13
学園祭、その最終日は後に“血の降る最終日”といわれるようになる。
最終日の種目を刈谷は知らない。
別に聞いていないからではなく、単純に発表されていないからだ。
ゆえに、なぜ刈野由美が参加するかが分からなかった。
「坂本、今日は何があると思う?」
「さあな」
「まだ怒ってるのか?」
「別に」
「そうか、怒ってるのか、悪かった」
「ああ、分かった。なんとも思っていないということが分かった」
「あんた何したの?」
「ちょっと身代わりに」
「そりゃ怒るわ」
「…………」
どうやら、あそこがどれだけつらいかみんな分かっているらしい。そして、巻き込まれたら相当につらいらしい。
間違いない。菊池が言うんだから間違いない。
『えー、本日の種目は、『サバイバルだ』うわぁ……!』
「…………」
今の演技なのか?それとも本気なのか?今の状況では判断できない。
『おい、今のマジか?』
『おそらくな』
こいつが言うなら確実にそうだろう。そう思って腰の剣に手をかける。
それを見た坂本をはじめとしたクラスメイトはそれぞれの獲物を構える。
「とりあえず、ここだと動きにくい。一度校庭に出よう」
そう提案する坂本の先導でそれぞれが自由に武器を使えるところ…すなわち校庭で円形で陣形を取る。
この場合、本来刈谷は中央にいるべきなのだが、周囲がそれを許さなかった。
おそらくこれがなければあれほどの悲劇は起こらなかっただろう。
ところ変わって留学生のいる教室ではすでに戦闘が行われていた。
「っぐ!!」
「くそっ!!」
留学生の装備の8割が両手剣、残りが弓と細剣で室内で思う存分戦えるのは数名だった。
「一度校庭に出て仕切りなおす!各自魔術を!」
そういって一気に校庭へ退却する。
すでに人数は8人まで減っていた。
校庭に出た留学生組みの中にはシャルロットもいた。
シャルロットは刈谷を見つけると、
「刈谷!ちょっと手を貸して!」
そういって反転し、敵と魔術を打ち合う。
「了解。
坂本、僕は行くけど、それ以外はいいから自分たちのことをやっていてくれ」
「わかった!気をつけろよ!」
それを聞くとすぐに空歩と身体強化を使って一気に距離をつめる。
「―――緋王爆牙斬―――」
炎を右の剣にまとい、中距離で敵を倒す。
さらにインターバルを狙って突っ込んでくる敵を、
「―――連牙―――!!」
左の剣にまとった炎で敵をなぎ倒す。
思わずやってしまったやりやすい中距離での攻撃を注目するものはいなかったが、これからそれを続けるのもまずい。
「―――サイクロン―――」
魔力をそのままぶつけるものだがなれるとかなり恐ろしい威力になる。それを、
「―――魔剣技 覇王―――」
魔術潰しの魔剣技で消し飛ばし、そのまま敵を両断する。
『刈谷よ、できるだけ目を使うな』
『どうして』
『いいから使うなよ』
そういって一方的に会話を打ち切ってくる。無理やり聞くこともできるがそこまでする必要は今は無い。それに“使うな”ではなく“できるだけ使うな”としか言われていないのでかまわないし、そもそもこいつらレベルなら使う必要も無い。
そう回りの注意を怠っているのがばれたのかそれとも実力からか、刈谷のほうに向かって多くの魔術が押し寄せてくる。
「―――天は我らを見守り、また地は我らを支える。間に在りし宙を切り裂き、天と地に分けん―――」
久しぶりに使うものだが、一度は使っておきたかった技だ。
この技は師匠と呼べる人の秘技でその名を……。
「―――すべてを分けよ、すべてを切り裂け、今ここにすべてを二分する剣を放つ―――」
両手の剣はみしみしと音を立てる。今にも砕け散りそうだが、そのあたりのさじ加減は分かっている。
敵を見据え、宙の魔術を捉え、力を解き放つ。
「―――天地開闢―――」
力は魔術を、人を、空間を切り裂き、その場に一筋の線が走る。
一瞬の空白の後、世界がずれた。
刈谷の師匠はあちらの世界でも五本の指に入るほどの実力者で、この剣はその師匠の技。
威力は刈谷のほうが魔力の量の問題で高いが、効率やスピードは圧倒的に師匠のほうがいい。
簡単に原理を言うならば、風の魔力を剣に集めて切っただけ。だが、目視できないほどに細く、薄く圧縮された魔力はそのスピードと合わさり絶大な威力を誇る。
それを見た多くの魔術師はそれが何だが理解できなかった。
状況の問題もあるが、詠唱が出鱈目だったのだ。そもそも詠唱に必要な属性を示すワードが入っておらず、さらに詠唱しているのに使ったものが魔剣だったからさらに混乱させる。
これは刈谷の師が集中するために言っているものでまったくといっていいほど詠唱に意味は無い。
これ自体はもっとレベルが低いものだが既存の技として空裂という名前のものがある。それがより高威力の広範囲になっただけであり、正確にこちらの名前で言うならば天地開闢なんていうたいそうな名前ですらない。
これを見た他国の魔術師は混乱ではなく、恐怖した。
一応建前としては全世界で魔術は公表されているが、事実としてそのようなことは無い。例えば、それで食いつないできた名家のものがその秘術を公開するだろうか?答えは否だ。
一応公開はしているもののすべてではなく、一部。それが公然の秘密である。ゆえに、このような高威力でありなおかつ広範囲の魔剣だか魔術だか判断のつかないものは恐怖の対象でしかない。
「お前か?刈谷とかって言う魔術師は」
校舎の屋上から女の声が聞こえる。
多くの魔術師は驚き戸惑った。それも当たり前だろう。気配察知が得意な刈谷ですら気配に気付いたのは声を出した瞬間。それほどまでに気配を消すのがうまかった。
「違うな。俺は新川直彦というものだ」
相手を見据えて堂々と嘘をついた。ほとんどの生徒は気付き、疑問に思いながらも口にはしなかった。だが、坂本あたりの刈谷のことをよく知る人間の目線は冷たかった。
「そうか、刈谷というのがどこにいるか知らないか?」
「たぶんまだ教室にいるんじゃあないか?」
「そうか、ではさらば!」
二人のやり取りを冷たい目で見る周囲の人々。刈谷としてもここまで自分の言うことを信用すると思っていなかった。よりはっきり言うならば、ばれて当たり前と思っていた。
ちなみに刈谷の予定としては、『お前が刈谷なんだろう!』といわれたところで、『確かに俺は刈谷だが、お前が探しているのは刈谷慎吾じゃあないのか?俺は刈谷忠一という。きっと人違いだろう。慎吾のやつは教室にいるからいくといい』というつもりだった。
「お前、行っちゃったぞ。どうするつもりなんだ?」
「正直、今から本当のことを言うのも面白そうだが、自分で気付いたところをもう一度からかうのが面白いんだけど……」
そういうとどこかからか魔術が飛んできた。それも一つではなく。
「あぶなっ!誰だよ、やったの!今のはまじめに危なかった!」
そういってそちらを見ると雫が立っていた。
「あいつ、知らなかったみたいだからいうけど桐生蘭っていう暗殺者。たぶん刈谷の実力を見て誰かが雇ったんだと思う」
そう、刈谷のせりふを無視して言い放つ。
「ちょっと待て、そんなやつが何ですぐに雇えるんだ?」
確かあっちでは暗殺を頼もうと思ったら少し時間がかかったはずだ。よくその隙に依頼主のほうを始末していたからよかったけど……。
「あいつはフリーだけど、比較的早く仕事の契約を結ぶの。それにお抱えだったらこれぐらい普通だよ」
なるほど、あちらとは違うということか……。
そう思っていると不意に空間の揺らぎを感じる。
「雫!!」
すぐに雫の元に転移し、大きく後ろに跳ぶ。
いつかの焼きまわしだな……。
「また、貴様か……」
大鎌を両手で持った男が現れる。
「死神ね……。目的は私の暗殺かしら」
「死神?」
聞き覚えがあるしこいつも見覚えがあるが名前と顔が一致しない。
「あんた……報告会で名前出てたのに聞いてなかったの?」
「ああ、あのときの」
そういっている最中も刈谷は敵の攻撃を防ぎ、避けている。
「っち―――」
二人の距離が大きく開く。その間に、小さな影が入り込みグランドに小さなクレーターを作った。
「あなたが刈谷じゃあないですか!騙してましたね!」
「いや、確かに教室に刈谷がいたはずだぞ」
「いましたけど、あなたの影じゃあないですか!ああもう、何で信用しちゃったんだろう?」
「ちなみに僕は“自称”新川直彦だ」
ただ自称とあの時つけなかっただけで……。
「どけ、邪魔だ」
そこに死神が参加。これは面白くなりそうだ。
「死神さん。共同戦線を張りませんか?とにかくこいつをぶん殴らないと気がすみません」
それに死神が了承した。
「一体二なんて卑怯だ。仕方ない。坂本!」
そうやって坂本を呼ぶと、
「いやだ」
「じゃあ、雫」
「面倒」
「それなら、菊池」
「がんばって」
「僕に、味方はいないのか……」
両手と両膝を突き、ガックシとうなだれる。もちろん演技だが。
その状態の僕を容赦なく襲う魔術。
「ひでぇ、味方に増援を断られた一人の少年にする仕打ちじゃあない!」
「言ってろ」
そういって鎌を振りかぶる死神。それを転移で避け、剣を抜く。
「―――魔剣技 陽炎―――」
構え、相手を見据える。
「はあっ!」
女が刈谷を切り殺そうと大剣を振り下ろす。
その大剣にあわせて左の剣を当て、そのまま前に重心を動かす。
振り下ろさせる力を剣ですべて受け、それを手首、肘、肩、腰と体全体で受け流しつつ右の剣をその動きに合わせて腰、肩、肘、手首と体全体で力を一点に集中させて振り下ろす。右の剣は肘の地点で音速を超え、ソニックブームを発生させる。さらに手首を使って女と大剣を切り裂いた。
カウンター技、陽炎。こういった重い一撃を剣で受け止めたときに折れてしまうのを防ぐために生み出された虚空という己の師の技を改良してカウンター技にしたものだ。こうやって思うとあの人は本当にすごかったんだろう。
ちなみにこれらの行動を相手の剣が振り下ろされるまでにやり終えるのでかなり難しい。
返り血を浴びつつ死神に対しても注意を払う。
「こいつを一撃で下すか……やはり、お前は強すぎる」
「まあ、僕も自分のようなやつがいたらチートだと思うね」
そういうと切りかかろうとしたが、上空から莫大な量の魔力を感じたのでこのあたりの生徒すべてを無理やり遠くに飛ばし、自分は大きく下がる。
またもや邪魔が入った。今度は何だと思ったが、さすがに今度は驚いた。
「な―――――」
グランドに突き刺さっているのは両手剣。そして僕はあの剣を見たことがある。
それはいくらかの英雄の記憶の中で、あの剣に首を飛ばされたものがいくつかあったのだ。
「はずしたか……」
声は悔しがるでもなく、ただ淡々と事実を述べていた。
あの声の感じは覚えがある。あれは自分の心を環境に合わせて壊しているものの声だ。
緋王爆牙斬:剣に炎をまとわせなぎ払いとともに炎を飛ばしぶつかったところを爆発させる。連牙、とあるので両手で一度ずつやっている。
サイクロン:風系統上級殲滅魔法と呼ばれているが今回は覇王によってすぐに消えた。
魔剣技 覇王:刈谷の作った魔術破壊技。無属性の魔力を剣に集めすべての魔法を吹き飛ばしつつ敵を切り裂く。魔術を蹂躙する覇王ということからこの名前がついた。
天地開闢:刈谷の師が作った。実態としては風の魔法で真っ二つに切り裂いているだけ。だが目視できないほど細く薄く圧縮された刃はすべてを切り裂くといってもいいほどである。
魔剣技 陽炎:刈谷の作ったカウンター技。敵の攻撃に使ったエネルギーを自分の攻撃に上乗せする技で大剣などの両手剣相手に使う。名前の由来は一瞬のうちに攻撃をかわして敵を切り裂く姿を見た人がつけ、それが気に入ったのでそのまま使っている。




