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11話


 桐生荘(きりゅうそう)は庭が日本庭園になっている、本格的な純和風の高級旅館だった。

 ネットで調べると、最低でも一人一泊二〇万円超。B級探索者(シーカー)の稼ぎなら余裕で払えそうだけど、俺は宿代にそんな金額を払う気はない。


 亜樹(あき)がフロントで名乗って、自分が来たことを悠真(ゆうま)たちに伝えて貰う。

 五分ほどで、浴衣姿の悠真、沙織(さおり)朝陽(あさひ)の三人がやって来た。


「亜樹、来てくれたのね……」


「最初は来るつもりじゃなかったけど、このままで良いのかって、背中を押してくれた人がいたのよ」


 沙織と朝陽が驚いた顔で俺を見る。一緒にいる俺のことだと想像がついても、まさか高校生が言うことを、亜樹が聞くとは思わなかったんだろう。悠馬は何のこと解っていないみたいだけど。


「亜樹、俺は適当に時間を潰しているよ」


「ダメよ。責任を取るって言ったじゃない」


 亜樹が俺の手を握る。亜樹の手が震えていた。


「解った……皆さん、俺も同席させて貰います」


 悠真は納得していないみたいだけど、文句は言わなかった。


 俺たちは悠真と朝陽に向かった。最上階の広い部屋で、部屋に(ひのき)の露天風呂があって、窓の下は渓谷に続いている。こういうのが絶景って言うんだろう。


 沙織は別の部屋を取っているけど、三人で夕食の途中だったらしく、座卓の上には豪華な料理が並んでいる。


「食事の途中に悪かったわね……」


「亜樹、気にしないで! 良かったら亜樹たちも……ううん、そんな雰囲気じゃないわね」


「別に食べながらでも話はできるだろう?」


「だから悠真、あんたも少しは空気を読みなさいよ!」


「そうだ、少し黙っていてくれ!」


 沙織と朝陽に責められて、悠真がバツの悪い顔をする。


「何から話せば良いのか解らないけど……」


 亜樹が俯いて喋る。俺の手は握ったままだ。


颯太(そうた)のことは全部私のせいよ……私が厳しいことを言わなかったから、颯太は死んだ。そのせいで、みんなを危険な目に遭わせたのも私のせい……なのに、みんなから連絡を全部無視して……本当にごめんなさい……」


「そんなことない! 亜樹の気持ちは解っているわ。パーティーのメンバーなんだから、私たちも颯太にもっと厳しくするべきだったわ……」


「そうだな……弟のことで自分を責める気持ちは解るけど、俺たち全員の責任だろう」


 沙織と朝陽が悲しそうな顔で亜樹を見つめる。


「俺は……難しいことは解らねえが、これだけは言える。亜樹だけの責任じゃねえだろう」


 悠真はそれだけ言うと、座卓の上のビールを瓶のまま一気に飲み干す。


 それぞれ自分の気持ちを言ったけど、誰も納得していない。当然だろう。それぞれ思うところが違うんだから。


「部外者の俺が言うことじゃないかも知れないけど、ちょっと良いですか? みんな納得できないみたいだけど、お互いに納得する必要なんてないですよね」


「それって、どういう意味だ?」


 おまえに何が解るんだって感じで、悠真が俺を睨む。


「亜樹は全部自分のせいだって思っている。葛城(かつらぎ)さんたちは自分たちのせいでもあると思っている。それで良いじゃないですか。お互いの考えを無理に擦り合わせる必要はない。誰が何と言っても、亜樹は自分の考えを変えないと思います」


「仲間が苦しんでいるのに、見捨てろって言うのか!」


 悠真が声を荒げる。


「そうじゃありません。相手を思ってのことでも、自分の考えを押しつけるんじゃなくて、ただ(そば)に寄り添って、相手に言いたいことがあるなら黙って聞く。亜樹は自分が悪くないと言って欲しかったんじゃないんです」


 沙織と朝陽が複雑な顔をする。思い当たることがあるんだろう。


「亜樹は葛城さんたちのことを悪く思っている訳じゃない。自分のせいで貴方たちまで危険な目に合わせたのに、慰められることに耐えられなかったんです」


「俺たちは亜樹のせいだなんて思ってないぜ!」


「だけど亜樹はそう思っている。だから慰められても辛いだけなんです」


 相手が許してくれれば、安心できる人間もいる。だけど亜樹はそういう性格じゃない。だから自分から仲間の元を離れて、一切連絡を取らなくなった。


「もう誰が悪いとか悪くないとか、お互いに思うだけで言わなければ良い。思っていることを口にすれば良いってもんじゃないでしょう。それで亜樹と葛城さんたちが昔のような関係に戻れるか解らないけど、少なくとも今よりはマシになると思います」


「思ったことを口にしないなんて……そんなの仲間じゃないだろう!」


「それは葛城さんの考えであって、他の人が同じように考えるとは限らないでしょう」


「沙織、朝陽、おまえたちはどう思うんだ?」


「あんたは何でも思ったことを口にするから、デリカシーがないって言うのよ。仲間だから何を言っても良いと思うのは、思い上がり以外の何でもないわ」


「悠真はもっと自分を客観的に見た方が良いよ。少なくとも俺と沙織は鳴海(なるみ)君が言ったことに納得しているから」


 朝陽の言葉に沙織が頷くけど、悠真はまだ納得していないようだな。


「それにしても、鳴海君はとても高校生とは思えないね。亜樹が信頼して連れて来たのも解るよ」


「高校生らしくないとは言われます。亜樹が連れて来たというより、俺が無理矢理来させたって感じですね。皆さん、部外者の俺が勝手なことを言って済みません」


 亜樹が俺の手をギュッと握る。


「春斗が一緒じゃなかったら、みんなに会う勇気がなかったわ。本当にありがとう……悠真、朝陽、沙織、こんな私のことを今でも仲間だと言ってくれるの嬉しいけど、もう私にはその資格はない……それでも、みんなから逃げるような真似は止めるわ。気が向いたら、連絡してくれる?」


「亜樹、勿論よ! 野郎二人とパーティーを組んで、日頃から鬱憤(うっぷん)が溜まっているの。今度、愚痴を聞いてよね!」


「沙織、俺を悠真と一緒にするのは酷いじゃないか! 亜樹、今度良かったら鳴海君も一緒にメシでも食べようよ」


「おまえらなあ……」


 悠真は新しいビールを開けてコップに注ぐ。


「亜樹……解った。もう俺は昔のことは口にしない。だから(たま)には俺たちの前に顔を出せ」


「悠真、ありがとう……」


 亜樹と三人は改めて連絡先を交換する。


「鳴海君、君の連絡先も教えて貰えないか? 亜樹を誘うときに、彼氏の君に断りを入れる必要があるだろう」


「いや、俺と亜樹はそういう関係じゃありません」


「そうよ。高校生と付き合うなんて犯罪じゃない」


「え……だったら、二人はどういう関係なの?」


 手を繋いだままの俺と亜樹を見て、沙織が首を(かし)げる。


「俺たちの関係と言われても……俺が初めてB級ダンジョンに挑むのを心配して、亜樹が付いて来たって言いませんでしたか?」


「それは聞いたけど……考えてみれば、他にパーティーのメンバーはいないのよね? 亜樹が来なかったら、鳴海君は一人で挑むつもりだったってこと? さすがに無謀過ぎない?」


「私もそう思って付いてきたけど、完全に杞憂(きゆう)だったわ。春斗の強さは私たちに測れる次元じゃない。信じられないかも知れないけど、春斗はA級探索者(シーカー)よ」


 思わずビールを噴き出す悠真に、沙織が『汚ない!』と文句を言う。


「鳴海君は……もしかして、イレギュラーなのか?」


「はい、そうですね」


 亜樹が敢えて最低限のことしか言わなかったことが解っているから、訊かれたことにだけ答える。俺は別に自慢したい訳じゃないからな。


「じゃあ、初めてB級ダンジョンに挑んだって言ったのは、ソロでって意味ね」


 沙織が勝手に納得する。


「そろそろ私たちは帰るわ。食事中に邪魔してごめんなさい。みんな、また連絡して」


「うん。亜樹、またね!」


 『また』という言葉を残して、悠真たちと別れる。まだ亜樹は手を繋いだままだけど、もう震えていない。


「春斗、お腹すいたわよね? 今日は奢るから、食べたいものを言って」


 本当のことを言えば、箱根ダンジョンの攻略を早く終わらせて、今日中に帰るつもりだったけど、ここで断るのは悪いだろう。


「俺は肉が食べたいな」


「だったら焼肉に行くわよ。私も今日は思いっきり食べたい気分だわ」


 亜樹の車で焼肉屋に向かう。B級探索者が行くような店だから、たぶんチェーン店とかじゃなくて、如何(いか)にも高そうな店だろうな。


「その前に、泊まる場所を確保しないと」


「春斗、宿をとっていないの? ……もしかして、初めから一日で箱根ダンジョンを攻略して、日帰りで帰るつもりだった?」


「まあ、そんなところだ。だから今日は帰れないって妹に連絡しないと」


 終電にはとても間に合う時間じゃないが、魔法を使えば問題ない。だけど外で魔法を使うと違法だから、亜樹にバレる訳にいかないだろう。


 静奈(しずな)にメッセージを送ると、『もしかして彼女と一緒?』と速攻で返って来る。そんな筈ないだろうと返したけど、急な外泊だし、後で面倒なことになりそうだな。


 あとは宿を確保しようと、スマホで近くのビジネスホテルを検索していると。


「だったら私が予約した部屋に泊まりなさい」


「いや、さすがに不味いだろう。俺だって健全な男だからな」


「心配しなくても、高校生を食べたりしないから。春斗も変なことはしないわよね?」


 亜樹が気楽に言うけど、どうせ俺を揶揄(からか)っているんだろう。

 万が一のときは、適当な場所に泊まると言って、『転移(テレポート)』で家に帰ればいいか。


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