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5話


 魔王アレクに転生した俺が、どうしてこの世界に来たのか? 


 神か悪魔か、誰の仕業か知らないけど、俺を連れて来たことに目的があるなら、向こうから接触して来る筈だ。そう思っていたけど何の動きもないから、自分から動くことにした。


「お兄ちゃん、部活に行って来るね。お弁当、ありがとう」


「ああ。気まぐれで作っただけで、味は保証しないけどな」


「そんなことないって。朝ごはんも美味しかったよ」


 料理をするのも、俺が始めたことの一つだ。いや、だから何か起きるとは思わないけど、うちは俺と静奈の二人暮らしみたいなモノだからな。部活で忙しい妹にメシくらい作ってやろうと思っても不思議じゃないだろう。魔王アレクの身体は眠る必要がないから、時間ならたっぷりある。


「その髪型、似合っているし、眼鏡も止めて正解だね」


 出掛ける間際に、静奈に言われる。『変化の指輪(シェイプリング)』は姿を自由に変えられるから、俺は髪を短くして眼鏡を外した。静奈には床屋に行って、眼鏡はコンタクトにしたと伝えてある。


「さてと、俺も出掛けるとするか」


 制服に着替えて高校に向かう。俺が通っている市浜学院は、それなりの進学校で、夏休みの間も学校で夏期講習が行われている。

 今日から夏期講習が始まるから、俺も参加することにした。わざわざ高校時代に戻したってことは、高校が何かのキーになるかも知れないだろう。


 ブレザーの制服が懐かしい。今は夏だから、シャツとネクタイだけだけど。

 電車に乗って学校に向かう。木更津まで電車で行くは面倒だけど、高校までは電車で一○分だ。


 駅から一五分ほどで高校に着く。私立の中高一貫校だから中学生もいる。

 友だちのいない俺は、誰に挨拶することもなく教室に向かう。夏期講習と言っても、時間帯やコマ数は普通の授業とほとんど変わらない。


 教室に入ると、俺に気づいたクラスメイトが小声で何か話している。前世の俺は教室で空気だったから、特に気にすることもなく自分の席に座る。


鳴海(なるみ)君……髪型変えたんだね。昨日、あれから切りに行ったの? 眼鏡も止めたんだね」


 話し掛けてきたのは綾辻姫乃(あやつじひめの)。昨日ダンジョンで会ったクラスメイトの一人だ。


「え……昨日って、何かあったの?」


「やっぱり、あの人……陰キャの鳴海なんだ?」


 綾辻の言葉に反応してクラスが騒つく。


「見ての通りだよ。髪が長いのは自分でも鬱陶(うっとう)しかったからな」


「うん、良く似合ってる……あの……昨日は御免なさい!」


 頭を下げる綾辻に、何事かとクラスメイトたちが注目する。


「いや、別に気にしていないから。それに綾辻さんが悪い訳じゃないだろう」


 正直、反応に困る。周りの視線が痛いし、空気の俺は注目されることに慣れていないからな――まあ、それは前世のことで、魔王アレクに転生した俺は目立ちまくっていたけど。


「そうかも知れないけど……止められなかった私も同罪だよ」


 綾辻って真面目なんだな。黒髪ロングの清楚な感じの美少女で、前世の高校でもモテていた気が……いや、興味なかったから記憶にない。


「姫乃、あんた何やってんの? てか、こいつ誰? ……えー! 陰キャの鳴海じゃん! イメチェンしたんだ?」


 ピンクベージュの髪のギャル、城ケ崎瑠香(じょうがさきるか)が朝から騒がしい。


「髪切って眼鏡取ると、結構マシな顔してんだね」


「瑠香、そんなことより、昨日のことを鳴海君に謝りなよ!」


「えー! うちは何もしてないじゃん! 鳴海に喧嘩を売ったのは淳士(あつし)だし」


「俺が何だって……ゲッ! おまえ、鳴海か?」


 赤い髪のヤンキー、藤枝淳士(ふじえだあつし)が俺に気づいて顔をしかめる。


「へー……探索者デビューの次は、高校デビューってウケる!」


 ツーブロックの軽薄そうな奴、二宮早瀬(にのみやはやせ)は完全に他人事だ。


「俺が何をしようと勝手だろう。邪魔だから自分の席に行けよ」


「何だと、てめえ……」


 藤枝が文句を言うけど、昨日の記憶が残っているのか全然迫力がない。


 クラスメイトたちが注目している。綾辻たちが俺に絡んでいること。俺がこんな風に喋っていること。理由は両方だろうな。


「おまえたち、何を騒いでいる? もう講習が始まる時間だぞ」


 教師が教室に入って来たから、みんなが席に着く。藤枝が睨んでいるけど、面倒だから気づかないフリをした。


※ ※ ※ ※


 午前中の四コマの講習が終わって昼休みになる。講習の間の休み時間の度に、クラスメイトたちが俺の方を見て、何か小声で話していた。だけど、ほとんど話したこともない相手だし、何を喋っているのか別に気にならなかった。


「あの……鳴海(なるみ)君、お昼はどうするの?」


 教室を出て行こうとすると、また綾辻(あやつじ)に声を掛けられる。昨日の罪悪感で、俺のことを気にしているのか?


「適当に食べるよ。もう俺のことは気にしないで良いって言っただろう」


「でも……」


姫乃(ひめの)、陰キャなんかほっといて、学食に行こうよ!」


「そうだぜ、あんな奴……あー、腹減った! メシだ、メシだ!」


「もう陰キャじゃなくて、高校デビュー君か? ウケる!」


 他の三人に引っ張られるように、綾辻が教室を出ていく。俺としてはウザい奴らがいなくなって清々した。


 教室を出て体育館に向かう。運動部系の部活に入っている生徒は、講習そっちのけで部活中心の奴も多い。夏期講習はあくまでも自由参加だから、出なくても問題ない。


 体育館ではバレー部とバスケ部が練習している。今は昼休みだから、大半の生徒は目る飯を食べているけど、個人練習をしている生徒もいる。


 市浜学院は進学校だから、そこまで部活に熱心じゃないけど、妹の静奈(しずな)が入っている女子バレー部だけは別で、バリバリのスポ根系だ。


 練習をしている静奈に声を掛ける。


「静奈、朝渡した弁当だけじゃ足りないだろう。朝飯の残りを詰めて来たから食べるか?」


「お兄ちゃん、ありがとう! 実は午前中の練習の間に、お弁当食べちゃったんだよね」


 まるで男子高校生のような言葉に、思わず笑ってしまう。


「何なら、俺の弁当も食べるか? 俺はそこまで腹が減っていないし、あとで購買でパンでも買うよ」


「えー、さすがにそれは悪いよ! ねえ、お兄ちゃん。今は昼休みだし、一緒にお弁当を食べようよ!」


 体育館の空いているスペースに座って弁当を広げる。私立の学校だから、体育館も空調が効いていて涼しい。弁当のおかずは唐揚げと卵焼きにハンバーグ。静奈の分は朝飯の残りって言ったけど、卵焼き以外はほとんど変わらない。スポーツドリンクも水筒に入れて持って来た。


「ホント、お兄ちゃんの料理って美味しいね。料理なんか興味ないと思ったけど、いつ憶えたの?」


「大袈裟だな。スマホでレシピと作り方を見て、そのまま作っただけだよ」


 魔王アレクの身体は眠る必要がないから、時間はたっぷりある。『エボファン』の世界でレベルを上げまくって、スキルポイントが余っていたから、料理スキルのレベルをカンストさせたのも大きいだろう。

 この世界の情報収集の方は、俺は元々理系だから、プログラムを組んで集めた情報をAIに解析させるようにしたら、あまり時間が掛からなくなった。


「静奈。そのお弁当、美味しそうだね」


 静奈と同じバレー部のユニフォーム姿の女子が話し掛ける。ベリーショートの髪で、如何(いか)にもスポーツ少女って感じだ。


麻耶(まや)! これはお兄ちゃんが作ったくれたから上げないよ!」


「へー……この人が静奈のお兄さんなんだ。初めまして、私は藤枝摩耶(ふじえだまや)。静奈さんのことは、いつもお世話しています!」


「ちょっと! 私は麻耶に迷惑なんて掛けてないわ!」


「何を言っているのよ? 静奈はいつも練習に夢中になって、自分じゃブレーキ掛けないから、私が止めているじゃない。そんなこと言うなら、もうドリンク分けてあげないから」


「それは困る! うー……お兄ちゃん、麻耶がいじめるよ」


 なんか面白い子だし、静奈と仲が良いみたいだな。


「藤枝さん。まだ箸をつけていないから、良かったらだけど食べない?」


 俺が弁当を差し出すと。


「え、良いんですか? 頂きます……うん、美味しい!」


 秒でハンバーグが消えた。


「ちょっと、お兄ちゃんのお弁当を取らないでよ!」


「いや、俺は別に部活やっていないし、身体動かすと腹が減るだろう。全部食べても構わないからな」


「そうなんですよね。いくら食べてもお腹が減って……唐揚げも美味しい! このお弁当って、もしかして全部お兄さんの手作りですか?」


 藤枝さんは全然遠慮しないで、俺の弁当を食べ進める。


「一応ね。見よう見まねで作っただけだけど」


「いや、それでも凄いですよ……静奈はお弁当を作ってくれるお兄さんがいて良いな。うちの馬鹿兄貴なんて、文句ばかり言って何もしないから」


 俺も最近まで料理なんてしたことなかったけど。


「危ない!」


 声がした方を見ると、サーブミスをしたバレーボールがこっちに向かって来ていた。藤枝さんは気づいていないけど、このままだとボールが直撃する。

 俺は立ち上がると、藤枝さんの後ろに回り込んでボールをキャッチする。


「すみません! 大丈夫ですか?」


「ああ、問題ないよ」


 ボールを軽く投げ返して座ろうとすると、静奈と藤枝さんがポカンと口を開けている。


「うん? どうしたんだよ?」


「お兄ちゃん……今の動き、凄くない?」


「えっと……お兄さんは、何か部活をしているんですか?」


 あ……ちょっと失敗したな。ボールが当たるまでのコンマ数秒で、ボールをキャッチしたのは、さすがにやり過ぎたか。


「部活はしてないけど、最近筋トレを始めたんだ」


「そうなんだよね。お兄ちゃん、いつの間にか筋肉がついて……この前、お風呂を覗……間違えて開けたら、腹筋バキバキだったんだよ」


 静奈、おまえ……今なんて言おうとした?


「確かに……良い身体していますね」


 夏服だから半袖で、シャツ一枚だから身体のラインが解り易いけど……その言い方、オッサンぽくないか?


「お兄ちゃん、美味しかったよ!」


「お兄さん、ごちそうさまでした!」


 結局、藤枝さんは俺の弁当を完食した。


 俺は食べなくても問題ないし、弁当と筋肉の話題で、さっきの話が有耶無耶(うやむや)になったから良しとしよう。


 明日から静奈の弁当の量を倍にするか? いや、藤枝さんも食べそうだし、三倍必要か……そんなことを考えていた俺は、藤枝という名前が誰かと同じことに気づいていなかった。


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