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皮肉  作者: ik_brtr
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3

ぐろいかも。でもグロ期待するとそうでもないかも。

ぼた、ぼた、と、鼻から液体が流れている。血液ではない、消化液の類い。酸に

粘膜が焼ける。子供の頃にはよく味わう痛さと臭さ。


「立てよ」

「……あい」


目眩が起きそうだ。先輩がこちらも見ずにタオルと水筒を投げてくれた。言い訳も面倒なので黙礼だけして、もぎ取る。休みなのを叩き起こされて連れてこられたんだから、ペーペーの分際ではございますが少しくらいは不機嫌をあらわにさせて頂く。胃液の逆流に耐えるようには出来ていない粘膜が、空気に触れてひりひりする。ただよう強い薬品のにおいと胃液の相乗効果でもう一回か二回は余裕で吐けそうだ。fuck

先輩方は顔色一つ変えずに、棚にずらりと並べられた証拠達の写真を撮ったり、メモをしたり、とにかく奴さんがここに住んでいるのは間違いなさそうだ。おかしな方向にねじ曲がった木の根とか、首が2ついた猫とか、人差し指と薬指が百合の花のように根元まで『咲いている』左手とか、化物屋敷と呼ぶにふさわしいラインナップが仰々しいガラス瓶の中で眠っている。血の気の多い先行隊が得物を手に地下に入ってからもうすぐ30分。魔女を一人捕まえるだけの簡単なお仕事、ちょっと久しぶりの休みを潰されたりグロくて吐いたりもするけど。職場暴力もセクハラもないアットホームな働きやすい職場です。(セクハラはほんとにない)

もう一回こみ上げて来る前に綺麗にしてしまおう。扉を開けてくぐもった空気立ちこめる屋外に出る。森の中は普通空気が美味しかったりするんじゃないだろうか。フィトンチットとかで。気化した薬品が高濃度で漂ってる様な家の中よりは

マシだけれど、この森に漂う閉塞感で胸の中まで泥に使ってしまった様な変な感触。ともあれ口を濯ぎ鼻もかんでから鼻うがい、真水でやると本当に痛いけれども仕方が無い。タオルをしぼって顔を拭う。むわっと獣のにおいを感じた。……

ちゃんと洗ったのを渡して下さいよ先輩……。残る胃液の臭いと獣の臭みに辟易としながら軋む戸を開け


「いらっしゃい」


背後に立たれたのがいつなのか、判断する余地もなく戸の横にいた先輩に首根っこを掴まれ引きずり、床に倒される。ガサガサとした、そう場末の酒場にしけこんで昼間から安酒カッ食らってたいた頃の姫を彷彿とさせる女の、嗄れた声。


「人がいない間に家捜しするのは泥棒なんだけどね。あんたらの上司は言わなかったのかしら」

「狼狽えるな!確保だ」


リーダーが麻酔銃を構える。鑑識が腰のナイフを構える。魔女は不愉快そうに口の端を歪めた。笑顔によく似ている。写真でしか見た事のない、魔女。血なまぐささと開いた瞳孔と、威嚇の表情がなければふつうのひとに見えたかもしれないが、魔女の右手の先に、ぶらぶらと先行隊の4人の首が揺れている。左腕は見当たらない。袖ごと誰かが千切ったのか、肩口から思い切り潰れかけた切断面が見えている。獣くさい血がぼたぼたと流れていく。さっきの獣臭はこっちか、ごめんなさい先輩。というか先輩のタオル。魔女の左腕は叩き切ったのか、折り取ったのか、骨が槍の先のように尖って、飛び出ている。あのままタックルとかされたら確実に刺さるよな……。

床の上でもがいていても仕方ないので、腰のナイフを構える。本当は苦手ですナイフ。というか刃物嫌いです。刃物は人に向けて使っちゃいけないっていうか危ない物に手を伸ばしたら駄目駄目っていう親の教育方針だったもんで、おかげで

刃物の類いから完全隔離されると料理も洗濯も自分の面倒もまともに出来ない大人に育ちました。


「マダム、貴女に逮捕状が出ています。ご存知とは思いますが。」

「人の子の法で縛るというの?」

「そうです。貴女も人の子である以上は。」

「……都合が悪くなると人間扱い。おかしいとは思わない?嗚呼そうね、いつぞやの領主が発行したらしい魔女の証明書でも見る?『下記の者は人に非ず』って堂々と書いてあったと思うんだけど」


リーダーの眉間に海溝ができる。その論議は実際大分されたからだ。つまりは人なのか、獣に身を墜としたか、もうちょっと頂けない人外の何かにまで変質してしまったのか。書類上は完全に『存在を許されない人外の化物』とされている。

魔女の言う書状のとおりだ。

化物相手ならば教会の出番だが、困った事に魔女の元に通っていた娘達はこぞって『人の形をして、人の言葉を話した(貴族の様な格調高い言葉だったと言う者もいたくらいだ)』と主張する。人間相手にご禁制のあれこれをナニしていたというのならば今度は警邏隊の管轄だが、警邏隊は『都市部以外は管轄じゃねえ』と突っぱねた。確かに人間相手が専門の、どんなチンピラも組織的自由業もケツまくって退散すると評判の警邏隊でも、不慣れな森に入ったとしたら殉職者を出さずに帰る事は出来ないだろう。

仕方が無いから軍に掛け合った結果、山を越えた一地方都市のたかだか一人の女の為に、ぽんと征圧隊を送り込むなんて馬鹿らしい事は出来ない。が、年の初めから試験的に組んでみた特殊事件用の部隊なら短期間貸し出してやっても良い、

と(もちろんそれなりの誠意は見せてもらうんだろうが)。そういうわけで権力を傘に着た破落戸6匹とペーペー1匹が紆余曲折を経てここまで来たんだが、……すでにしっかりもの2人とおまけが1体になってしまた。


「そもそも『人ではないから森に行け』って言ったのはそっちでしょう」

「……存じ上げております」

「リーダー!こんな魔女に」


次の言葉の母音が吐き出されないうちに、鑑識の首が後ろへすっ飛び、普通なら血がぴゅうと吹き出るであろう切り口からは、血どころじゃあなくずるずると内臓が飛び出した。頭にくっついて悪趣味なリボンが目の前をすっ飛んでいく。飛

頭蛮にジョブチェンジしたらしい。次は私も華麗に妖怪の類に転職か。


「そういや都落ちの勧告をしたのも『七人の小人』だったわね」

「……ええ」

「こうなると見越していた?」

「そうなると好ましい、程度ですね。」

「そこの下っ端が」

「………あの日の、私です」


魔女は下を向いた。無防備に、幼女のように。隙だらけのその体に刃物を突き立てるくらい、鈍くさくても出来そうだけれど尻が床にひっついている。どうもチキンです。



「本当の事を仰いね、目当ては私ではないのでしょう」

「……相変わらず聡くていらっしゃる」

「あの娘がいうのね?」

「いえ、妹君を旗印に掲げたい者達が」


少し目を丸くした魔女が、向きを変えこちらに歩み寄る。頬にぽたぽたと、切り口から、血が、垂れた。


「どうか妹君を連れてお逃げ下さい!」

「あんたねぇ、女連れてきてどうするのよ」

「……、なんで…それを!」

「嗚呼違った。両方持ってんのね」


どうでもいいけど極秘事項、と言うものが世の中にはあって残念ながらそれは私にも付いて廻っていた。男のみでありながら女の部品ももっている。もっと判りやすく言うと入れる方が本業だけど前に突っ込む事も出来る。通常の軍隊に入れるには幾分問題ありと見られたらしい。そうでなきゃこんな変てこ部隊にすすんで入ることは無いだろうけれど。

人か獣か異形のものか、で分類したら人にはなる。医学的にも信仰的にも。

ただ田舎の頭の悪ぅい輩には、田舎特有の蔑む対象にしかならなかったわけで。通常部隊でそんな目をもう一度味わうなら、人員補充の激しい変てこ部隊で、実力だけで評価されたほうがなんぼかよかった。きついけど。


「陛下!!」


リーダーに向き直ると、魔女はひどく冷たい声で吐きすてた。


「選びなさい。お前が。あの腐れアマの目論見通り皆死ぬか、……犠牲を伴っても、誰を踏み越えても、誰か鍵に成りうる奴を生かすか」

「……」

「どの道あのこはもうここにはいないわ。…選びなさい」


魔女は緩慢な動きで腰を伸ばして、鑑識が握ったままのナイフを手に取る。


「生かしましょう」

「そういうと思ったわ、この甘ちゃんが」


血曇りのないナイフの根本の方で、鑑識の腸を切る。1mほど首から垂れ下がっていて、途中の膨らんだ所は胃だろうか?

机の上に5つの生首を並べ、鑑識の頭を撫でる。腸が意志を持った生き物のように、いまだ血が垂れ流れている左肩にするすると伸び、うねり、ちょうど剣玉の玉のような具合に留まった。魔女は残りの先行隊の首を一つずつ押し付けては素早く伸びた腸を巻き付ける。四角く並んだ先行隊の首の最後に、中心に鑑識の頭を据えると、巾着の紐を締めたように肩の付け根が縮んだ。


「人だ人でないの決着が前に異形の者になってしまったわ」

「例え異形を狩ろうとするものが現れても、……この身に変えましても」

「身を変えるのは、……こっちでしょ」


振り向かれた。

肩から人間の頭を5つ咲かせた異形の者に、振り向かれた。魔女より先に肩の頭の一つと目があった。先行隊の頭達の目はカッと開き、くちびるは一定のリズムで戦慄いている。


「痛くはしないわ。安心なさい。ショック死なんて笑えないミスはしないわ。」


魔女の瞳も、いよいよ人でない者のように煌々と輝いている。緊急時だからか体がピンと跳ね起きた。逃げなければ。しかし後ろからがっちりと固められる。振り返るまでもないリーダーだその腕は。何回も組み手をしたこの腕を今は払いの

けなければ。気が遠くなる。遠く、遠くなる。振りかぶるその切っ先を避けなければ。無理だねむいこれは異常だ、逃げないと胎に刃が食らいついた瞬間、意識は閉じた。願わくば、

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