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私は驚愕した。
あの転校生がこの学校に来て1ヶ月、今日こそ話しかけていろいろ聞いてみようと思っていたらいきなりその転校生が襲われた。
流れるような動きでその敵を打ち倒したまではいいのだが、この学校ではたまにこのような訓練が行われるため、さほど気にしなかった。のだが、なんとその転校生は敵に対して脅しをかけ始めたのだから。
「な、何やってるの!? 刈谷君!」
何のようだろう。これからグロテスクになるのに。
「何って、侵入者に対して尋問を行うつもりだが?」
「この人は抜き打ちテストの審査員だよ!」
はあ、と一息つく。
「この人が審査員? そんな嘘に騙されたのか?
この人が審査員なら、何でこうもあっさり自分が審査員だなんていうんだ?
それに、この人の持っているナイフは刃がつぶされていないし、痺れ薬が縫ってある。もっというならこのインカムはこの学校では使われていない。と言うよりも魔術師はこういったものを使いたがらないし使わないように言っているから、教師と言う立場にある人間が使うわけ無いだろう」
こんなことにも気づかないのか?
「え、でも連絡のために持っててもおかしくない気も……」
もう一度ため息をつき、
「先生たちはこういうときに念話を使うんだ」
さてと、再開するか。
「これで最後だ。時間が無いんでな。
侵入者は何人だ?その得意な魔術は?進入経路と目的は?」
大げさに右の刀を引き、あと十秒と言う。
「……」
「――――!」
刀を振り下ろす前に左の刀で後ろから迫ってくる敵を空裂で切り裂く。
左の刀が通ったところからまっすぐ真空派が進んで行き、背後から襲い掛かってくるもう一人の敵を切り裂いた。
血が飛び散る。敵を切り裂いてもなお弱まらない真空派は壁をヅタヅタにして消える。
「全く、バレバレの使い古された手を使うんじゃねえよ」
そういってもう一度、
「今度はお前だ」
死の宣告とでも言うべきであろう刈谷の言葉を聞き、
「ぁ………ぁあ…………」
そのまま刀は振り下ろされる。首が転がり、刈谷は返り血を浴びる。
ロープは貴重なので回収し、仕方なく探索魔法を使う。
「刈谷……君?」
そういえばいたなと存在を思い出し、
「この辺はもういないから大丈夫だと思うけど、油断せずに常に戦闘できるように準備しておけ」
そういって音もなく走り出す。
その場には刈谷によって返り討ちにされた侵入者と刈谷が殺した二人の血を浴びてしまった哀れな女の子が残っていた。
走る。
音も無く走る。
敵に気づかれぬよう、気配も消して。
敵の背後に回りこみ、気づかれぬまま首を落とす。
支給された刀は刃が潰されているが、刈谷には関係ない。どうせ魔力をまとわせて切れ味を上げればすむことだ。
後、一人。
最も強い魔力の持ち主だった。
恐らくは、このグループのリーダーだと思われる。
ここに来るまでいろいろなものを見てきた。
殺された教師や生徒、殺されずに薬で身体の自由を奪われた生徒。
殺されたものの多くの顔からは驚きが多かった。
『なぜ、侵入者がいる?』
そんな感じだろう。
その気持ちもよく分かる。だが、狙われる可能性を考えて注意しなかったこいつらが悪い。
魔術師は、国家の武力だ。強力な魔術師の家系が今の裏世界を取り仕切っている。
戦争なんかで一人の魔術師によって戦況が変わったなんて話もよくあるものだ。
「止まれ、動いたら殺す。
武器を捨て、両手を挙げて魔力を操作するな。どれか一つでもやらなければ殺す。
こちらを攻撃しようとしても殺す。
そのままここに進入した方法と理由と黒幕を答えろ」
相手の首に刀を当て、その行動をするたびに次の命令をしていく。
「……」
こたえる気はないようだ。
あまり使いたくはなかったが、仕方あるまい。
―――この魔法はこの世界ではまだ解明されていない魔法だから使ったことですらばれないようにしなければ。
頭に式を用意する。この領域こそが本来図られるべき魔法使いの才能。
―――この領域が広ければ広いほど大きな魔法を使え、また、多くの魔法を同時に使える。
名前はリード。
相手の頭の中身を読み、思考から過去の記憶までを探る魔法。
あちらではこれによって侵入者を調べていた。
―――緊急事態だからな。
これがもし、ただの侵入者や試験だったらここまでしない。
緊急事態といったのは、“菊池よりも強い魔力を感じた”からだ。
菊池はあちらでは刈谷と同じく魔法剣士だった。
Aランクになっているので魔力量もかなり多い。
その菊池よりも大きな魔力…この世界基準で考えたら異常だ。というより、あちらでも目立つレベルで多い。
刈谷が動き出したとたんにその気配を見失ってしまったが、もう一度来られたら何も考えずに殺しにいくだろう。
思考を読む。
過去を読む。
この侵入者の人生を読む。
そして、その記憶から必要な情報のみを引き出す。
「何で……」
目の前には死体が一つ、そして……。
「……」
無表情に―――否、無感情にその死体を見下ろす刈谷という一ヶ月前に来た転校生。
その死体は布がかぶせられ、この後、恐らくいろいろとあの死体から調べるのだろう。
―――侵入者は、操られていた魔術師。
その中には家庭があり、また家族もいた。
それらの魔術師を殺した刈谷の判断は正しい。
だが、そんなもので実の親を殺された子供の心境は実に簡単だ。
いろいろと細かいものは置いておいて、大まかに言うと『刈谷が憎い』の一言だろう。
法律では、刈谷は裁けない。絶対に。
実質、そもそも魔術師を縛る法律なんて存在しない。
殺した凶器は魔術。刀ではない。だから法では裁けない。法は魔術に対応していないのだから。
「なぜっ!! なぜ殺した!!!」
答えはない。最初に一言「必要だからだ」と答えただけなのだ。
それで納得するものはいない。
侵入者、全17名。男9、女8。それらはすべてこの学園の生徒の親。それを利用して進入し、あたりに散らばって何かを探すように動き回り、生徒を殺害、または気絶させている。
「何とか言ったらどうだ!!」
そういって刈谷に殴りかかる。
それを刈谷は受け止め、
「なら、お前は実の親に殺されたいのか?」
とだけ聞く。
「俺が殺されると決まったわけでは……」
「いや、殺されるな。確実に」
そういう。根拠すら述べない。ただ真実を告げる。
親が操られるレベルなら、子が使えるレベルにはならない。
殺されなかったのは、名家の人がほとんどで魔力の強いもののみである。
これは刈谷のよそうだが、あれは威嚇だ。読み取った情報からはこの国をよくしようとしているつもりのテロ組織だ。
こういう意味だろう。
『お前たちがチンタラやっているから、他国になめられるんだ。
もっとしっかりと若手の教育に励め、そうしないとこの国は終わる。こんな少数にやられるぐらいなんだから……』
といった具合だろう。
記憶を除いた結果、あの魔力の持ち主は姿が分かった。
といっても黒髪長髪の女で獲物は刀の実力者。というぐらいにしか分からないのだが……。(刈谷はすでに黒髪長髪の女だとは一度、遠見で見たため知っていた)
警戒だけはしておこうと思いながら刈谷は目の前の問題に手をつけ始めた。