第六弾『俺は弾丸』
【*】
「ねぇ! ねぇ! どうなってるの?」
鍵子が、怒鳴って聞いてくる。
「今、あなたは狙撃された。それをタキが守った。それだけ」
エインセは冷静そう説明する。
「そう言っても彼、打たれてたわよ! 大丈夫なの!」
「大丈夫。あの程度で、タキは死なない」
「ああ! 分かったわ。防弾チョッキでも着てたのね」
勝手に納得した鍵子にエインセは言い返す。
「そんな物、制服の下に着れない」
「え? じゃあ、彼は……」
「多分血まみれ」
エインセのその言葉を聞き、青ざめる鍵子。
「じゃあ、早く救急車を呼ばないと!」
その言葉を聞き、エインセが立ち止まる。そして鍵子に振り返る。
パンッ!
乾いた音が廊下に響き渡る。エインセが鍵子の横っ面を叩いた音だった。
拳で殴られなかっただけ手加減している。
「甘く見ないで! 私達の隊長はそんなに柔じゃない。今も貴方を守るためになれない護衛戦をして戦ってる。きっと怪我をしてるこの瞬間も」
そう語るエインセの瞳には何か強い意志がある様に、その時、鍵子は感じた。
【*】
「おいおい。タキ本気でやる気か? その怪我で」
由美子は、痛々しい環の格好を見て言う。
環は簡単に言うと狙撃体制に入っていた。
あの後、環は由美子に、自分とエインセが持ってきていたギターケースを、近くの空き教室に移動させて貰い、椅子に座って狙撃体勢に入っていた。
「なら、お前が変わってくれんのか?」
環は脂汗を頬に流しながら、スナイパーライフルを構える。
「変わりたいのは山々だけど、私にここまで距離が離れてる精密射撃なんて細かい真似出来ない」
由美子は悔しそうに俯く。
「なら、大人しくスポッターでもやっててくれ」
スポッターとは、狙撃手を狙撃に専念するために周囲の状況や命令伝達、場合によっては接近する敵を排除する役割を持つ者の事だ。
「……了解」
由美子は渋々座り、望遠鏡をのぞく。
「周囲状況問題なし」
由美子の言葉が心音と共に鳴り響く。
『俺は弾丸だ。敵を追い詰め相手を貫く兵器だ。なら、今から打ち出すこの弾は俺自身だ。絶対に外す事はない』
環は自分にそう心の中で言い聞かせる。
「行くぞ」
「ああ」
環は狙いを絞り、引き金を引いた。
【*】