壱章・巻六「鯱が総べるは電脳と暗闇の海・後」
タイムリミット残り 01:28:39
「おい貴様、何者d……ぐあっ!」
「悪いが時間がないんでね……実力行使でいくよ」
東郷が真っ先に噛み付いてきた警備員をにボディブローを叩き込み
沈めると、右手を握りこぶしにし、構えを取る。
「この人数で相手は視界が悪い……問題ない、かかれーーっ!」
隊長と思わしい男の掛け声が入ると
周りの数人が腰の警防を抜き、東郷へと突っ込んでゆく
「はぁ…これだから馬鹿はひとつ覚えでつまらないな…っと!」
「きさま、どういうつも…ぐあっ!」「あいだっ!」
ひょい、と突っ込んできた一人を飛び越え他の一人にぶつける。
着地と同時に背後を蹴飛ばし、二人同時にふっとばした。
「馬鹿な!?貴様は暗視ゴーグルを持っていないはずじゃ……」
「確かに僕は持ってないね。でもそんな重い物いらないよ
僕には「音」があるからねぇ」
「鯱」。
それが「東郷 秦」の名乗る獣。
海を泳ぎ、力強さと高い知能を持つ。
そして、その精密機器レベルの知能こそが彼の特色だが
それ以上のものとして、聴力と視力の良さが上げられる。
海だろうとも、夜となればほぼ暗闇に近いものになるだろう。
それを統べる者こそ鯱。
そして、それ故に彼は鯱を名乗る。
知恵と身体能力で暗闇をも機動力を見せ
海のように広い電脳世界ならば向かうところ敵は見えない。
暗く果ての見えない海、それが東郷の支配下。
「……ま、こんなものかな?ひーふーみーのっと……9人か」
きっかり9人が東郷を中心にして伸びている。
ほとんどは白目をむいていたが、ささやかな優しさだろう。
「んじゃ、ターゲット確保~っと」
────東郷が、集合場所を出て五時間後。
「ただいまーっと」
「ん、ジャストじゃな……ちょうどこっちもできたぞ」
右手に器を持つ穂影がそれをカウンターに置くと東郷が
持ち帰ったものを穂影に手渡し器が置かれたカウンター席に座る
「しっかしおめー……ほんとそのパターン飽きねぇな」
「ここのハヤシは絶品だからね、どうしても食べたくなるのさ」
のんびりと東郷は自身の好物であるハヤシライスを食べていく。
その光景はあまりに変わる事を知らなかったがため煉侍があきれ返るように言ったのだ
「では総理、これが任務概要のものにございます」
「はい……確かに!ありがとうございます!」
雪雨が笑顔を浮かべると、それにつられたのか
礼菜がもまた笑顔で雪雨に近づき言い放つ。
「次、あたしがやるねー」
「あぁ、わかりまs……へっ?」
「あらっ、先に礼菜がやるの?……別にかまわないけど
仕事はちゃんと会ってるのかしら?」
朽葉の言葉とともに、ファイルをがさごそとあさくると
おっ、と言う声を上げ白雪が書類を見せる
「それでは……これなどどうでしょうか?
潜入任務ですし、うっけつけの物だと思いますけど」
「うん、いいよー!あたしがんばる!」
ガッツポーズで笑顔を絶やさない礼菜に白雪は見惚れ
はっ、と我に返ると顔を赤くしてうつむくのであった。