第三弾『何年ぶりかの学園生活』
学園生活レッツエンジョイ!
【*】
「で、今日からまた学生しろってか勝手だな。相変わらず勝手過ぎるぜ、親父」
環は溜息を吐いて、空を仰ぐ。環は今、学生服を着ている。しかしそれが、とんでもなく似合っていない。環としては今すぐ、脱ぎ捨てたくなる程だった。
何故こんなことになっているかと言うと、昨日本部に帰るすぐに、指令書が届き、それが【SKR】では珍しい護衛任務だったのだ。
「タキ。文句よくない。あくまで任務のため」
全く抑揚の無い声でエインセが、環を諌める。ちなみにエインセも学生服を着ている。
背中には、大きなギターケースを担いでいる。
エインセは環の一つ年下なのだが、今回は環のバックアップとして、学園に潜入するので、環が一つ下の 学年で転入する。つまり同学年として同じクラスになる予定なのだ。
『まあ、私の授業を受けてるから、一般教養はもう納めてるから、学校に行く必要はないけどね』
耳にしたワイヤレスイアフォンに扮した無線から、結城の声が聞こえる。
『しかし、タキさんは相変わらず、普通の服が似合いやがりませんね。ブレザーを着ても、ヤクザに見えるほど目つき悪いとか、ある意味才能っすね』
無遠慮な玲奈の声を聞くと、環は溜息が漏れる。今回は予備員扱いなので暇なのだろう。
『そうだな。タキは目つきが死ぬほど悪いからな。それより、どうやって護衛するんだ?』
由美子は純粋にそう聞いてくる。まあ真面目な癖に変なところでいい加減だからよく弄られるのだが。
「なんか、着いたら校長室で入学手続きをするらしい。その時に合わせるつもりなんだと」
環達がそんな話をしていると学校に着いた。
【私立桜花学園】
そう校門に書いてあった。
「さてと行きますか」
「うい。行こうタキ」
そう二人で言い、門に入ろうとした瞬間、急に環の顔に拳が飛んでくる。
「?」
環は首を傾げながら、拳を避け、鞄を落とし、右手で拳を横から掴み、左手で相手の腕を固定する。そして相手の拳の持ち方を変え、そのまま一気に上に押し上げる。するとゴキッと嫌な音が鳴る。
「いてぁぁぁぁぁっっっ」
相手はそれをくらい、のた打ち回る。
まあ、骨は折れていないだろう、加減はした。
「このやろ!」
襲撃犯はどうやら二人いたようだ。もう一人殴りかかってくる。
環は拳を避け、今度はあっさり投げ飛ばす。そのまま、腕を逆手に変え、肩の関節を決める。
「あがががが。腕がぁぁぁぁ」
男達を見ると、がたいの良いスーツ姿のサングラスをしていた。
(こいつら【SP】か? 違うな。差し詰め、雇われのボディガードマンってとこだろ)
あんまりうるさかったので、肩の関節を外す。
「ぐがぁぁぁぁ。腕が、腕が」
「関節を外しただけだ。喚くな、素人」
環は二人のスーツ姿の男の溝内を蹴り、気絶させる。
その後、左足を気絶した奴の背に乗せ、踏む。
「こっちは終わったぞ。イセ」
環がエインセの方を見る。それを見て環は冷や汗をかく。
スーツ姿の男は一人だったが、明らかに自分より小さい相手に負けている。両膝を膝を地面につけ、襟を掴まれ、顔はボコボコになり歪んでいる。
対するエインセは、左手で襟を掴み、右手で容赦なく拳を叩きつけていた。顔には少し返り血が飛んでいた。
「ん? タキ。こっちも終わった」
環の声に気付くと、左手を離す。襟を掴まられたスーツ姿の男は無残に崩れ落ちる。
「おいおい。やりすぎだろ。」
「小学生と間違えられたし、襲われたから」
理由を聞き、何があったかを察してしまった。
「明らかに前半の理由で殴ったなお前」
「だって、私、子供じゃない。もう大人」
プクッと頬を膨らませるエインセ。
(ここで、『自分の事を大人と言ってる間は子供』とか言ったら、見るも無残な姿にされるな)
「あいあい。さてと。じゃあ、仕切り直して行くか」
そんな事を言って歩こうとすると、気が付く。いつの間にかギャラリーが出来ていた。
そして先頭では竹刀を持った一人の女生徒が行く手を阻んだ。
「あ、あなた達! ここの制服を着ているようですが、何者ですか!」
環はそれを見て頭を抱えたくなる。
時間をかけたくなかったのに、何だか面倒な事になっている。
「あ――。えっと、一応、転校生なんだけど。そこ通して貰える?」
「信じられません! 大体、彼らは、ここの生徒を襲ったりしません!」
説得を試みるも全く応じてくれない。
「えっと、そう言われてもな。どうする? イセ」
「どうするか決めるのはタキ。私の仕事じゃない」
エインセはそう言い、先ほど顔に飛び散った血を拭く。
「おいおい。んな、いい加減な」
環はとうとう頭を抱える。
「それより、あなた達は何者ですか! 本当の事を言ってください!」
竹刀を持った少女は警戒しながら聞いてくる。
「そう言われても、俺らここに転校しにきただけなのに。大体、見た所同い年ぐらいだろ。何を、んなビビってんだ?」
環が聞くと、竹刀を持った少女は困る。
「そ、それは」
見た方向はくたばっているスーツ姿の男達の方だった。
(なーる。俺達が怖いのか。さて、どうするかな?)
そんな事を考えて空を見ると、何かが見える。
(あれは……何だ?)
「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁん!」
よく見ると人の形をしている。
「ん?」
(あいつ、今、お兄ちゃんって……。まさか!)
「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁん!」
「あ、相理!?」
今、空から落ちてきているのは、環の妹、大門相理である。実に会うのは六年振りだが、今はそんな事を言っている場合ではない。
相理はそのまま、環に向かって落ちてくる。
「おいおい。マジか、っんご!?」
環は仕方なく相理を受け止める。幾ら痛みを感じない環でも、今の衝撃は堪えた。
しかし下敷きになり、気絶した。
「いててて。あ、お兄ちゃん! 会いたかった!」
相理はヒシッと、気絶している環に抱きつく。
「「「「「お兄ちゃん!?」」」」」
周りのギャラリーはそれを聞いて驚愕し、エインセは、ああ、またかと言うような視線を環に向け、鞄から出したクリームパンをモサモサと食べていた。
【*】