壱章・巻参「嘴は血塗れ闇を喰らう・後」
「……表は、これで終わりか」
隊長、と思わしき男の腹から刀を引き抜こうとしたが
「な………もの…だ…」
「息があったか……安心しろ、首は速いうちに落としてやる」
「そう…で、ない」
口髭を携え、緑の軍服を着た男が煉侍に問いかける。
苦しそうに声も絶え絶えながらもその目は死んではいなかった
腹部には刀の前半分に貫かれており
血が未だに留まる事はない。
「……なら、何だ?俺の正体か?」
「それ…もあ……るが……我輩は……
今まで負けを知ら…ず…生きて……き…た…
……い…ま初めて負けで………冥土の土産に…名を…
あん…たの……名を……聞きたい……」
「……政府非番暗躍部隊「七獣」大将……『旅烏』の煉侍」
目の前にいるのは雑兵でなく、一人の戦士。
そう煉侍は直感し、その願いを聞き入れた
仮面の下の目は、弔われる家族を見るような目で男を見つめる。
「……「七獣」…か………さい…ごに…あんたのような……
強い…男…に……会えた…こと……うれしく…おも…うぞ」
「……心の隅に置いておこう。お前のような戦士が、この時代に生きていたことを」
その言葉を最後に、男が満足げな表情を浮かべ目を瞑った。
煉侍はそれを悟ると腹部を貫いていた刀を一気に引き抜き
その首を、おぼろげに切り落とした。
「……お前とは、別の形で会いたかった」
男の亡骸に一礼した後そういい残し、その場を後にする。
そして屋敷の本館へと歩を進める。
煉侍が屋敷に侵入し、早5分。
そこに広がる光景は無残なものだった。
死体が大量に転がり、首が切り落とされた者が多い中
ハラワタを裂かれた者、手足をあらぬ方向に折られ死んでいる者。
首だけを集中的に攻撃された者。
屋敷の中も庭も、おぞましいぐらいに血塗れた死体だけが
様々な場所を転がっていた。
「なぜじゃ!?なぜわしが死なねばならん!?」
「てめーの胸のうちに聞け」
おびえ腰である部屋に座り込んでいるのは他でもない間島。
その目の前には烏───煉侍が威圧感を放ち立っている。
「あわ…あわわわ……」
「烏の嘴を前にして、戦う意思がないならば
そのまま死んでゆけッ!」
腰の刀に手をかけ、刹那の瞬間。
月明かりで銀色に輝く一閃が、首を捕らえた。
血飛沫を大量に上げ、残された体が崩れ落ちる。
殆どの血飛沫を煉侍は大量に浴びていたが
微動だにせず彼は動くことはなかった。
切り取られた首から血飛沫が止まると、くるりと振り向き
窓から烏の様に飛び出した。
────翌日。
「よっ、待たせたか?」
あれだけの大仕事をやってのけたというのに
何一つ変わらない顔で穂影の店に煉侍が顔を見せる。
「煉侍ぃ!よかった……私すごい心配したのよ?ね?ね?
ちょっとくらいゆっくりしましょ!ねっ!」
「オイオイ……息苦しいっての…」
煉侍の無事を確認した朽葉が真っ先に駆け寄り、ぎゅっと抱きつく。
当の本人は、微妙な顔をしていたが。
「……ま、俺の分はこれで終わりだ。
で、次は誰が行くんだ?」
「なら、僕が行こうか」
煉侍の問いかけに真っ先に反応したのは東郷。
眼鏡をくぃ、とあげると白雨の顔をまじまじと見つめる。
「あ、はい!仕事ですね? え…えーっと……そう、ですね
この場合だと………盗みか、ハッキング作業になりますが」
「どちらもやろうか」
2つの大仕事になろうである選択肢。
それを東郷は1秒たりとも考えず両方を選択する。
「え、え、え、え、えぇっ!?」
「問題は微塵もない……仕事概要を」
一気に真剣な表情を作り、白雨を見つめる東郷
その強い目力に負けたのか、仕事の内容を
つらつらと話し始めた