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「信じられませんね。この大事な会議をすっぽかす馬鹿が居たということが」
わざわざ倒置を使わなくてもわかっている。……あれ、体言止めだっけ。
「聞いているんですか。まあ良いですけども」
聞いてません。そして、良いんですか。
刈谷と坂本はシャルロットさんに連れ去られ、生徒会の会議室に入れられた。
因みに今話しているのは現生徒会長様。名前は忘れたが、幼女である。
一応生徒の長なのに名前にちゃん付けで呼ばれている姿はなんとも笑えるものだ。
「まず、武本さん。死神の撃退の一部始終の報告をお願いします」
「そこの男が死神と交戦しているところに我らの迅速な行動によって助け、それを見た敵は我らが前に出たとたん逃げ出したのです」
これを要約すると、こいつが負けそうだったところを俺らが優秀だからすぐに助けられたよ。敵もそれを見てすぐさま逃げ出したよ。といっている。
―――単純に逃げたくても逃げれなかったけど雑魚がでしゃばってきたから僕を倒すこともターゲットを殺すことも出来なくなり、仕方なしに逃げたんだが、まあ黙っておこう。
「では、刈谷さん。何処か間違っているところはありませんか?」
「特にありません」
「それは本当ですか?」
「はい」
すると、頭上から魔力を感じる。
「!!」
反射的に目で見て、魔術によって迎撃してしまう。
あれは……固有魔法。
「…………」
「何のつもりですか」
そういって会長を見る。左手はすでに刀を持ち、右手はいつでも抜けるように手を添えている。
「…………」
周りから全く反応がない。坂本を見ると少々あきれている様子が見受けられるし、雫を見れば驚きの表情が強い。
刈谷が魔法を迎撃して刀を抜き、構えるまで1秒なかった。しかも、反射だったため無詠唱ではなく極理式でやっている。
無詠唱でも一瞬で魔法を迎撃できるわけではない。だが、刈谷は一瞬のうちに魔法を迎撃した。しかも、刈谷の目は変わっている。これに驚かないものはいない。
―――やっちゃったかな……。
「―――あれは、私の固有魔法で、嘘を聞くとその嘘の度合いに対して大きな威力で相手を攻撃すると言うものです。
では、あなたのその動きはどこで、そしてあなたは何者ですか」
「異世界で覚えた。あっちでは最弱の中級者とか呼ばれてた」
今度は攻撃されない。当たり前だ。嘘は言ってない。
少しはなれたところでは坂本が必死に笑いをこらえている。
―――そこまでおかしいか。
「では、その目は」
「…………」
答えない。答える気もない。というより、この目についてはいまいち自分でもよく分かっていないところがある。
原因、効果、対価。
その三つがどれもよく分からない。原因は気がついたら使えたから分からない。効果は魔力などの普通では見えないものが見えると言うことのみ。対価は魔力を使っていないから魔力を対価にするものではないと言えるため分からない。
魔術に限らず、この世のすべては等価交換によって成り立っている。
勉学にしろ、筋トレにしろ、友達と話すことにしろ、物を買うことにしろ……。
人の行うすべての行為は時間と言う対価を必ず払っている。物を買うときにはそれにお金がついてきたりするだけだ。
神か悪魔か何かは知らないが、そういったものに人は時間と手段を与えられ、それをうまく使いこなし生きた後、時間をなくし死んでいく。
だったら何もしなければいいかということになるが、何もしないと言うことをしていると自覚すべきだ。育成ゲームなどでキャラクターを育てるのと同じだ。
はっきり言おう。今ここが小説やゲームの世界でないということを証明することなど出来ないし、実は人の行動は何者によってか決められている可能性もある。しかし、それに人は気づけない。なぜなら、人はあくまでもその人に予測できることしか予測できないからだ。これは当たり前だと思うだろう。だが違う。事実は小説より奇なり、と言うことわざを知っているか?これは現実の世界で起こることは、人が考えて作る小説より不思議で複雑だったりすると言うことだ。これで気づくだろうか?
―――つまりは、あくまでも小説とは人の想像の範疇を出ないと言うことだ。
人の想像できる範囲が無限なら、小説より奇なりとは言わない。事実としてこんなことが起こるとは思わなかったと言うことがあるだろう。
バタフライ効果というものがある。これは通常なら無視できるような極めて小さな差が、やがて無視できない大きな差になることを言う。例えばだが、朝起きたら虫が飛んでいて鬱陶しかったから手で潰したとしよう。そしたら南極では火照りが続く……かもしれない。何か無意識にやったことが実は重大なことを引き起こしてしまうかもしれない。それをないと言い切れるのか。言い切れない。もしかしたら朝潰した虫はいろいろな因果の最初のところだったかもしれないのだ。
―――まあ、ほとんど考えなくても良いような確立だと思うが。
それを完全否定することは出来ない。これは人の想像の範疇を出ていないか?朝虫を潰したら南極で日照りが続くなんていちいち想像するだろうか?まあ、普通しないし、そんなことを考えている人を見たこともない。つまりはそういうことだ。人の想像には限りがあるが、実際に起こりうる事柄の数は人の考えられる量より多いと僕は思うのだ。
要は、この世界が本当に現実なのかもしれないし、本当は誰かの妄想かもしれない。
それを確かめる術を僕らは持たない。なぜならそれは人が想像できる範疇を超えた手段だから……。
閑話休題。
だいぶ脳内思考がそれていっているようだ。
よくあることだが、気をつけなければならない。しかし……。
「いまさらそんなことを考えるなんてな」
そう、いまさら。
僕があの世界に行ったこともバタフライ効果で起こったことかもしれないし、何気ない行動が僕にこの目を与えたのかもしれない。
もう会議は終わった。
生徒会長はあの隊長の間違いを見つけ出した。僕は実力の一端を十数人に知られた。
そういえば雫があの会議では一言も発していなかった。さすがに自分が狙われていた可能性が高いと言われて多少はしゃべると思っていたのだが、結局何も話すことなく終わった。
「刈谷」
後ろから呼び止められる。声から察するに雫だろう。
「どうしたんだ」
「正直に答えて、あなたは一体何なの?」
「何って、お前の知っているように異世界に飛ばされたことのある不運な一学生だったものだよ」
そういうと雫は一歩詰め寄ってきて、
「そんなことは知っている。私が知りたいのはあなたが何故魔術を使えるのかと言うこと。
あなたが生まれたときにはあなたに魔術の才能はなかった。魔法が使えるはずがないのよ。あなたに」
少しの間。
―――どういうことだ?そういった可能性は考えていなかった。僕は気がついたら目を使いこなしていたし、今思うとそれによって活性化された魔力によって身体強化魔法を使っている。それなのに、僕に魔術の才能がなかった?
「分からない。それははじめて知った。予想できるのは……」
何がある?元々魔術の才能がないものが僕レベルの魔術を使う方法。
「―――一応思いつくのはこの目だろう。だが、そうなるとこの目は何が原因で……?」
「つまり……」
「分からない」
結論だけ言えばそうだ。恐らくこの目が関係しているようだがそれに核心はない。それにこの目を手に入れた原因が分からない。
「―――少し前からそうかもしれないと思ってたけど、それってまさかSE?」
「―――SE?」
「ごめん。正式名称を精霊の目、スピリット・アイ。魔術師の目に精霊が住み着いてその精霊にあった効果を生み出すんだけど……」
「もし仮にそうだとしたら、その精霊は何だ?恐らくほとんどのものはこれで見えるんだが」
雫は黙ってしまう。そうだろう。だってそういった属性の魔力は観測されていない。
精霊は意思を持った魔力の集合体。真実を見せるとか、魔力を見せる魔術は存在しない。
魔力を普通の魔術師が視認する手はないのだ。
その後、ひとしきり議論し終えたが、結論は出なかった。一応可能性としてはこれがスピリット・アイである。そしてその精霊はいまだ観測されたことがない魔力のものである場合。もしくは検査のミス。と言う結論で落ち着いた。
感想待ってます。