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side 誠 2


「誠君今日はさ、ディディーズに寄って限定の抹茶チョコシェイク飲んで帰ろうよ。リサちゃん達が美味しいから絶対飲んだほうが良いって言ってたよ」


「いいじゃん抹茶。寄ろう」


「わーい行こ行こ」



今日も護衛部隊だらけの街で、すみれは嬉しそうに歩いて行く。



「誠君、アザ大丈夫?」


「全然へーき。ムカつくけど」


「皆さ、ひとつの試合で何個もケガするもんね…。そういうスポーツだって、仕方ないって分かってるけどさ。それに優勝してるのにアザ1個だけの誠君が凄過ぎるのも分かってるんだけどさ」



先日のパルコン世界大会、ここ数年は誰とコンバットしても傷ひとつ貰わなかったのに、今大会は準決勝でうっかり右顎を掠められてしまった。同じクラスの本田貞宗に。

貞宗は今大会こそせめて1発は俺に喰らわせたかったらしく相当悔しがっていたが、掠めただけでアザになったのだからかなりの威力だ。


痛みはほぼ無いが、なにしろ顔なので目立つ。

クラスの部隊員連中にはアホほど揶揄われたが、すみれはビックリしてしまい毎日痛くないか心配する。


「痛かったりさ、違和感あったらすぐ病院だよ、絶対行ってね。すごいアザだもん、ヒビとか入ってるかも」


「痛くないし大丈夫、でもあんがと」


本当に大丈夫なんだろうかと心配げにすみれが俺を見上げてくる。と同時に、俺がフワっと光り出した。


「わあ、光ってるね誠君」


少し目を細めてすみれが言う。


「昔は朝だけだったのにね、最近は昼間も時々光るよね。綺麗だから良いんだけどさ。本当不思議」

「それ。なんだろな分かんねー」


嘘だ。

本当は分かっている。

ここ数年、何故俺が昼間も光るようになったのかを。


すみれが、俺を心配すると俺は光り始める。


俺が怪我したりしないように。

俺が幸せであるように。


すみれが祈っている。無意識に。

世界の安寧を祈るのと同じ強さで、俺が痛みを負わないように祈っている。



朝光るのはすみれの祈りが自分の希死念慮の呪いを浄化しようとしているから。

昼間光るのはすみれが俺に悪い事が起きないように願うから。


すみれの祈りで俺が光る度、歪んだ喜びが腹の底から湧き上げる。


俺はクソだ。

すみれを心配させているのに、その祈りで光る度仄暗く歓喜する。



◇◇◇



クラスに転入生という形で解呪のスペシャリスト達が来る事になった。


すみれの祈りで俺が朝光るようになってから、日本の術者達からも分かるくらいに呪いの染みつきは薄くなってきているそうだ。

今なら一気に畳みかけて解呪出来るのではないかと本部が判断した。


双子だそうで、彼ら2人でしか発動出来ない能力で解呪を試みるという。俺達日本の部隊員は皆祈るような気持ちで彼らの到着を待った。



双子の部隊員にすみれはすんなり馴染んだ。

解呪するには対象者から数歩以内、触れる範囲にいる必要があると事前連絡があったのですみれに世話係をお願いする事になった。そのおかげで彼らが常に近くにいても違和感無く接している。


どうやって解呪するのかは最高機密なので分からないが、双子で対であることが呪いに対して専門適正を発揮するらしい。

彼らがやってきて、俺が朝光る日は確実に減ってきている。


いいぞ。


頼む。


俺は祈りながら、鋭くなってしまう視線を和らげようとこめかみを揉んだ。



◇◇◇



“緊急:不審な動き有り、留意せよ”


その日は朝から本部より緊急警戒が出されていた。

何かが動いている。

すみれの守りを一層強める。


「今日はさ、さんまの蒲焼き定食があるんだよ」


「あー小学生の給食でも出たよね〜甘くてサクっとしたとこあってめっちゃ美味しいの。私もそれにしよ」


昼休み、食堂に向かうすみれに瞳と陽菜が張り付くようについていく。

その周りを俺や双子、いつもなら校舎内や外の警備につく連中が囲んだ。


外が見える渡り廊下で結界の揺れに気付いた貞宗が、俺に目配せしてから何人か連れてすみれの側を離脱した。

その直ぐ後だった。


爆発だ。近い。

貞宗や本部からひっきりなしに連絡が入る。



既にすみれは食堂内に現着済み、ここはシェルター並みの強度なので安全だが油断は出来ない。

爆発を起こしたカス集団は即確保されたが念の為午後は学校を離れる事となった。


クラスの部隊員も学校全体も、温厚な亀のような総隊長、もとい長老先生までピリピリしていた。



近年、こんな近距離で爆発物による攻撃を許した事はない。

鎮守様に刃を向けるなんて。

鎮守様を攻撃するなんて。

それを防げぬ自分達護衛部隊も。



許さない。



クラスの部隊連中は皆殺気立っていた。

だが絶対にすみれに気付かれてはならない。

マキはいつもの感の良さでピリつくクラスメイト達に気付いているが何も言わない。何も気付いていないすみれにいつもより寄り添ってくれて有り難いと思う。



今夜の訓練はいつにも増して苛烈になるだろう。

護衛部隊はある意味鎮守様の狂信者みたいなもんだ。鋼の様な結束力ですみれを守る事を第一としている。

鎮守様を護る為に地獄のような訓練を乗り越えてきた。


なにより護衛部隊としての鎮守様への敬意と同じ位、同じ学校の仲間として、ただのすみれの友達として彼女の幸せを願う気持ちを持っている。

すみれが普通の日常を生きる日々を願っている。



◇◇◇



「すみれ達の班のカレーおいし〜」


「わーい嬉しい。どれも美味しいね」


「陽菜達の班のカレー野菜なくない?どこいったん」


「全部フープロかけて煮込んだ。おしゃれしょ」


「滋味深い味になってる」


「アベル日本育ちでも滅多に使わん語彙持ちでウケる」



調理実習は各班の出来上がりをクラス全員で試食し、それぞれ感想レポートを提出する。

俺達の班のカレーが出来た時、瞳がアベルとテレルに真っ先に味見をさせた。

視てもらう為に。



転入初日からアベルとテレルは解呪を進めている。

すみれから薄くなりつつある呪いは周りに染み出す。

側にいる人間に影響を与える事は無いが、すみれの作る料理を彼らが摂取すると解呪がどこまで進んでいるのか視えるらしい。直接対象者に触れることでもある程度分かるそうだ。


2人がカレーを口に含み、一瞬真剣な表情になった。

誰にも気付かれない程の刹那、テレルがアベルと視線を交わす。アベルがごく僅かに頷いた。


「美味し〜日本のカレーって感じする」


にこーっと人好きのする笑顔でテレルが言った。



◇◇◇

 


「呪いの核は消滅しています。あとは残滓を祓うだけです」


夜、作戦会議室に国の関係者と本部連中、日本所属の解呪の専門家、そして俺達学校関連の護衛部隊が集められ、鎮守様の解呪がどこまで進んでいるかアベルとテレルが報告する。


呪いの核が消滅している。



隣に座っていた貞宗に肩を叩かれハッとする。


「お前馬鹿か誠、拳壊れたら誰がすみれを守るんだよ、息も吸え早く。 ま、俺達だけでも問題ねーけど」


「…うるせえわボケ」


核が消滅している。そうアベルが言った時、無意識に拳を強く握り込んだらしい。広げて見ると爪の痕に血が滲んでいた。


だがそんな事はどーでもいい。呪いの核が消えた。

ここ数年、すみれを苦しめてきたあの腐った泥の核が消えた。


手のひらから視線をあげると、瞳と陽菜が涙ぐみながら喜んでいるのが見える。

会議は終わったらしい。早く戻ってすみれの警護を変わろう。

立ち上がると身体が光り始めた。そうか、すみれはもう寝る時間だな。



「わお。本当に光るんですね」


振り返るとテレルが目を大きく開きながら近づいてきた。

後ろにアベルもいる。


「えーテレル見えるタイプなの?いいな〜俺もお光り誠様見えるようになんねぇかな〜」


「貞宗は見えないのか」


「て事はアベルも見えんの?くそー俺結界張るしか出来ねぇかんな〜」


「結界師は鎮守様を守るうえで重要な役割を担う。感謝する」


「おおおアベル良い奴〜!お前らも呪いとっぱらってくれて本当ありがとな」


隣にいた貞宗がうるさい。


「…俺からも。アベル、テレル。俺達では解呪出来なかった。心から感謝してる、ありがとう。最後までよろしく頼む」


2人の目を見ながらそう言うと、アベルが頷いた。


「本当の事言うと私達、来る前は誠の事警戒してたんですよ〜。鎮守様に近寄らせて貰えないんじゃないかって」


何が面白いのか口角をにぃとあげながらテレルが言う。

鋭くなりそうな視線を押さえつける。


「テレル、敬語はいらない。学校と同じように話せ、調子が狂う」


そう伝えても「本来はこっちが素なんですよ、本部で会う時はいつもこうじゃないですか。気にしないでください」と笑う。


「テレルは心を開くのが下手だ。敬語で自分を武装している」

「ちょ、アベルやめてください」



変わった双子だと思う。性格も全く違う。

だが並外れて優秀なのは間違いない。


「まだ何年もかかるかも知れないと思ってたんだ。すみれの消耗が心配だった。本当に感謝してる」


「鎮守様の消耗は少ないと思いますよ。貴方が朝の光で浄化してくれていたのが大きいと思います。だからこそ我々も核を消滅出来ました」


「俺じゃない。すみれが自分の力で自分を守ってたんだ」


「…ふむ。私達の見解とは異なりますがまあいいでしょう。残滓の呪い喰いはアベルより私の方が専門になりますので、明日からは直接鎮守様、すみれに接触する事が増えると思います、今までよりも」


グッと力が入りそうになるのを堪える。

隣で貞宗が「まあ頑張れ」と声をかけてくる。うぜえ。


アベルとテレルの解呪は対象者の近距離で直接呪いを視ながら行うので、触れる事もあると最初から聞いていた。


「大丈夫か」とアベルが聞いてくるが、なにがだ。



テレルが一歩、俺に近づく。


「…貴方は星に選ばれた”お護り様“でしょう。私達が日本に来てからこんなに鎮守様のお側にいるなんて、本当なら身体中の毛が逆立つほどに嫌でしょうに」


そう言いながらニッコリ綺麗に笑いやがる。

クソ、ムカつくな。


「あのな。俺がどう思うかなんてどーっっでもいい。大事なのはすみれが健やかで安全かどうかだ」


そう言うと、今度はアベルが目を丸くし、テレルは一層深く笑んだ。貞宗は両手で顔を覆っている。うぜえ


◇◇◇



「すみれ、誠、今日も会ったね〜おはよ〜」


「おはようすみれ、誠」


「テレル君アベル君おはよう。今日もいい天気だね」


4人で学校まで向かう。

アベルもテレルも仕事に対してとても真摯だ。1日も早く完全解呪したいと思っているのが伝わってくる。


だから、俺は黙って今日もすみれを守る事に集中する。


すみれと話していたテレルが笑って、軽くすみれの肩に触れた。


その瞬間、テレルの喉笛を食い千切ってやりたくて瞳孔が開くのを感じるが、こめかみを揉んで堪える。

「大丈夫か」とまたアベルに声をかけられる。


大丈夫か?大丈夫だと思うか?

俺はもう狂ってるんだ。


本当は誰にもすみれを触らせたくない。

囲って囲って、安全な俺の腕の中で生かしておきたい。

だがそんなのはクソだ。


俺はすみれに幸せでいて欲しい。

穏やかな毎日をこの先ずっと。



二度と呪いをつけさせないし、誰にもすみれの日常を邪魔させない。


すみれが争いを厭い、祈りで穏やかな世界を守っているすぐ側で、俺はすみれを狙うゴミカス集団の殲滅を己に誓う。

1人残らずこの世から消し去ってやる。



ああ。


それはあのゴミカス集団と何が違う?



違う?違わない?それがどうした。

矛盾がどうした。鎮守様だからどうした。

すみれはこの世でただ1人の、ただのすみれだ。

すみれを狙うと言うのなら、そこにどんなダブスタがあろうと俺はそいつの息の根を止める。



俺はすみれの穏やかな幸せを願う。



◇◇◇



「誠くんアザ消えたね」


「な、貞宗が残念がっててざまあ」


「ふふ、でも良かった。痛そうだったからね」


今日もすみれと帰る。

すみれの呪いはほぼほぼ消えて、朝の俺は光らなくなった。



「誠君、いつもありがとね」


「ん?なんで」


「なんかさ、最近思うんだ。幼稚園から一緒にいてさ、学校もずっと一緒で毎朝迎えに来てくれてさ、お隣に住んでるってだけでこんなに良くしてもらって良いのかなーって」


「それは前も言ったじゃん。俺はやりたくてやってるしいいんだよ」


「うん。だからさ、ありがとうって思って。

…私はこれから大学生になってもずっと誠君と一緒に学校行きたいなーって思ってさ。…ん?あれ?なんか恥ずかしいな?」



のんびりしているすみれだが、逆に言えば基本的に冷静であまり動じない。


そのすみれが、今自分の言った事に何か思うところあったようで焦ってうっすら赤くなっている。



「はは。俺、大学入っても当たり前に朝すみれん家迎えに行くから」


「あ、うん、あ、ありがとう誠君。よろしくね」





好きとか、分からなくても今はいい。

世界の平和と同じ位すみれは俺の幸せを毎日願い、祈りを捧げてくれる。

それだけで今は充分だ。



離れる事はないのだから。



ゆっくり、ゆっくりすみれのペースでいい。

今は、まだ。















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