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 彼はあせっていた。

 どれだけ打ち合っても決定的な隙を作らない相手。

 一撃もらう覚悟で突き進んでも、その一撃を打たず、決して自身に攻撃させない相手。

 魔力は底知れず、まるで自分が丸裸にされていくような目。

 そして、そろそろ来るであろう増援。

 どれか一つでもなかったら、彼はあせらなかっただろう。

 特に、目に関しては彼に恐怖を与えていた。


 彼は魔術師だ。

 暗殺者ではあるが、その身は名家のものだった。

 そう。だった。

 没落した名家のものはこういった裏の世界で生きている。

 彼は偶然と言うかなんと言うべきかは分からないが、固有魔法が使えた。

 己の武器の一撃をもらった相手を殺す魔法。いくつか制約はあるが、これはある一つの行動に特化していた。

 ―――そう、暗殺である。

 固有魔法からそうなったのか、それともそうなった後に固有魔法がついてきて、たまたまそれが都合よかったのか、それはどうだったかはもはや忘れた。

 だが、唯一つだけ真実にそうだといえることは自分が他の魔術師を恨んでいると言うことだろう。

 彼の親はその力が強かったから他の魔術師に疎まれ、社会的に抹殺された。

 魔術師は表社会の仕事につけない。正確にはつけるのだが、一般常識というものが圧倒的に足りないのだ。

 彼の両親の最後は彼の父親による無理心中。

 父親が自らの妻を殺したところを魔道警察に殺された。

 そして彼は一人になった。

 表社会で生きていくには常識がなかった。

 裏社会で生きていくには力がなかった。

その時、裏の犯罪組織に引き取られる。

 魔術の使える暗殺者としてか、都合のいい固有魔法の使える暗殺者としてか、彼にその記憶はない。だが……。

 ―――その生き方を不幸だと嘆いたことはない。

 暗殺者として、親を社会的に抹殺し、無理心中にまで追い込んだ魔術師に仕返しが出来る。

 彼への報酬はそれだけで十分だった。

 そこまでいたるのは楽だったとはいえない。

 十年以上、血反吐が出るまで訓練し、食事と睡眠以外は訓練に費やし、その実力を伸ばしていった。

 だからこそ、この異常に気がついた。

 ―――こいつは、何者だ。と。


 彼の考えは間違っていない。

 刈谷の魔力は異常であり、またその剣技はその見た目からは予測も出来ないほどに精錬され、また目がよすぎた。

 刈谷からすれば、魔力が多いのは異世界召喚によるものだし、剣技は固有魔法によって自然と頭に入り、また自然にできるだけのこと。目がいいのは生まれつきで理由があるのだがそんなものは今の刈谷が知っているものではなかった。

 はっきり言おう。さすがに3年間修羅場で生きてきただけあって、雰囲気はそこそこの実力者のものだ。しかし、魔力と剣技につりあわない。

 魔力はおいておくにしても、剣技は才能有る者が生涯をそれのみにささげたとしても届くとは言いがたいものであり、しかも届いたとしてもその技を身につけるのに十数年という歳月では足らない。

 すなわち、刈谷の戦闘を見たものは首をかしげる。あまりにもアンバランスなその姿と技に。



 刈谷は、後ろから来る味方に気がついた。

「ファイアボール」

 初めてこの戦闘で魔法で攻撃する。

 敵は不意をつかれ、大きく身体を引く。

「足止めご苦労。後は我々に任せろ」

 恐らく最上級生であろう味方のトップはこの戦闘を足止めといった。

 遠くからでも刈谷の戦闘はある程度見えているはずなのでこいつの底が知れる。

「こいつの攻撃は一発でももらったらやばそうなので……。

 ―――後は頼みます」

 そういうと踵を返し、相方の元へと歩き始める。

 刈谷の行動を見た死神は刈谷を殺そうと進むも刈谷よりはやり易いとはいえ、魔術師。しかも10人以上を相手にするのは得策ではないと判断し、転移魔法を使って離脱する。

 それを阻むことの出来るものはもうその戦場に居なかった。



「刈谷、ちょっと良いか?」

 そう疑問形で聞いているものの、その瞳に拒否を許してくれそうな感じはなかった。

「まあ、いいが」

 たずねて来た坂本に対し、向かい合う。

「何であの日の相手を殺そうとしたり、捕まえようとしなかったんだ?」

 坂本の疑問はもっともだ。あの日、刈谷は魔術をファイアボール以外攻撃では使わず、また魔剣技も全く使っていない。

「魔剣技はあの剣があのときの相方が錬金術で作ったから魔力を流す魔剣技を使ったら壊してしまうし、魔術はできればあまり使えないように見せかけたかったからだ。

 それに、これは勘だがあの鎌に触れたくなかった。それが理由だ」

 魔術を使えないように見せたかった理由は出来るだけ今のうちは回りに無能だと思われたかったからだ。

 剣術と身体強化が得意な白兵戦特化の魔術師だと。

「菊池も心配してたぞ」

「まさか!」

 そんなことがありえたら世界は滅ぶだろう。言いすぎだが。

「あのときの手柄をすべて持ってったあの隊長を」

「僕じゃないのかよ!」

 しかし納得した。これならありえる。あいつは知らない人に対して優しい。

「―――意外といろいろしゃべるのね。必要最小限なことしかしない人だと思ってた」

「そうでもない。僕は元々そこまで寡黙じゃあない」

 そういっていつの間に来たのか分からない相手であるシャルロットさん。

「―――で、何でさも当たり前のように会話に入ってきているんだいシャルロットさん」

「それはね、今からあのときの事件にかかわった人が集合のはずなのにすっぽかしている誰かたちを迎えに来たからなんだけど」

 どうやら、坂本も面倒くさがったらしい。同士よ。

「それにしても驚いたわ。さすがに15分も足止めできるものなのかと思ってたけど結構規格外なのね、あなた。

 正直、ただの白兵戦馬鹿だと思ってた」

「そう思っていただけたらどんなに楽か……」

 刈谷が白兵戦しか出来ないように思わせているのは他の魔術師のプライドを出来るだけ傷つけないようにするためだ。

 魔術師はほとんどが中遠距離が得意だ。(少ないが近距離を専門とするものも居る)

 つまり多くの名家の魔術師は中遠距離が得意なので力の差がばれたときにそいつらに言い訳が出来るように近距離を専門としているように見せかけているのだ。

「まあ、僕は本来中距離だからそこまで必死に隠すこともないんだけど……」

 刈谷は魔剣技と大量の魔術をいっせいに掃射する戦法なので、どちらかと言うと中距離だ。だが、遠距離なら大型魔術を大量に撃てるため遠距離でもそんなにも変わらない。

「―――一応聞くけど、近距離を一としたら、中距離と遠距離はどれぐらいの強さなの?」

「……はっきりとはいえないけど、技術と身体、魔力的に考えたら中距離が十五で遠距離が十二ってところかな」

「? 言い方が面倒だけど大体十倍は違うのね……。

 ―――なんだか……いえ、なんでもないわ」

 声には出していえないが、仮に僕が自分と同じ力を持つものと戦うときには近距離で挑むだろう。

「それはそうとして、行かなくて良いのか?」

 そういわれるとシャルロットさんはあわて始め、

「そうだった。行くわよ」

 そういって僕と坂本をつかんで引きずっていく……。


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