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通学にまつわるエトセトラ

作者: 森下青海

連絡先を交換してからしばらく経ったある日の朝。俺はいつも通りにいつもの場所へ向かう。


笹井の家に程近い四つ角。彼女を家に送った翌日から、平日は毎朝ここへ迎えに来ている。


「おや?」


いつもなら俺より早く待っているのだが、今日はまだいない。携帯を確認するが、特段連絡がない。


仕方がないので待ってみる。すると五分ほどして笹井がやってきた。


「先輩おはよう。遅れてごめんなさい。今日はちょっと支度に手間取っちゃって」


「おう。気にするな。時間に余裕はある」


そして鞄を持ってやろうとして、立ち止まる。いつもは鞄だけなのだが、今日は小さい紙袋がもうひとつ。


「その紙袋はなんだ?それも持ってやるからこっちに寄越せ」


「こ、これは大丈夫!軽いしも、問題ないわ!だ、だ、だから気にし、しないで!」


赤面しながら捲し立てる笹井。早口でどもるという、ある種器用なことをしている。


「何キョドってんだ?まあいい。なら鞄だけ預かる」


「あ、ありがとう先輩…」


「じゃあ行くか」


鞄を受け取り、歩き始める。



登校途中。会話をしながらゆっくり歩く。


「そう言えば、足の調子はどうなんだ?昨日病院行ったんだろ」


「もうかなり良くなってるって。痛みもほとんどないし、体育にもそろそろ出られそう」


「そうか。そいつはいいこった」


「そ、それでね…」


「どうした?」


下を向きながら『あの』『その』を繰り返す笹井。顔は見えないが、耳が真っ赤だ。


つくづく器用な奴だ。しかしひたすらに不気味だ。


「…ノストラダムス」


「…す?す、す、す…するめいか……って違うわよ!」


「異世界から戻ってきたか。何を言おうとしているかはしらんが、とりあえず落ち着け。ちゃんと聞いててやるから」


そして待つことしばし。


「……あ、あのね。よ、よければなんだけど…」


「ど?」


「足が治ってからも、い、一緒に登校して、も、も、もらえないかな、って」


ちょっと身体を縮こませながら、顔をこれでもかと紅潮させて聞いてくる。しかも上目使い。


答えは一択に決まっている。しかしこれは反則だろ。


「ああ、いいぞ。帰りは部活とかあるからアレだが、登校なら問題はない」


「ほ、本当!?」


「そう言った」


「ありがとう先輩!」


満面の笑みだ。全く、ステレオタイプなのにやけに可愛いな、こいつ。


「あ、あとそれとね…」


「それと?」


「……せ、先輩って、お昼はパ、パンだって言ってたじゃない?」


「ああ、そうだな。もっぱらパン食だな」


「そ、それでね。い、いろいろ助けてくれたから…」


「から?」


「お、お弁当…作ってきたの」


固まる俺。今この可愛い生き物は何て言った?


「弁当を?作った?俺に?」


「そ、そうなんだけど…め、迷惑、だった?」


「んなわけあるか。いただこう」


「よ、よかった。はい先輩」


持っていた紙袋を渡される。だからさっき拒否ったのか。


「…今日遅れたのはこれ作ってたからか?」


「そ、そうなの。ごめんなさい」


「ありがとな。嬉しいぞ」


頭を撫でてやる。


「うう…は、恥ずかしい」


どこまでも恥ずかしがる笹井だった。



そしてその日の昼休み。昼飯の時間だ。


紙袋から弁当を取り出し、自席で広げる。ふむ、これはなかなか。


二段弁当の一方は白米が詰まっている。他方には、きんぴら・ほうれん草のごま和え・ひじきの煮物・にんじんのグラッセ。


それにミニハンバーグっぽいものが二つだが、ソース等は掛かってない。しかし笹井がこれを作ったのか、正直驚いた。


「おい秋彦、今日は弁当か?珍しいな」


クラスメイトに声を掛けられる。


「ああ、そうだな。今日は弁当だ」


「ふーん。そうか。つかどうしたんだよこの弁当?」


「まあ、貰いもんだ」


「何だと?ま、まさか女子からか?」


「まあ、そうなるな」


「な、な、な、何だってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇうげっ!」


いきなりシャウトしたクラスメイトは英和辞書の喉輪突きで黙らせた。迷惑だからな。


弁当の感想?うまかったに決まっているだろ。


作り手が丁寧に作ったことが十分伝わるものだった。ちなみにあとで聞いたら、ハンバーグは『豆腐入り蒸しハンバーグ』だった。

お読みいただきありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたのであれば幸いです。


弁当のメニューは…クックパッドで調べてからにすればよかったかな、と思ったり思わなかったり。

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