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 ケンカから大体1ヶ月が過ぎた。

 後で聞いた話だが、魔術師の実力判断の一つに剣を装備するやつかどうかと言うものがあるらしい。

 あちらから帰ってきた身としては、剣を装備するのは当たり前でしかないからそこまで気にならなかった。

 意外なことに、魔術師で剣を持つものはいても、魔術師で銃を持つものはいないらしい。理由は魔法のほうが早いし弾代もかからないかららしい。確かにいわれてみればそうだ。エアカッターでマッハ2ぐらいのスピードが出る。光の魔法になるとそれの10倍近いスピードにもなる。これでソニックブームが出ないのは魔法だからだろうか?

 それはともかく、魔剣とこちらでは呼ばれる魔法剣はそれなりに強い魔術師でないとできない技術らしく、刈谷たちからすればCランク冒険者なら誰でもできる。と思いこの世界の魔術の発展具合に少し悩まされる。

 恐らくだが、刈谷がこの学校内でもっとも魔術の扱いに長けている。

 他の人たちは刈谷の魔力が大気の―――この世界の魔力と同じ波長であることに対して特異体質だと思っているが、実際は魔力の波長をコントロールすることで行う技術である。

魔術形態の違いはだいぶ慣れたが、いまだに詠唱式には慣れない。

 それでも刈谷たちの詠唱はかなり早いので彼らの凄さがわかるだろう。

 なお、この学園の授業の形態は大学のような感じで自分で選ぶ。刈谷は面倒だからと調べものがしたいからという理由で必須科目以外とっていない。この必須科目は魔術師になるために必要な科目のことで、戦闘訓練のようなものや、魔術の訓練は選択となる。

 必須科目が午前中にあり、午後が選択科目となっていて刈谷は午後にはずっと図書館にこもっている。

 その結果一通りの違いを発見し、まだこの世界で証明されていない技術や知られていない技術は使わないように他の二人にも忠告している。

 因みに、他の二人改め菊池と坂本は選択科目を取っており、それは刈谷が先にあっちには無かった技術だと言ったものばかりである。

 今日も刈谷は図書館にこもっており、最近ではいろいろ言われているらしい。


「思ったよりも魔術理論がきちんと解明されていないのか……僕には確かめる手っ取り早い方法があるけど、きちんと実験で調べようと思ったら時間がかかるのか……」

 独り言をぶつぶつつぶやき、書き連ねた紙をぐしゃぐしゃに潰し、手の中で燃やし、ゴミ箱に捨てる。

「あら、私あなたが何を書いていたか気になっていたのに……」

 後ろから声がする。長い髪をしたきれいな女子生徒が立っている。以前この女に紙をそのままゴミ箱に捨てて、拾い上げられ読まれたことがあるのだ。そのときはたまたまこの世界の魔術理論についてのまとめをした紙だったからよかったが、自分で調べたことやあちらでのことを書いた紙だったらと思うとぞっとする。

「残念でしたね」

 そういって席を立ち、いつも通り図書館から出ようとすると、

「前に書いていた紙は今解明されている魔術理論の紙だった。あなたは紙を二枚用意してこれを書いているけど、本から映すときに使うのは一枚だけ、あの時はたまたま写すので終わっていたけど、今回は少なくとも自分で考えたであろう事まで書いていたから見てみたかったんだけど……。ねえ、教えてくれない?」

 その言葉を無視して図書館から出て行く。

 ―――あの人、僕が他の理論について知っていることに気づいている。


「残念でしたね。振り返りさえすればどのようにでもやりようはあったのに」

 本棚の影から従者と思われる短い髪の女子生徒が出てきて主人ともとれる女子生徒に対して声をかける。

「恐らくだけど、あの子は私たちの知らないいろいろなことを知っている。

 異世界から帰ってきたっていうけれどこれだけなら例が無いわけじゃあない」

 それにうなずく従者。

「でも恐らくあの子は、と言うかあの子達は自力で帰ってきている。

 しかも、固有魔法まで持っている」

 固有魔法とは、その人の本質を表しているとされる魔法この世界で魔術と呼ばれるものとは少しプロセスの違うものである。

 魔術と魔法の違いは誰にでもできるか、それとも特定の誰かにしかできないか、と言う違いだ。プロセスも魔術はその魔力で世界を無理やり変える。それに対し、魔法は世界を誘導する。

 固有魔法とは、自身のうちの理想を世界に認めさせるもの。それには自身を知る必要があるし、いくら知れても使えるとは限らない。と言うより使えないことのほうが多い。圧倒的に。

「―――ねえ、あなたはあの子と10回戦って、何回勝てると思う?」

 少しの空白、

「―――恐らく、よくて3回。悪くて0回でしょう」

 自分が不甲斐ないのか、少し悔しそうにも聞こえる。

「そうでしょうね。因みに私でもよくて4回だし悪ければ0回よ。

 固有魔法によっては……」

 ―――二人がかりでも勝てない。

 言葉にはしなかったが、そう互いに思っていた。

 このときの刈谷の能力で相手にとっての『よくて』の時とは刈谷があの時見せたのが全力であると言うことである。

 彼女たちは2年の主席と次席である。良家のお嬢様であり、魔術師としても優秀だ。もうすでに魔術師のランクで4を取っており、卒業までに5を取れるだろうといわれている。

 それに、根本的に彼女らは読み違えている。

 刈谷がたとえ固有魔法を持っていなかったとしても、二人でなく百人だったとしても、結果は10回中0回と言うことを……。



 クラスでの生活には慣れた。

 詠唱式のやり方にも慣れてきたし、クラスには友達もいる。

「なあ、刈谷」

 その友達の一人に声をかけられる。

「よく思うんだけど、お前っていつ勉強しているんだ?」

 その後にはテストの点数が授業態度に対して高いことを言われる。因みに、いいやつだと学年一位、悪いやつでも上位10%は超える。

「勉強はしていると言えばしてるけど、それは魔法理論だけだし、それ以外は授業中に……」

 ―――一瞬、空気が固まった。

「お前……せめて俺らのために少し勉強してるぐらい言ってくれ」

 心からの言葉だろう。しみじみと伝わった。

 だが、変わった空気はこれだけではない。

 刀を抜き、振り向きざまに切りつける。

「な!」

 甲高い金属のぶつかり合う音がして、鍔迫り合いになり、その隙に左手でもう一本の剣を抜き払う。

「はっ!」

 相手は大きく後ろに跳び、距離を離す。

「……」

「何だ!?」

「今のうちにとっとと逃げてろ」

 そういって友人をこの場から逃がす。

 ―――セキュリティには自信があるんじゃないのか?

 一応いっておくと、この学園ではセキュリティは万全だと言っている。

 相手はそんな刈谷の学園への叫びを聞いてか、

「セキュリティはかなり甘かったわ」

 少し高い声で言う。服装は顔を隠すもので完全に黒一色であり、まるでドライスーツのように身体に服が密着していてボディラインがよく分かる。どうやら女のようだ。

「(答えてくれるとは思ってないが)何が目的だ?」

 一応定型文のような気がして言っておく。

「そんなの……」

 言うわけ無いよな。

「―――この学園の秘密の実力抜き打ち審査に決まってるじゃない」

 聞いたことはある。なにやらあったときなどに対応できるかを知るための抜き打ちテストがあるとか何とか……。

 しかし……。

「もう、秘密でもなんでもないですよね」

「……」

 もはや何もいうまい。


 目を瞑り、息を吐く。気分としては両手を少し挙げ、やれやれと言いつつ首を横にふりながらやると完璧なんだが……さすがにそこまでやる気は失せた。

 その隙に相手はこちらに近づいてきて、ナイフでこちらを切りつけてきた。

 それを右の刀で下から右上に弾き返し、その回転する力を使って左手の刀を突き出しつつ、右手を引いて回転する力を強める。

 敵はそれを左に避けると、僕の後ろを狙ってナイフを突き出してくる。

 それを無詠唱で出したファイアボールで牽制し、さらに右側に動いてくる。

 それに合わせて左手を右に引き、右足を軸に左足で回転すると右の刀で相手の首にめがけて振る。それと同時に身体を相手と反対方向に倒しつつ、右足で相手から逃げるように跳ぶ。

 相手は避けきれず、その刀を首を打たれ仰向けに倒れる。

 峰打ちだ。今殺す気は無い。

 仰向けに倒れた相手の武器を奪い、両手を魔術で封じて魔術を唱えられないように魔術師用のロープで縛り上げる。これでそう簡単には逃げ出せない。魔術師用のロープは魔力を縛られたものから奪い、そのロープの強化に使う。耐火性なども強く、万全の状態の魔術師でもそう簡単には焼き切れない。

 そしてこの状況を確認して、

「なんだか……これを見てると僕がここでこの人を襲ってこれから強姦するつもりみたいだ……」

 とてもいやだ。とりあえずとっとと尋問してとっとと殺すか開放しよう。

 そうしないと、他の知り合いに見られたときどうしようか本気で悩む。殺してしまうかもしれない。証拠隠滅のために。


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