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  作者: 古澤深尋
2/2

伝播

 法廷で、ひたすら黙秘していた被告が、最後にやっと口を開いた。

 やったことははっきりしている。

 元妻と、再婚相手の男性を誘拐、惨殺し、遺体をバラバラにして公園に捨てた。

 場所も、凶器も分かっている。


 動機だけが分からない。


「裁判長、私が動機について述べるのはこれが最初で最後です。聞いて頂けますか?」


 被告は、吶吶と述べた。


 元妻とは結婚5年で別れたこと。

 原因は元妻の浮気。

 証拠もきちんと揃え、勝利確実だったのに、裁判までもつれこんで敗訴したこと。


「その時の裁判官、行方不明ですよね?私が攫ってバラしました。」


 法廷内が揺れる。


「最後まで喋らせてください。」


 私は先を促した。


「ありがとうございます。」


 離婚時娘の親権を取られ、面会もさせてもらえなかったこと。

 再婚後5ヶ月で娘が死んだこと。

 体中痣だらけで、間違いなく虐待されていたこと。

 それなのに、児童相談所も警察も、二人に何もしなかったこと。

 幸せを全て奪われ、復讐しかなくなったこと。

 ちなみに今回、弁護士にそれら証拠を渡したが、全く採用されていないこと。


「もう、疲れました。娘の敵は討ったし、死刑でいいんです。」


 彼は年齢よりずっと老け込んだ顔を私に向けた。


「貴方なら不当判決が出されて何もかも奪われたらどうします、裁判長。」


 検事や弁護士を制止し、先に彼の証拠の再提出を命じ、彼が不当と申し出た当時の離婚関連の判決を取り寄せるよう指示する。


「先に申し上げておきますが、次回から貴方の裁判は別の裁判長が来ることになるでしょう。」


 その上で、と断り、断固戦うと言いたいところだが、自分にやましいところがあれば沈黙するかも知れない、と告げた。


「そうですか…申し訳ありませんでした。奥様を殺害して。」


 あ、ちなみに、と彼は爆弾を放り投げる。


 奥様、今回の被害者間男と出来てましたよ、私の証拠の中にその件も入ってます、と続けた。


 後はよく覚えていない。



 結局彼には死刑判決が出され、彼は粛々と受け入れた。

 国選弁護士だった人物は解任、懲罰を受けたと聞いた。

 弁護士資格を剥奪されたのだろう。

 彼の供述通り、某県山中より当時の裁判官の遺体が、私の妻の遺体が見つかった。

 ぐずぐずに腐敗し、歯でしか判別出来なかったらしい。

 現地で荼毘に付され、遺骨が戻される予定だったが私は引き取りを断った。

 理由は手元にある。


「不倫のために私の子を堕ろしていた、か…」


 堕胎同意書には殺された男の名前。

 妻は何を考えていたのか。

 

 不当判決、の言葉がちらつく。

 怒りのやり場がない。

 機会を奪った被告は既に死刑囚だ。

 黒い感情が私の中に渦巻く。


 そうだ、殺された間男の家族はまだ居たはず。

 妻の不倫を知っていて止めなかった奴らもいるな。

 ははは、大丈夫だ。


 奴らの地獄は、これからだ。







細部については現実と乖離があるかもしれません。

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