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学園祭、それが学校の祭りであることは文字を見れば誰にでも想像できる。
ただし、この学校の学園祭は普通ではない。
時期が近いこともあり、英国からの留学生も参加するこの学園祭。
それが怪我人ゼロで終わったことは一度たりとも無い。
理由はもちろんある。この学園では学園祭を三日で行う。
校外からも魔術師たちがたくさん集まるし、自分の一派にという勧誘もまたここで行われている。
つまり、早い話がこれは文化祭と言う名目の魔術師獲得祭であり、もちろん行う側つまりは生徒側もそれを意識して行う。
ここの学園祭はスケジュールが決まっており、初日にクラス発表、二日目に生徒会企画、最終日には学園企画が待っている。
基本的にこれは祭りなので喧嘩はしないように言っているが、大体最終日には参加生徒数が半分にはなっているという……。
―――もはや、祭りといえないのではなかろうか。
実際、これによって進路の決まる人が居る祭りで、クラスでも結構やる気のある人が多い。たとえ最底辺でも魔術を見せれば気に入られる可能性もあるのだ。
むしろ、これにすべてをかけている。
故に、初日のクラス発表では一位になるために会議を行っていた。
「―――と言うわけで、クラス発表では魔術生存戦の実演と言うことでよろしいでしょうか?」
まばらな拍手。最後まで接戦を繰り広げ、最終的には魔術生存戦の実演に決まった。
魔術生存戦とは魔術を主体にし、ある一定フィールドで戦うバトルロアイアルだ。
制限時間は六時間でそれまでにどれだけの敵を倒せるかと言うものだ。
目立ちすぎると他のやつらに手を組まれるし、だからといって目立たないようにやっても敵を倒せないというなかなかに難しい。定石は最初は様子見に徹して後半に一気に倒すと言うものだが、それの裏をかいて最初に一気にやった後隠れると言う方法もある。
駆け引きが重要な魔術競技で国際魔術大会にもある魔術師の中ではメジャーなものだ。
「―――なあ、ちょっと手を組まないか?」
「―――なにで?」
「―――どうせならこの機に……」
早速駆け引きが始まった。刈谷としては勝つ気は全くといって良いほどないので適当なタイミングで降参しようと思っている。
「?」
ふとあたりを見渡すと自分に向けられている殺気が少々多すぎる気がする。いろいろ恨まれるようなことはしてきたかもしれないが、ここまで…具体的に言うなら男子生徒ほぼ全てに睨まれることをした覚えはない。
多少気になったが、理由も分からないのに言い訳をしても相手の怒りのボルテージを上げるだけなので無視することに決めた。
生徒会企画が発表された。
内容はかくれんぼ。
ここで、呆気にとられてはいけない。いくらなんでも高校生にもなって堂々と物陰に隠れたりはしない。
鬼は生徒会役員、全八名。会長、副会長、書記二人、会計二人、庶務二人。
隠れるのは午前午後とで二回に分けて行われるため、前半組みと後半組みに分かれる。
範囲はこの学校敷地内すべて、観客席は除き、そのほかの場所でなら立てこもろうが何しようがかまわない。因みにアウトになるのは魔術を当てられたとき。
言い方は悪いが、別に鬼を倒してしまってもかまわない。しかし、武器の持ち込みは禁止で鬼のみが持ち込みを許可されている。
学校のいたるところに使い勝手のいいアイテムが隠されており、それを見つけることでこのかくれんぼを有利に進められる。
ルール違反は武器の持ち込みと立ち入り禁止区域への侵入そして結界の使用。
結界を使ってしまうとさすがに六時間(制限時間)に壊せるかが微妙だからだそうだ。
―――畜生。
―――しかし面白いゲームだ。ちょっと遊んでみよう。
また、これでは手を組むのが推奨されている。チーム登録を行っておけば誰か一人でも生き残れたときそのチーム全員をクリアしたものとするらしい。(なお、チームの最大人数は六名)
「なあ、刈谷。あの企画組まないか?」
「どうしたんだ坂本。逃げるだけで良いなら別にを入れてもあまり良いことはないぞ」
「いや、結構あるだろ……」
刈谷があまり良いことがないといった理由は目を使っても使わなくてもそんなに結果が変わると思わなかったからだ。
坂本が変わるといったのは結界でなくとも、それに準じた動きを見せる魔法や転移魔法があることからいった。少なくとも、坂本では無詠唱の転移魔法は使えない。
「まあ、別に良いけど」
「―――じゃあ、作戦はどうする?」
「なあ、雫、お前はどうして僕の背後から現れてさも当たり前のように作戦を考え出すんだ?」
「決まっているじゃないの。私も坂本君のチームだからよ。ね」
しかし、その雫の目は反論は許さず、肯定しなければ死が待っているようなそんな気にさせるものがあった。あまり大きな声では言えないが、もしも小さな子供が見たら恐怖で小便を漏らし、腰が抜けて動けなくなるぐらいのものであった。
坂本も、かなりの修羅場をくぐってきた自信があるが、これほどの恐怖に立ち会ったことは後にも先にもこれっきりだと思いたい。と、後に語った。
閑話休題。
経過はともかく、坂本率いるチームには四人のメンバーがいる。
坂本、刈谷、雫、そして武藤。
「はじめまして、と言うべきかな、刈谷君」
「はじめましてじゃあないでしょう。まさか自分が騙されたといまだに思ってないんですか?」
武藤和也、いつか刈谷を探して教室までやってきた後さも当たり前のように吐かれた嘘を見破れず、本人と知らずに刈谷を探してどっかに行っていた男である。
「雫さん。よろしくお願いします。私が鬼からあなたを守りましょう」
「何を言っているの?あなたが私を守る?ふふふ、冗談がお上手なんですね。
守ってください。の間違いじゃないの?」
これなら無視されたほうがましだ。という台詞をこの後も言い続けているのだが、刈谷の良心がそれを聞き、記憶することを放棄した。
「雫とその取り巻きはおいておくとして、何でこれにまじめに参加するんだ?別に何処か行きたい一派があるわけでも、どうしてもいい成績を残したい理由があるわけでもないんだろう」
「刈谷、一応行っておくけど、俺たちは高校生だ。学校行事ぐらいまじめにやってるふりぐらいしないと駄目だろう」
坂本も、ふりと言う所がきちんとしている。
―――もし仮に、ここで学校行事ぐらいまじめにやらないと駄目だろう。といったら刈谷はまじめにやる。そう、まじめに殺る。こういった点では刈谷は悪ふざけが過ぎる。(と言うか悪ふざけと言うレベルを超えている)
「まあ、そんなことはどうでもよかったんだが……」
「じゃあ聞くなよ」
「―――あれ、そろそろ止めないとまずくないか?」
「おまえ、ここまで放置したのはわざとだろう!」
「気にするな」
なお、そのころ武藤は床に倒れこみ、ごめんなさい。と繰り返し続けていた。
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