眠たげな表情は、どこか猫を思わせる。

 もう一人は、短い髪の少年。肌はきめ細かく、まつげが長い。一見すると快活な少女を思わせる外見をしている。それも当然。彼の肉体は、半分ほど女の子になっているのだ。

 これというのも、どうやら玄帝流の里というところにかかった呪いというか、なんというか。

 本来ならば十数年に一人でるような、男性から女性に変わる体質の持ち主が、近年は当たり年。

 なんと四年連続で出たというのだ。

 ちなみに原因は判明している。

 この手の調査の権威である、金城尊教授と言う人が、


『玄神なるものが見初めた女性が産む子が、男であれば女になってしまう』


 というのだ。

 オカルトである。

 ちなみに、選ばれる対象としては、玄帝流の里で目立った娘ということになるのだが、毎年行われる祭りの巫女を務めた娘が、犠牲者(?)の母親には多かった……いや、母親全員がそうだったというのだ。

 この辺り、大人の事情で秘密にされていることである。

 一弥は三人兄弟の末っ子であり、母親は三十年前に巫女を務めた女性。

 確認されている、一つ年上の女性化した少年の母は、十七年前。この人は結構特別製らしく、玄神様じきじきの子供を産んだらしい。

 そして、二つ年上の女性化した少年の母は、なんと玄帝流宗家のご令嬢。金城尊教授の奥様である。これが二十年前。

 三つ年上は三つ子で、そのうち二人が男性化と女性化したという、なんとも意味がわからない状況。これが二十五年前の巫女の子どもたちだとか。

 彼女たちの特徴は……皆、大変な美女であることである。

 玄神は面食いであった。


「一弥……。お前さ、僕に隠しておけると思ってんの? 付き合いどんだけ長いと思ってんの? むしろ立会回数百回じゃきかないよね? 僕に隠し事とか出来ないよね?」

「なっ、んなことねえよ!! 俺はあれだよ、パーカーフェイスってやつだよ!!」

「ポーカーフェイスだよね? あと一弥って全部表情に出るよね?」

「ぐぬぬ……!!」


 隣り合って座る、とある公園である。

 一弥少年は悔しげに歯噛みした。

 飲み終えたコーラの飲み口をがじがじと(かじ)る。彼の歯並びは実に美しかった。


「淳平、お前、俺の何が分かるっていうんだよ!? 言ってみろよ! 外れてたらぶっ飛ばすからな」

「……本当に隠せてるつもりか? あのさあ……一弥、あの子を好きになったろ」

「えっ!!」


 一弥の顔が高速で百面相した。

 あんぐり口を開けて唖然とした顔になり、続いて青くなって狼狽し、すぐに真っ赤になって挙動不審になり、そして怒りだした。


「おおおおおおおお、お前ななんあああああなんでそんなばば、馬鹿なことを」


 図星であった。

 これ以上ないほどに図星である。

 夜鳥一弥は、さきほどキャンパス見学で一緒になった勝ち気な少女、板澤鈴音に一目惚れしてしまったのである。


「一弥はさ、これから女の子になるわけだ」

「ぐぬぬ」

「だから、世間は君を女の子と見るわけだよ」

「ぐぬぬぬ」

「女の子が女の子を好きになって、どうなんだろうね……。いや、僕は性的マイノリティを否定するつもりはないよ」

「おお、男が女を好きになって悪いのかっ」

「おっ、開き直ったね! それは悪く無い。問題は君が女の子になると言うことなのだ」

「むきい!」


 一弥が暴れた。

 ひとしきり暴れて、疲れてベンチに座り込んだ。


「やべえよやべえよ」


 今度はすごく動揺している一弥。


「俺は今日学ランで来たのに入学式は女子の制服なのか……!? い、いやだあ」

「ようやく現実を見つめたか……」

「淳平はずっと男だから気楽なもんだな! 女の苦労が分からんのか!」

「いや、分からないけどね!? いきなり男と女の立場を使い分け始めたね!?」

「くっ、ど、どうにかしたい……! うちのお袋はもう諦めモードなのだ……! 兄貴達も俺を見る目が全然変わってるし……!」

「むう……」


 淳平は考えこんだ。

 中学卒業を終え、これから長い春休みが待ち構える彼らである。

 何かをするべき時間はたっぷりとある。


「対策を立てられないことはないと思うんだよね」

「なにい!!」


 一弥が勢い良く立ち上がった。


「ほんとか!!」

「今日、勇太さんがいただろ?」

「おう!」

「てことは、金城教授と渡りをつける手段が出来たってことじゃん」

「おお!」

「紹介してもらって、研究してもらおう。っていうか、もしかして対策がもう立てられているかもしれないぞ」

「マジか!!」

「いや、憶測だよ」


 一弥がしなしなっと崩れ落ちた。

 おもしろいなー、と淳平は目を細める。


「しかし、僕はてっきり一弥は勇太さんを好きなんだと思ってたけど」

「ああ、いい匂いだった。だけど、それとこれとは別だろ」

「現実的なところで手を打つことにしたんだね」

「人聞きが悪いなお前!?」


 また騒ぎ出す。

 そんなところで、


「おや」


 声がかかった。

 振り返ると、勇太によく似たブレザー姿の少女が一人。

 金城心葉。勇太の双子の妹である。


「見覚えがある人が騒いでる気がしたら……」

「心葉さん!!」


 一弥が平伏せんばかりにかしこまった。

 金城心葉は玄帝流ではない。

 だが、炎帝流を身につけた使い手。実力派未知数。昨年初めて玄帝の里にやってきた。

 そこで、一弥はちょっと顔見知りになったわけである。


「夜鳥くんでしたね。何の御用でしょう。……分かりました」

「何で分かったんですか!?」


 まだ何も言っていない。


「父さんが、玄神様が悪さをした結果が今アルバトロス状態とか言っていましたので」


 なるほど、性別が変わった人間五人目ということか。


「その相談でしょう」

「話が早いです」


 淳平は関心したように頷いた。


「しかもお綺麗です」

「ふむ、君はそういう手合いですか」


 冷静に見つめ返してくる心葉である。

 これは硬そうだ、と淳平は思った。


「一弥の恋の悩みを解決するため、この症状をなんとかしたいんですよ。金城教授の助けを借りたいと思いまして」

「なるほど。お二人は、勇太と郁己さんとは違った関係のようですね」

「さすがにこいつを女として見るのは無理です」

「なにい」


 一弥がぶうぶう言ってくる。

 お前は女になるのが嫌なんじゃないのか、どっちだ。と淳平は思いつつ。


「まあそういうことです」

「なるほど。では案内しましょう」


 二人は、心葉の導きに従い、現在リフォーム中の金城邸ではなく……金城夫妻が住んでいるウィークリーマンションに向かったのである。

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