壱章・巻九「狐は人を騙し、そして呪う・前」
平崎 朽葉。
彼女は巫女である。
由緒正しき神社の長女として生まれ、それを彼女も理解していた。
その彼女がなぜ、この世界に来たのかはは
分からないが、一番想定できるのは父が旧七獣の一員だっというのが有力だろう
「……さて、今日こそ仕事かしら」
彼女の仕事は主に計略
人を騙し、そして呪うなり何なり。それが彼女の字が狐たる由来
(まったく……私は巫女なんだからそうそう動けないのよ
それをあの子、チャンスが少ないから積極的に動きなさいって……)
境内で朽葉は溜め息混じりに愚痴をこぼしていた。
本職はどっちだと聞かれれば間違えなく「両方」と答えるだろう。
しかし、「両方」本職故に朽葉は動けなかった。
朽葉の実家でもある「星守神社」は由緒もある上に受験生や就職希望者などさまざまな人間が来る。
その神社の巫女であり看板娘としてもいるため場を離れることができないのだ。
(しょうがない……夜になんとか…あら?)
ふっと、朽葉は鳥居のほうを見てみる。
そこにはスーツに葉巻と、いかにも偉そうな男が黒服と共にやって来ていた
(……まさか向こうから来るなんてねぇ………それじゃ、摘んでやりますか)
知恵を張り巡らせ、朽葉は計略を組み立てて行く。
その計略は男の身を破滅させるべく、凶悪なまでに緻密に作られるのだ
「………どうも、おはようございます」
「んんっ?誰だ貴様は……」
「社長、この娘が例の…」
黒服が社長と呼んだ男に耳打ちする
男はそれに反応し腕を組み首を縦に振る
「ほぉう、この娘が朽葉か」
「……私に、何が御用でしょうか」
嫌悪な表情で男に答えるも男は関係ない、と
言わんばかりに朽葉の手をつかむ
「ッ!?な、何をする気…!?」
「気丈で……ふむ、肉付きもいいし若いな……気に入った」
朽葉はハッと思い出した。
この男は女癖が悪く度々それ絡みで事件を起こしていたこと。
それを政府高官という力でもみ消して地位を確立していること
本来ならこの場で背負い投げをするなりしてもいいのだが
あくまで「今は」巫女である故に何もせず
ただ手を揺らし抵抗するだけであった