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皮肉  作者: ik_brtr
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『誰かのため』が、本当にその誰かのためになることなんてあり得ない。と、思う。


母親は嘘泣きの様な声を上げてひいひいヒンヒンと泣いている。私が悪いんでしょう。そうでしょうそう思ってるんでしょう実際そうなんでしょう。ただ、私が悪いと定義してしまうと不都合が出るから、それなら『一重に私の不徳と致す所で』泣いていることにすれば誰かがいい感じに慰めてくれる。慰めて欲しがっているその気持ち悪い生き物は、しっかり涙を流している割にしっかりとした言葉で私を責めている。叱っているんじゃない。甘ったれているだけだ。

私は甘ったれは好きではない。愛情を欲しがって泣いたり、欲しい言葉を掛けてくれないからといってすねたりする、そういう奴は嫌いだ。


椅子に正しい姿勢で腰掛けててはお膝。母親の言い分を聞く時には常に良い子の姿勢。でも机の下では呪いの言葉を爪で刻む。爪じゃあ大した傷はまずつかないし、塗料がはげてものたくった鏡文字になる。なにより手元を見ていないから、大丈夫これは他人には意味のない引っ掻き傷の羅列。呪いも、大人の言葉に込められた矛盾も、決して聞かれることのないこどものいいぶんも、全部全部意味のない線の集合。

大きくなるまで、切り売りする肉が出来るまでは、大人にやしなってもらわなくちゃならない。つまり所有物、人権なんかない。嬲るも殴るも飾り立てるも、泣き女のような精神攻撃で嫌な大人に仕立て上げるのも、子供にはどうにも出来ない。保護者は必ずしも保護してくれるわけじゃない。要るか要らないか、使えるかゴミと同レベルか、手元に置くか売り飛ばすか、いろんな選択肢をくぐり抜けて、手元においておくだけの価値があると判断されれば保護される。失敗作なら要らないと言われる。失敗作でなくたって媚が売れなきゃ捨てられる。


「はやくたべなさいよ」


スープもパンも餌だ。いや飼料という意味でもあるし罠でもあるし、小言というにはかわいらしいが、つまり『小言を言っても馬耳東風、食事の方が大事な娘。嗚呼なんて可哀想なワタシ』という方向性に持っていきたいらしい。そうですか、そんならいただきましょ。だから言ったでしょ媚も売れないガキは遅かれ早かれ死ぬしかないんだって。パンについて汚らしくこぼしながら食べた方がより高得点なのは解っていたけれど、さすがにまた夜中におこぼれを食いにきたネズミを絞める為に起こされるのはごめんだから、注意深くこぼさないようにパンを千切り口に運ぶ。


「あんたまたおばあちゃまの所に行きたいとか考えてるんでしょ」


あらま、なんか明後日の方向から会話が飛んできたもんだから、さすがに最近の行動を振り返る。祖母、祖母ねえ。いや私はあんまり好きでもないし、何しろこの母親をこうやって歪ませて育てた人であるからして行った所で愉快でも何でもないんだけどな。母親側からしてみたら『こんなに頑張って育ててるのに、甘やかす実母の所に行きたがる娘。嗚呼なんて可哀想なアテクシ』をしたいんだろうけど、ねえ母上ちょっと突飛過ぎやしませんか。


「・・・べつに、私はおかあさんとこの家に」

「行きたいんでしょ!?そうよね、こんなキ●ガイみたいなおかあさんの小言聞くくらいなら、おばあちゃまからお小遣い貰って遊んでた方がたのしいもんねえ!?あんたはいいわよね愛情たっぷりで育ててもらっておかあさんのきもちなんかわかんないんでしょ!お掃除もやったーなんて嘘ついて!おかあさんあんたに嘘吐かれるのが一番嫌だって知ってるくせにね!あー嘘吐き嘘吐き。」


なんでもう使う予定のないであろう子宮で物考える女って感情に任せていきなり話ぶっ飛ばすんだろう。謎。祖母の家に行かせたいのか、嘘をついたことを(最も嘘を吐いたわけではないんだけれども、もう反論するのも馬鹿らしいから嘘吐いた体でいる。)なじりたいのか訳が分からない。

大体脳も共有してないのになんで気持ちがわかるとか思っちゃうんだろう?


「・・・わかった、おばあちゃまの家に行ってきます」

「あんたねえそれしか食べないの!?そうやっておばあちゃんに『ご飯食べさせてもらってないの〜』って泣きつくのね!嗚呼嗚呼嗚呼汚い!ほらも〜っと食べないと倒れちゃうわよぉ〜」


しかしながら母親という生き物はなかなか賢いので、こんなこと言いながらも絶対に無理矢理口に詰め込むなんてそんなことはしない。自主的に、食べたいと強請ったから食べさせたんだ、そういうためにはむりやり気管に詰め込んで窒息させるなんてゲスなことはしない。おそらく一週間分のパン全てを目の前にドッと置くだけ。にやにやしながら眺めるのかと思ったら(ちなみに眺められても決して母親の方を向いてはならない。食事中に母親の方を向いたが最後、『物欲しそうな目で見るな!』とか、『他所でもそんな顔して、うちが乞食だと思われるだろう!』とかの罵詈雑言をうけたあげくにやっぱり目の前がパンの山になるからだ)棚の上から大きなバスケットをおろしてきた。え、ちょっと待って。食事終わったら即たたき出されること確定か。ちなみに現在は夕食中。もちろん夜。つまりあれですねこれは、最後の晩餐終わらしたら、狼に食われるなり谷底に落ちるなり魔女に捕まるなりしろと。ようするに死ねということですね。イエーイ。まあガキの命なんて大人から見たらそんなもんだ。森を抜けた所にある友人の家では、継母さんが兄妹を捨ててこいと父親に命令してたそうだから。しかしながらあそこの兄は賢いもんで(妹は馬鹿だ。私より少し年上の筈だがどうにもこうにもオツムが弱い。)父親に内緒で手伝ってもらいながらあばら屋を建ててしまった。父親は目下妻の家と子供の家を往復する二重生活を送っているらしい。人間、したたかさが肝心だがさすがにあのボロ屋に世話になるには気が引ける。


「はい」


食卓が軋んだ。バスケットの中に、あらかた物を詰め込めたらしい。


「あんたの大嫌いなバターとレーズンのた〜っぷり入ったケーキに、木こりの奥さんから頂いた上っ等なワイン。ふふふふそれからねえ、それからねぇえ、あんたが取ってきた木いちごのジャムに、甘ぁい蜂蜜が一瓶。あんたなんかねえ、生きてる間には食べられない様なボンボンも!」

「・・・はい」

「あんたが生まれるまではねえ、町にいた頃はボンボンだってキャンディーだって、欲しい時にいつでも食べられたのよなのにあんたなんか出来るから!生まれるから!」


堕胎すればよかったのになんて言ってはいけない。あんただって何人何十人と堕ろしてきただろう自分だけ産んで悲劇のヒロインか、なんて言ってはいけない。いままでニヤニヤ笑っていたのに、またしても嘘泣きの様な声を上げて泣き出したその肩に毛布をかけてはいけない。

梁に打たれたコート掛け用の釘から、赤い頭巾を取って巻く。頭巾とは言うけれど肩までは隠れるし当分寒さはしのげる。どこか解りやすい所にボロボロに切り裂いて捨てておけば、母親も安心するだろう。泣きながらもチラチラこちらを見る嫌らしさを私は忘れない。覚えとけクソババア。


「行って参ります。」


やったら重いバスケットを担いで立て付けの悪い扉を開けると、真っ暗闇が広がっている。一歩踏み出したら問答無用で背後の扉が閉められた。

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