救済
私は、宇宙調査員だ。もうかれこれ一年間も宇宙空間をさまよい星を調査をしている。
一刻も早く家に帰り妻の入れたコーヒーでも飲みくつろぎたいものだ。
友と語り合うのもいい。
今回調査する星で私の役目は終わり星に帰り調査報告をする。
故郷を離れる前はあんなに嫌いだったデスクワークが今はまちどうしい。
私は早くこの調査を終え故郷に帰るため、宇宙船の速度を上げた。
目的の星につくまでの間私は調査の準備へとかかった。
望遠鏡、カメラ、録音機など様々な物を倉庫から引っ張り出してきた。
私はこの時間がもっとも嫌いだ。宇宙空間は無音でとても静かだ、聞こえるの輪私の動く音だけだ。こうなると故郷がとても懐かしく感じる。
気を紛らわせようと音楽をかける。故郷のことが頭をよぎる。余計に寂しくなってしまった。音楽をかけたのは失敗だったようだ。仕方が無いので眠ることにした。
やかましいいサイレンが私をお起こす。目標の星へとたどり着いたようだ。もう少しやさしく起こすことはできないのか。そうサイレンに文句を言うがもちろん返事は無い。
私は望遠鏡を用意し覗く。この星にはとても多きいい湖があるようだった。光を反射してとても美しかった。私の故郷にも湖ではないが塩辛い水溜りがあるな。
いつまでも見ているわけにもいかないので生物を探すことにした。
この星には様々な生物が多種多様に生息し、すばらしい調和をとっていた。
「美しい……」
思わず声に出してしまった。この星は祖父から聞いた昔の故郷とそっくりだった。
まだ水は美しく、緑が生い茂り、動物たちは楽しく暮らしていたらしい。しかし、今は動物たちはDNAのみの存在となり試験管の中で窮屈そうにしている。水も汚れ、植物など映像でしか見たことが無い。こうなった原因は大気汚染にあった。空気は汚れ、星の温度は急速に上がり多くの動物は絶滅した。
しかし、大気の汚染が進むにつれ科学技術は上がった。
もう、むちゃくちゃだった。空気を汚し植物を枯らし動物が絶滅しようとかまわなかった。ただ、科学技術を上げれば良いと。そうすればまた元の星へ戻ると。科学技術で再生が可能だと。
今思えばばかげた話だ。いや、昔でも反発が強かったのだが政府の力は弱まり代わりに企業の力が強くなっていた。歯止めはきかなくなり今に至る。
科学者たちはこう言う。
「我々が科学技術を上げたおかげであなたたちは生きていることができる。感謝したまえ」
ふざけた話だ。お前たちが研究を早くやめていればこうならなかったのじゃないか?
私の祖父は科学者だった。しかし、途中で過ちに気づき研究をやめようと言い出した。だが、回りは聞く耳を持たず研究を続けた。祖父は私が小さい頃よく話してくれた。自分の過ち、美しかった星、これからどうするべきなのか。
祖父は死ぬ前にこう私に言った。この星を救ってくれと。
そのときの私はおろかだった。星を救う意味が分からなかった。私たちの種族のみが生き残っているだけでこの星は救われているではないかと。傲慢だった。
しかし今は違う。過ちに気づいた。
「その結果がこれか」
急な通信が入りモニターに映しだされたのは私の所属している機関のトップだった。
「ええそうですよ。この星を救うにはこれしかないんですよ」
別に驚きは無い。分かっていたことだ。
「考え直せまだ間に合う」
間に合うだと。間に合わない。やつは何を言っているんだ。私の仕事をわかって言っているのか。私の仕事は、第二の地球を探すことだ。人類は地球に見限りをつけたのだ。そのため、人類が新たに住む星を探しているのだった。
このあと私とやつ等と多くのやり取りがあった。
同僚、知り合い、国のトップ、警察。内容は変わらない
「こんな馬鹿げた事はやめろ、何にもならないぞ」
彼らは自分の過ちやおろかさに気づくことができない。私を理解できる人間はもう一人しか存在しない。しかし、彼らにはその一人を探し出すすべは無い。だから私はこう言った。
「じゃあ、ここに妻、父、母、親戚、友達。誰でもいい一人連れて来い。そうしたらやめよう」
こう言うと皆、黙ってしまう。彼らの力を使えば簡単なことだ。しかし、できないなぜなら皆、死んでしまったからだと思う。生死は分からない。推測だ。しかし、モニターの前には誰も現れない。それが証拠だ。
水滴が落ちる。涙だ。
「あなたっ」
女の声がする。モニターに一人の女が現れた。
それは、妻のような容姿をしていた。
しかし、妻ではない。声は機械的で動きもぎこちない。魂のこもっていない人形だ。
「不愉快だ。こんなものでだませるとでも思っているのなら出直してきたほうがいい」
私はそう言うと通信をきった。
先ほど流した涙がとどめなく流れていく。心に穴が開いているようだ。埋めようの無い穴が。
妻は死んだ。死んだんだっ。あんなものでもまだ心を動かされる自分が情けなかった。
しばらくするとまたモニターが現れ映像を流した。
両親や友人の形を模した人形が説得を試みた。不愉快でたまらなかった。
しかし、心の隅には希望もあるような気がした。もしかしたら彼らは生きていて私と話しているのではないかと。だが私は希望をもってはいけないことを思い出した。
仮に彼らが生きていたとしても私はやらねばならない。
それに彼らはもう生きてはいないだろう。私に住んでいた地域にある病気が蔓延した。それは、突然変異で生まれた悪魔だった。感染者の遺伝子情報を破壊していく悪魔だ。原因は環境の汚染だ。
妻、両親、友人らはそれにかかった。私にもはや故郷は無い。その病気は人、動物、植物関係なく感染する。国はその病気をほかの地域に運ばせないために、その地域を跡形も無く消滅させた。
そう、私は故郷を思い出すことはできても故郷に行くことはできない。妻の入れたコーヒーを飲むことはできない。友と語り合うこともできない。
最後にもう一度望遠鏡を覗き込んだ。
「私たちはこんなにも美しい星を破壊してしまったのか」
私の耳に通信が聞こえる。
そうか自分たちが、いかに愚かだったのかを彼らは理解できなかったようだ。
私が旅立ってから一年間、彼らには私なりに警告をしたつもりだったが残念だ。
私は、望遠鏡を覗き込むのをやめた。
「さよなら」
通信相手に私は静かにそう告げた。
「やったぞ」
そんな声が部屋のあちこちから聞こえてくる。凶悪な犯罪者の乗った宇宙船はミサイルによって粉々になった。
これでよかったんだな。
友の最後を見届け俺はスイッチを押した。
この星に住む人間はまともなやつがいない。自然を大切にしない。人名を軽視している。
あいつはこう言った。もしも、自分の言うことが伝わったようだったらスイッチは押さないでくれと。
俺にそう言ったあいつはもういない。
あいつからはワクチンが渡されていた。これを体に投与すれば俺は生き残ることができる。しかし、そんなことを俺はしない。
あいつはいいやつだった。目の色や髪の色で俺を差別しなかった。一人の人間として俺をみてくれた。
あいつは、こう言っていた。
自然の浄化力をなめてはいけない。本当ならこの星はもっと美しいはずだと。邪魔者さえいなければね。
あいつのやった事はとんでもない事だ。だが間違ってはいないと俺は思う。
仮に間違っていても俺だけはあいつを信じよう。
一週間後、人類は絶滅した。とある地域で発生した悪魔の病気がほかの地域へと行き蔓延したからだ。絶滅したのは人類だけだった。それは、都合よく染色体の数が64本しかない生物にしかきかないようになったからだ。
本当に都合よく。
終わり
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