15
今回は前作を読んでないと理解できないかもしれません。
目を覚ます。今回もまた会話が通じるとは限らない。
周囲を見て召喚者を探すも、それらしき気配もなく、魔術がこのあたりで使われた形跡すらない。
「まさか、召喚者(呼んだやつ)は失敗して変なところに呼んだんじゃあないだろうな?」
この予測は当たっていたが、変なところは変なところでも世界ごと違っていたとは刈谷も思わなかった。
集中している刈谷の耳に、人の叫ぶ声が聞こえた。
刈谷がまず思ったことは、助けなきゃ。とかではなく、ああ、言葉が分かる。ということであった。
とりあえず、言葉を理解できると確認したので、声のしたほうに向かう。
それを見たとき、刈谷は固まった。
それを見たとき、刈谷は混乱した。
それを見たとき、刈谷は呆然とした。
それら三つを同時に行った。
見たものはどう見ても初めて会った時のレオナにしか見えなかった。
「―――レオナ……」
いろいろと思うことはあったが、現状としてできることはこの敵である大きな緑の巨人を倒すことだけだろう。
病院服ではなく、私服を着ていたのだが、剣は持っていなかったので見たところ苦手そうなファイアボールで様子を見る。
「―――ファイアボール―――」
だが、刈谷もたった一つだけ出すということをするのは無駄だと思い、五つ出して正確に巨人の顔を焼く。
「ま、魔法?」
巨人は苦しみだし、少したった後息絶えた。
改めてレオナに見える少女と向き合う。
「こんにちは。とりあえず名前を名乗ろう。僕は慎吾という」
「えっと、こんにちは。私はシエナといいます。えっと…あなたは誰の奴隷ですか?」
おどおどしつつ答える少女は意味不明なことを言った。
「えっと、僕は誰の奴隷でもないけど……」
するとひどく驚いた表情で、
「あなたはどこから来たんですか?」
「ここから結構遠い田舎かな。ほかの地域との交流は無かったし、僕が最後の一人だから……」
こう、誰の言うことでも信じてしまいそうな少女を騙すのは気が引けたが、これはしょうがないことだ。
「シエナ!大丈夫?」
遠くから女の声が聞こえる。
「あ、お姉ちゃん」
こういうということはシエナの姉だろう。
「なんだ、こいつは?」
明らかに敵意しかない目でこちらをにらんでくる。しかも腰の剣に手をかけていつでも抜けるようにしている。
「お姉ちゃん。この人が助けてくれたの!」
そう妹が言うのを聞いたからか、構えをとき、
「そうか、それはありがとう。しかし、君の主の姿が見えないが…どこにいるんだい?」
「そうそう。お姉ちゃん。この人奴隷じゃないって、あとさっきレオナの名前を言ってた」
「レオナ!?」
ここで、レオナの名前にどういう意味があるかは知らないが、このエルフにはそのレオナという名前に何か意味があることを思わせた。
「あんた名前をフルネームで苗字から言ってみて」
「よく分からないが、刈谷慎吾という」
少し二人で話し合っているのでその隙に仲のやつと会話する。
『元の世界への相対距離とかの計算はできたか?』
『そんなものとっくにできているが、この世界はだいぶ前に言った世界に酷似しているな』
『どういった意味で?』
『だいぶ無理やり調べたからはっきりとはいえないが、ここはお前が前に来た世界そのものといっても過言ではない』
『過言ではないって、どういう意味だ?』
『お前がこの世界に介入したことによって世界が少し変わったんだ。だから違う世界ともいえる。お前がレポートを後藤に渡し、それをレオナが受け取り、レオナが研究を重ねている間に魔族とエルフが手を組み、人間を滅ぼし、その多くを奴隷として使っている。
因みに、お前の墓とかまでできているぞ。それと加えて言うならば、お前のレポートはまだ世に出てないし、お前との知り合いで生きているのはレオナとエルザぐらいだ』
『案外生きているもんだな。三ヶ月たったからもう大体300年ぐらい過ぎてるんじゃあないか?』
『お前は人間が奴隷になっていると聞いてもさして驚かないんだな』
『人間なんて欲が強く、繁殖能力が他の種族と比べて高いぐらいしかないからな。僕が勇者倒しちゃったし……』
『一応その点については罪悪感があったんだな』
『失礼な。罪悪感しかないよ、最近の人生は』
そういうと交信を打ち切り、目の前の二人に話しかける。
「話し合うのはいいけど、ここにずっといるとほかの魔物が出てくるぞ」
それを聞いたからか、しぶしぶといった感じで町に帰るという。
―――イメージが大きく変わったからか、転移魔法が使えない。しばらくはこの二人の世話になるか……。
「ここは殲滅の魔術師って言う英雄の戦った平地なんだ。五万の軍を一人で壊滅させたことから当時の敵国の皇女がそう名付けたらしい」
となると、ここがあのあたりか……。
「あっちのほうにレオナって言うさっき慎吾が口にしていた名前のエルフが住んでるらしいけど……辺境だから人はあまり近づかないね。一応考古学者が刈谷の墓があるっていって調べに行くけど魔物が強くてあまり行かないみたい」
「刈谷、刈谷って、この辺はその刈谷でなんか観光地とかになっているのか?」
ふと疑問に思ったことを聞いてみる。
「そうだね。魔王が刈谷を褒めているからその流れで……」
魔王……あいつの話曰く、生きているらしいから、あの後そのまま魔王にでもなったのだろうか?
「でも、さっきは驚いたよ。君の名前が刈谷慎吾って言うからその殲滅の魔術師じゃあないかって思って……」
すいません。その殲滅の魔術師です。本人です。
「で、今はどこに向かっているんだ?」
「君は奴隷じゃあないらしいから冒険者にでもならないと仕事がなさそうだしね。顔はなかなかいいけど、どう見ても男娼なんてできそうにないし、そういった経験ないでしょ」
「よくお分かりで」
「お姉ちゃんはよくそういうところに……」
続きは姉によって聞けなかったが、大体の予想はついた。
まあ、とりあえずそれよりも……。
「―――エレメンタル・ランス―――」
空に向かって、正確には空間のゆがみに向かって四属性の槍が飛ぶ。
「久しぶりね、刈谷。来たなら連絡してくれてもいいのに」
それを当たり前のように防ぎ、何てことないように話しかけてくるとは……。
「ああ、久しぶりだな。それにしても来るのが早いな。まだ来てから一時間しかたってないぞ」
「あなたみたいな魔力の塊が来たらすぐ分かるわよ。それに私は魔王よ。いつ勇者がくるか分からないから世界間の歪みには敏感なの」
「それもそうか」
当たり前のように魔王と話している刈谷を見てか、それともいきなり現れた魔王にか、もしくはそのどちらにもかも知れないが、二人が固まっている。
「それにしても、また魔力が高くなってやがる。僕よりも多いんじゃあないか?」
「当たり前じゃない。人間と魔族の魔力の上がり方が同じだったらこんな風に世界征服なんてできなかったわよ」
「確かに当たり前だな」
数は人間のほうが多いから魔力で勝っていなければ世界征服なんてできそうにない。
「せっかくだから私のところに……」
「断る。無理やりやったら確かに今ならお前のほうが強いだろうが、このあたりの地形を変えて、多くの人を道連れにして、暴れるだけ暴れて逃げるぞ」
しかし、こいつ、見た目がほとんど変わってないよ。少なくとも今戦ったら負けるな。
―――なぜだろう。最近自分よりも強よいやつに会いすぎている気がする。僕より強かったら国とかそういう次元なんてどうでもいいぐらいになるんだが……。
「……どうした刈谷?いきなり泣き始めて」
「いや、なんでもない。気にしないでくれ」
思わず涙があふれた。軽く落ち込んでいるように感じる。
「何なの?この状況……」
「さあ?」
そんな中、二人のエルフは状況が理解できず、固まるしかなかった。
「レオナにはあったの?心配してたわよ」
「あってない。というよりも、今知人に会いたい気分じゃないんだ」
「理由は?」
少し悩む。こいつなら『じゃあ私が行ってそいつを殺してあげるわよ』くらい言いそうだ。少なくとも僕はできるだけ世界を移動することをいいことだとは思っていない。
「―――言いなさい」
「はい」
殺気がやばいと思うほど出てきたのでおとなしくする。
後ろでバタバタと人の倒れる音が聞こえたが気にしない。
「ふう、あまり言いたくないけど、実はあっちで天使とかって言うやつにぼろぼろになるまでやられてね……。あちらは殺す気はそこまでなかったみたいだから、隙を突いて引き分けに持ち込めたって所だな」
そういうと案の定。
「そうか、なら私が行ってそいつを殺してあげるから、あなたは……」
予想通りとまでは行かないがほぼ同じ内容のことを言っている。
「―――悪いが、今回はたまたま飛ばされただけだし、できるだけ世界間を移動するのはやりたくないんだよ。それに僕のいるべき場所はあっちにある」
言外に、たとえ殺されるのだとしてもあちらに行く。と言い、さらには、お前を連れて行く気もない。と言った。
「じゃあどうする気?間違いなく殺されるじゃない」
「逃げるか、もしくはおとなしく殺されるかだな」
そういうとエルザはため息をつき魔術を使う。
感じからして攻撃魔法でも補助魔法でもないようだが……。
少しするとこちらを向いて満面の笑みで、
「今からレオナが来るって」
思わずきれいだと思ってしまったが、その感情を外には出さず、
「レオナが来るって本当か?」
努めて冷静に対応した。
「来た」
後ろに感じたわずかな空間の揺らぎのあとにはすぐにレオナが立っていた。
「―――シングルアクション……」
頭をボリボリとかき、もう一度ため息をつく。
―――予想はしていたが、やっぱりこいつのほうが魔力が高い。
「手紙は読めたみたいだな、偏屈エルフ」
少しあたってしまったことは仕方ないだろう。
「つまり、負けて意気消沈しているところでこちらに飛ばされ、ちょっとだらけようと思ったところをエルザに見つかってこうなったと」
偏屈エルフといわれて機嫌が悪くなったのか少々喧嘩腰に感じる。
「そういえば気になってたんだけど、刈谷は何で魔方陣の多重展開とかしないんだ?」
「何それ」
「文字通りの意味だが」
そういわれて考える。
魔法を大量に使おうと思ったら放出するパイプの太さが関係してくるわけで、僕はそれが比較的細いからこれ以上強くなれないと思ったわけだ。そして、魔方陣を多重展開すると少し時間はかかるが圧倒的に多くの魔術が使えると……。
いまさら気付いた。やっぱり僕は馬鹿だ。
「やっぱり僕は馬鹿だな」
「何をいまさら」
すぐにそう返してくるエルザはすごいと思う。
「悪いがエルザ。新しくできた魔法理論はないか?」
「いきなり何を言い出すかと思えば、まあ、いいが、確か空間に与える魔力の影響とかがあったな」
「文献はないか?」
「ない、それにあんなもの私でもできないから無理だ」
「理論だけでもいい」
するとレオナが、
「理論を要約すると、大量の魔力が何の方向性もなく一点に集まるとその空間は不安定になるが、その分安定するというものだったと思う」
「―――矛盾してないか?」
「確かほかの世界とかを考えるんだったら空間としては不安定になるが、存在としては安定するというものだから少し違う」
一つ深呼吸してから手を開く。
魔力を集中させ、一点に集める。
「――――っ!」
みしみしと空間が音を立てる。
さらに圧縮し、魔力を注ぎ込む。
するといきなり空間のきしむ音は収まり、魔力の塊は集中しなくてもそこにとどまり始める。
「安定した」
確かに言われたとおり、空間は歪み、安定した。
何の気なしにファイアボールをぶつける。
するとなんともなかったかのように魔力の塊をすり抜けたように見えた。
「いま、なんか変じゃなかったか?」
エルザがそういって今度は氷の塊をぶつける。
するとまた何の抵抗もなくすり抜けた。が、氷の塊を見て一同絶句した。
「穴が開いてる」
そこだけぽかんと穴が開いている。まるでそこだけ切り取られたかのように……。
「どういうことだ?」
その疑問が草原を駆け抜けた。
『飛ぶから式を立ててくれ』
『いいのか?』
『今じゃないとあと三年ぐらいここに残ることになりそうだ』
『分かった』
そういって世界を飛ぶ魔術をはじめる。
「刈谷、お前帰るつもりか?」
エルザの問いかけの答えは決まっている。
「もちろん」
そういうと刈谷の身体はこの世界から消えた。
「せめて挨拶ぐらいしていけ……」
この声が刈谷に届いたかどうかは定かではない。
刈谷は二人が考え事に集中している隙を狙ってもとの世界に戻った。
それを二人は不満に思ったのだが、刈谷はそんなことを知る由もなく、もう一度あちらに向かうことがあったら今度は帰れるかどうか分からない。
帰ってきて、刈谷が最初に感じたのは恐怖だった。
まず、足が動かない。ひざが笑っている。歯がガチガチとなり、どうしようもないぐらいに恐怖している。
次に嫌な予感がして……。
とにかくこう感じる『今動いてはならない』とだけ……。
『何がどうなっているか、分かるか?』
『さあな、分かるのは死がここを覆っていることだけだ』
『“目”を使うからな』
『止めない』
了承を得たところで“目”久しぶりに使う。
よって分かったことはこれが魔術だということ、否、固有魔法だということだった。
「この感じは……死神か」
そういうと、雫の魔力を探し出し、その場へと転移する。
やばい。思ったより早く終わりそう。




