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「これ、配達先間違ってないか?」

 刈谷慎吾と書かれた郵便受けに溢れんばかりの――いや、溢れかえっている書類の数々……。

「確認してみればいいだろう」

 そういう声は坂本、少々あきれている。

「俺もだいぶあっちから帰ってきて気が抜けたと思うが、お前は見た目よりも抜けていたんだな」

 そういう声をBGMに宛名の確認をする。

 どうやらすべて僕宛だ。

「はあ、どういうことだ坂本。何か心当たりがあるみたいだが」

「簡単な話だ。お前は今日あんな大魔術を使ったんだ。そりゃあお誘いが来てもおかしくはない」

「―――そんなに抜けてたか……」

「今思うとだいぶ抜けてるな。前のお前ならばれないように侵入者を殺してるし、思わずでもあそこまでやりすぎるほどの反応速度は見せなかった」

 確かに、前の僕だったらあそこまで早く大衆の面前で動かない。

「だいぶ抜けてたんだな」

「ああ」

 そういうと入っていた書類を持って部屋に戻る。

 部屋に戻る直前、

「明日はよろしく。今回結構見せているんだから明日もいいよね」

「考えておく」

 坂本はそういうと部屋に入った。それを見届けてから自身も部屋に戻る。

「はあ、あれが全力というわけでもないんだけど、平均のところがだんだん分からなくなってきた……」

 刈谷は今回全力ではない。

 全力を見せようとしていない。

 最終決戦から力加減がいまいち分からなくなっている。

「もし、目に精霊がいるんだとしたら何とかしてほしいよ……」

 そういうと少し目の奥が揺らめいた気がした。


「坂本、誰がこのチームで最初に脱落するか賭けないか?」

「何を?」

「この先一週間の宿題」

「乗った」

「因みに僕は武藤だね」

「俺は誰も落ちないだ」

「リーダーとして?」

「リーダーとして」

「ご苦労なことだ」

 最初のスタート地点で会話する刈谷と坂本、隣では猛烈なラブコールと、強烈な罵言。

 少し気を落として武藤がこちらにやってくると、

「貴様ら、何を言うか、最初に落ちるのは刈谷、お前だ」

「刈谷、いまさらかもしれないが、賭けをやめないか?」

「もう遅い」

 完全に武藤を無視して話を続ける。どうやら坂本は無視してというよりこの態度を見て負けを確信したといったほうが正しいかもしれない。

「まあ、それはともかくとしてどういう作戦で行くんだ?」

「各自考えうる限りで最善の行動をとる」

「つまり」

「各自の判断に任せる」

「それでいいのか?」

「むしろそれが一番いい」

 かくれんぼ、駄目なのは鬼の魔法に当たること、指定範囲外に出ること、結界の使用、武器の持ち込み……。

 一番楽なのは鬼をとっとと倒すこと、次に楽なのは防衛魔法を使うこと、その次は魔法無効化の陣を書くこと。

 どれも結界ではない、結界の定義は空間の隔離なのでよく勘違いされるが、これらを結界とは言わない。

 この場で最善の方法は防衛魔法の使用だろう。次が魔法無効化の陣を書くこと。

 後十分ほど準備期間になるのでその間に陣を書き終えることは可能だ。

「貴様ら!聞け!!」

 どうやら考え事をしているうちに武藤がしゃべっていたようだ。まあ、一応聞いてやろう。

「まず、相手は生徒会だ。それにこのゲームに決めたのもやつらだ。恐らく必勝法がある」

 まあ、あるな。このフィールド一体に魔法を使えばいいんだから。

「その必勝法は分からないが、俺は個々で行動するのはまずいと思う」

 僕の考える必勝法ならどう行動しても相殺か無効化しないと駄目なんだけどな」

「そこで、俺は二人一組で行動し、どちらかがやられたらその方法をもう片方の組に伝え、どちらかだけでも生き残らせる方法を推奨する」

 いろいろ反論はあるが、一応一言。

「異議あり、戦力を分けて同時にやられたら目も当てられない」

「そうなるとは決まっていない」

「常に最悪のことを頭に入れておかないといざというときに混乱してしまうからいけない」

 そういうのは雫。

「そもそも、個々に撃破する方法が必勝法と思えない。出会えなかったら使い物にならないんだから」

 そういうのは坂本。

「じゃあ、どうしたらいいというのだ!」

「一度黙れ」

 準備時間は後五分。

「一番確実なのは、魔力無効化の陣を書くこと。次に防衛魔法を使うこと」

「それって結界じゃあないのか?」

「魔力無効化は破魔魔法、防衛魔法はそのまま防衛魔法に分類されるから大丈夫だ。そもそも空間に作用し、空間ごと隔離することを結界というんだ。覚えておけ」

「それに、そんな魔力どこから持ってくるんだ?」

「ここには4人もいるんだ。一人当たり一時間半、そのぐらいいけるだろう。それに交代も出来るんだし」

「刈谷、誰も彼もがお前みたいな魔力の塊だと思うな。普通は一時間続けばいいほうだ」

「刈谷、一時間でも一流レベルなの。ここにいる四分の三はそれぐらい出来るかもしれないけど、誰でも出来ると思わないほうがいいわよ」

「はっ、お前では無理だということが分かっているとはいえ、それを俺たちが絶対に出来るとは思わないことだ!」

「いや、悪かった。でも、一つだけ訂正すると僕は六時間フルで使うことぐらい出来る」

 この発言に、雫はこちらを凝視し、坂本は頭を抱え、武藤は大きな声で笑った。

「出来るというならやってもらおう。だが、俺は中に入らんからな」

 ちょっと一言入れようとしたところでブザーがなる。始まったようだ。

「雫さん。一緒に……」

「一人で行ってらっしゃい」

 そう雫にいわれ、とぼとぼと去っていく。ドナドナが頭の中で流れた。

「まあ、こういった手前、やるか。

 ―――光と闇と四大の力よ、今ここに力をなくす場を作れ―――」

 詠唱はかなり省略したのでものの数秒で出来上がる。

「―――守護封陣―――」

 これでこの中ではほとんどの魔法は意味を成さない。ここで魔法を使おうと思ったらこれにこめられている魔力以上の魔力が必要だ。

 数分後、一面に光が走った。

 陣の中は無効化されているが、恐らくほとんどが脱落しただろう。

「坂本」

「分かってる。一週間だったな」

「だったらいい」

 何をやってたんだという雫の目を無視して、陣の魔力調整に集中する。少し今ので削られたが、さして問題はなさそうだ。一応足しておいて維持の分の魔力を送り続ける。

 二、三時間後こっちに人がやってきた。

「ちょっと、あんたたち。結界は反則でしょう」

 どうやら幼女様だ。

「別に結界じゃあないですよ。和名、全属性混合上級軍用破魔魔法ですから」

「甘かった……。こいつならそういうとんちじみたことしてきそうだって副会長に言われたんだった」

 そういって両手を地につく会長。しかし、はっと気付いて、

「そうだ、魔力切れになるまで待てば……」

「期待しないほうがいいですよ」

 そういって刈谷はもう一つの魔法を唱え終わり、

「ったく、無駄に長いんだな。

 ―――エクスプロージョン・ノヴ……」

「ストップ。ストップ!刈谷待て、それはさすがにまずい。死人を出す気か!?」

「あ、そうか危ない。ありがとう坂本」

 因みに刈谷が唱えていたのはエクスプロージョン・ノヴァで、和名火光系統混合禁術級軍用壊滅魔法。主に戦争で使われる魔法で大体百人で詠唱し、一都市を壊滅させられるほどの威力を持っている。刈谷は効果範囲の広さから選んだが、威力を全く考えていなかった。

「じゃあ、坂本。どれならいいんだ?出来ればこれを残り時間続けるよりそっちのほうが楽でいいんだが」

「選択肢は?」

「エクスプロージョン・ノヴァ、ダーク・バニッシュ、グランド・バインド、ルナティック・ライト、ハリケーン、後は……」

「もういい。あきらめろ」

「えぇ!!」

「順に言って火光系統混合禁術級軍用壊滅魔法、闇系統殲滅級軍用破壊魔法、地光系統混合最上級束縛魔法、闇光系統混合禁術級禁術軍用破滅魔法、風系統上級破壊魔法だね」

 ここで冷静に整理する雫はすごいと思う。

「なぜだ!何故その中だとハリケーンが弱く思えてしまうんだ!」

 これは坂本の声。

「一つ禁術混じってるね」

 これは会長の声。

「いやぁ、これでもルイン・クラストを抜いたんだよ」

「それは、全属性混合禁術級禁術破滅魔法!使う使わない以前に使おうと考えること自体がおかしい!!」

 会長は少し疲れた顔で、冗談だよね。と言うと、刈谷はもちろんです。と答えた。

 一瞬でも使えば楽だなと思ったことは言わないほうがいいだろう。

 それに、そもそも使えること自体がおかしいのだが、そこに誰も疑問を持つことも、ツッコミを入れることもなかった。

「坂本、どうしたら良いかな」

「このままのんびりしておけ」

「―――はい刈谷、将棋盤」

 そういって雫が将棋盤と駒を持ってくる。

 どこで手に入れたんだろう?

「さっきのうちに外に出て錬金して作った」

「そうか、じゃああとはタイムアップまで暇だしやろうか」

 そういって駒を並べ始める二人、

「刈谷、防衛魔法は使ったのか?」

「もちろん。この破魔魔法の上に五メートルぐらい上乗せして」

「魔力は?」

「余裕」

「じゃあ良いな」

 とまあ、だんだん刈谷の魔力のおかしさに麻痺してきている坂本、

「えーと、みんな。こいつら潰すの手伝ってくれない?正直私の人間性が出来てないからじゃあなくて、ただただ一魔術師としてこれは一度破らないと気がすまない」

 魔術で連絡を取り、メンバーを集めて防衛魔法と破魔魔法を破ろうとする会長。

 そんな中でのんきに将棋を打っている刈谷と雫は端から見ている観戦者の緊張を緩ませていた。

 因みに、坂本は一応詠唱を行い、いつでも魔術を打てる準備だけしている。

 どうせ破魔魔法が破られないと魔術は使えないのだが……。


 数十分後、生徒会のメンバーが一堂に集まり、

「これは無理だ」

「気持ちは分かるけど……」

「会長、これはあきらめましょう」

「会長、こんなの俺一人で十分だぜ!」

「馬鹿はほっとくとして、これは私たちでは破れませんよ」

「これを破るぐらいならサンクチュアリを破るほうが簡単」

「下手な結界よりは圧倒的に硬いね」

 と、口々に否定の言葉を発し(一人は違うが)、

「やるなら魔力切れ待ちでしょう」

 と言う声がそろった。

「ちょっと待てよ。こんなの俺一人で……」

「十秒……………二十秒……」

 中の連中は完全に外への警戒をしていない。と言うかこれを破ろうと思ったら刈谷が言ったレベルの魔術を一点に集めなければ難しい。

 全属性混合軍用自動防衛魔法、これは戦時中に城とかを守るときに使う防衛魔法。

 あらゆる魔術に対し、相性のいいものを選んで放たれた魔法を迎撃する。魔法以外のものに対しては全属性混合の魔力弾で迎撃する。現在最も堅牢な防衛魔術の一つ。

 攻略法はほとんどなく、魔力切れを狙うしかないのが現実。

 魔法の外で緊張感が高まっていく中、

「―――百五十三手を持って刈谷の勝ち」

 魔法の中では外のことがうそのように緊張感がなかった。


 用語解説

 ルインクラスト、破滅をもたらす光が当たったところすべてを消失させる。


 守護封陣、ありとあらゆる魔術を無効化する空間を作り出す。ただし使用者の魔術は無効化されない。また、作られた後のものも無効化されない。


 サンクチュアリ、光属性最上級結界魔法、聖なる光の力で使用者の示したもの以外を遮断する。


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