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 雫は一度刈谷の家について調べたことがある。

 そして分かったのは古い魔術師の家系だが、もう何代も前から魔術師の素養の強いものは居なかった。

 刈谷には姉が居る。

 本人が知っているかどうかは知らないが、五つ上の姉だ。

 その姉には魔術師の素養があった。だが、弟である慎吾にはなかった。

 魔術師の素養を調べる方法は生まれた後の胎便を調べる。汚い話だが本当だ。

 これを調べ内にある魔力を調べる。

 魔術師の素養があればそこには魔力があり、なければ魔力がないと、簡単な話だ。

 少なくとも刈谷はその時魔力はなかった。

 つまりは魔術師としての素質はまったくといっていいほどないと判断されたわけである。

 だが、少なくともあの時…中二の冬には魔力を扱えている。

 いくつか可能性はある。

 一つ目に、他の魔術の素養のあるものから魔力を無理やり入れられた。

 これはまず無いと言っていい。この方法だとどうやっても身体に分かりやすいあとが出るし、ここまで魔術は使えない。

二つ目に、精霊とも呼ばれる魔道生物に気に入られた。

 これもないと思っている。雫はかなりの上位の精霊と契約しており、それ以上でなければ自身の精霊が気づいて教えてくれるため(雫の精霊より上位なら分からないが)。

 三つ目に、これがそうだと思っているが……魔術師素養検査のミス。

 しかし、それにしてもあの目は何だろうか?

今日は逃げられたが、明日は逃がさない。



 刈谷は朝になると投降し(誤字ではない)、雫とともに登校した。

 因みに定型文?の『お前は完全に包囲されている。おとなしく出て来い』と言うのもあった。

 雫にあの目のことを聞かれたため、気のせいだといって突き通した。

 まあ、本人は納得してないが……。

 教室の扉を開くなりさまざまな魔法が刈谷を目指して飛んできたのでそのまま扉を閉じた。

 なお、この学園の建物には魔法を防ぐものがかかっているのでそれらの魔法はすべて霧散した。

 こんなことを三回ほどやったらいつの間にか中の連中は魔力切れで倒れている。無論無視したが……。



 今日、刈谷はとあることを知った。

 この学校には姉妹校と言うものがあり(魔法学校はすべてそれに当てはまるが)、その中で学生を交換したり、留学させたりするらしい。

 なぜそんなことを刈谷が知ったかというと、今日その留学生が来たのだ。

 基本、そういったことには無関心な刈谷だが、さすがに来たら分かる。

 しかもそういったときに来るのは成績優秀者なので魔力で分かる。そして気をつけなければならない。日本の魔術は西洋の魔術と大きく違っているところが多く、部分的に見れば勝っているのだが、平均した魔術師の魔力と言う面では西洋よりも圧倒的に劣っている。

 その分日本のものは逃げ隠れするのに向いている魔術が多く、隠密面においては世界でも有数の魔術形態である。

 また、元々魔術師は名家のものだったりすることが多いが、西洋だと貴族に当たり直接的に言うなら傲慢な人が多い。だからといって全員と言うわけではないが……。

 まあ要するに、中世の貴族のような連中が西洋の魔術師なのでその中で強いやつと言うことは中世の貴族の中でも偉いやつの可能性が高い。つまり目をつけられると面倒になるというわけだ。

 さすがに刈谷もいつまでも雫が話しかけてくるだけですむとは思っていない。そして上流階級つながりで雫に協力されたらさすがにまずい。

 何がまずいかと言うと、ここから卒業後、魔術師として生活していくうえでこういった名家に目をつけられると仕事がなくなってしまうことになるからだ。

 そうなると言うことを聞くしかない。

 そうなりたくないから今は―――留学生が帰るまではおとなしくしなければならない。

 しかしそれも頭に片隅に入れておけばいいと思っていた。

 理由は他の魔術師見習いたちが気に入られようと動くだろうと思ったからだ。これはあながち間違っていなかった。確かに、ほとんどの魔術師見習いはそういった行動に出た。まるで餌にたかる蟻のように。

 だから刈谷は目立たずにすむはずだった。

 ―――そう、だった。



「なあ、シャルロットさん。あんたは僕に何か恨みでもあるのか?」

 そういって服の襟を正してたずねる。

「いいえ、そんなものあるわけがないじゃあないですか。今日あったばかりなのに」

 そういって金髪の麗人は赤のドレスに身を包み微笑む。

「そうか……。

 ―――なあ、シャルロットさん。僕はなぜこのパーティに出なければならないんだろうか?」

 シャルロットと呼ばれている麗人は少々不機嫌そうな顔で、

「そんなに出たくないんですか?どちらかと言えばこういったものには皆さん出たがっている印象があるんですが……」

と言い。それに対し刈谷は、

「別に僕も出たくないわけじゃあないですけども……」

 続けて『―――円舞曲(ワルツ)なんて踊れませんよ』という。


 今、午後六時。

 七時になると歓迎パーティが始まる。

 それのためにワルツの練習をさせられているので刈谷の踊れないわけではないし、いざとなれば固有魔法で踊ればいい。

 だが、問題はそこではない。

このパーティに死神と言う暗殺者が出ると言う情報が入ったそうなのだ。

 それに対し学園は生徒教師を警備として使うことに決定し、刈谷は雫の強い支持により警備班に入れられ、このシャルロットのペアとして会場に入るのだ。

 このシャルロット、かなりの名家で長いので忘れたが良いところのお嬢様だ。

 その分魔力も高く強い。得意な魔法は錬金術系統らしく、刈谷とともに会場でパーティに参加しつつ回りの警備を担当する。

 錬金術で剣を作り、それを持って戦うのが基本戦法らしい。



 とにかく、敵が来ないことを祈りつつ、しっかりとあたりの警戒をさせてもらおう。

 ―――ごめんなさい。正直言ってパーティ始まる前に来てくれないかなと思ってました。


 そんなアホみたいな事を考えていると開始時刻になった。

「始まったな」

「ええ」

 一応相方に一声かけ、あたりの気配を探る。


 直後、雫の後ろに魔力の揺らぎを見つける。

「っち」

 さすがに普通の手段で防ぐのは無理だ。

 ―――転移。

 極理式で転移魔法を使い、先に雫の元へと向かう。

 空間が揺らぎ、敵の影が見えた時、雫を抱えて大きく後ろへと下がる。

 敵は性別、年齢不詳。

 装備は黒装束に漆黒の大鎌。

 その鎌を見たときものすごきいやな感じがする。

 ―――こいつはまずい。

 相方にアイコンタクトした後、その相方に投げ渡される二振りの剣。

「避難誘導を頼みます!」

 そういったあとはもうその他のことは考えない。

 真眼を使い、剣には魔力を通す。

 身体強化魔法を使ったあともう一度敵を観察する。

 しかし、そんな暇はなく、その大鎌をもって僕のことを切り裂かんと飛び掛ってくる。

「―――デス」

 デス……脳内でデスと言う魔法を探す。少なくともそのような魔法は知らない。だが、そのいやな感じはどんどん増していく。

 デス…DEATHか……死と言う意味だったかな。

 猛獣のつめのように襲い掛かってくる大鎌を剣で受け流し、互いに互いの隙を作り、その隙を突き、その戦いはいつまででも続くように思えた。

 だが、それはいつまででも続くわけではない。

 技と言う分野で刈谷が勝っている。当たり前だ。英雄の使った剣技の模倣だ。いくつものそれを組み合わせて自分のものとして昇華している。

 力と言う分野で敵が勝っている。しかし、多大な魔力を使った身体強化を使っているのだ。片腕だから一撃の威力は相手のほうが大きいが合わせた威力は刈谷のほうが大きい。

 ならば何故刈谷は敵を倒せていないのか、別に手を抜いているわけではない。

 相手の戦い方はたとえ自分が一撃もらったとしても、必ず敵に一撃を与えるやり方だ。別の言い方で言うと特攻とも言う。

 だが、刈谷はその一撃をもらうことにためらっていた。

 痛いのがいやだからとかではなく、その一撃で自分が再起不能になる可能性を感じていた。あの鎌に一撃でももらったらまずい。

 そういった考えが刈谷の中で渦巻いていた。


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