表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白詰草の華妃  作者: 無色


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/7

7.水仙の華妃

 その場の全員が脇に寄り、膝をついて頭を下げた。

 皇帝陛下……まさかこんな場で姿をお見かけするなんて。

 いや、華妃(かひ)が消えたとなれば当然か。


「話が聞きたい。水仙の華妃(かひ)の侍女頭を」

「はっ!」


 冷静な声で従者に指示を出す。

 こんな事態でなければ、皆陛下の麗しいお姿に放蕩したことだろうに。


「おお、四叶(スーイェ)か」


 陛下がこちらを見やる。

 こんなことなら早々に退散しておくんだった。


「奇遇だな」

「はい。陛下の目に留まれたこと、このような騒ぎの中でなければ喜ばしい思いをしたことでしょう。路端に慎ましく咲くことで、水仙の華妃(かひ)の身を案じるものとさせていただきたく」

「うむ。形式ばった挨拶はよい。面を上げよ」


 うぅ、昨夜のことが思い出される。

 月の下に在った陛下も美しかったけれど、日の下に在る陛下は特段の美人だ。

 傾国という言葉がよく似合う。


華妃(かひ)が失踪とはな。四叶(スーイェ)、そなた何か思い当たる節はあるか?」

「恐れながら、水仙の華妃(かひ)様とはそれほど親しい仲ではなかったので」

「そうか」

「お力になれず申し訳ありません」

「いやよい。華妃(かひ)同士の繋がりが希薄なことはこちらも把握しておる。少しでも手掛かりがあればと思っただけだ」


 藁にも縋る……いや白詰草にも縋る思いというわけだ。

 陛下も冷静に見えるけれど、きっと気が気じゃないはず。

 少ししてから、陛下の従者が水仙の華妃(かひ)の侍女頭を連れてきた。


「水仙の華妃(かひ)白鈴(バイリン)が姿を消した件について話を聞きたい」

「は、はい……!」

「最後に白鈴(バイリン)を見かけたのはいつだ」

「直接お姿を見たのは昨日の昼頃、小物の買い付けに商人を呼び寄せた際に……夕刻前にはお部屋で声を聞いております……」

「声?」

「夕餉のご用意を伝えにお部屋に伺ったのですが、気分が優れないと断られました」

「医官の手配はしたのか」

「いえ、華妃(かひ)様より余計なことはしないようにと命じられたので……」


 華妃(かひ)の言い分に、侍女は逆らえない。

 取り立てて不自然な点は無いように思える。


「その商人にも話を聞こう」

「直ちに手配を」

「では夕刻以降、白鈴(バイリン)の姿は見かけていないというのだな?」

「はい……朝方の起床時間に寝所に伺った際にはもうどこにも……」


 更に話を聞くに、日頃白鈴(バイリン)に変わった様子は見られず、昨日の昼までは何事も無かったとのこと。

 年配の侍女頭は震えながら思いつく限り言葉を紡いだ。

 必死なのは仕方ない。

 華妃(かひ)に何かあれば、まず最初にその咎を負うのは侍従たちだ。

 どのように責任を追及されるかなんて考えるのも悍ましい。


「常日頃、白鈴(バイリン)を疎ましく思っている人物に心当たりは?」


 陛下がそう訊くと、侍女頭は言葉を詰まらせた。

 余程思い当たる節があるらしい。


「構わぬ。申せ」

「そ、それは……」


 侍女頭が口を開きかけた瞬間。


「いったい何の騒ぎですの?」


 その女性は、派手な身なりで宮の外から戻ってきた。






「人の宮で騒々しい。ここはいつから見世物小屋になったんですの?」


 けばけばしい……とはさすがに酷い言い草だけど、化粧に関心の無い私をして、なんとまあ濃い化粧だと思わせる。

 それに香の匂いも鼻につく。

 誰かが言及してやればそれで済む話だとしても、誰もそれを口にしない。

 それは目の前のこの女性が華妃(かひ)であるために他ならない。


「久しいな白鈴(バイリン)

「これはこれは皇帝陛下。水仙の華妃(かひ)白鈴(バイリン)がご挨拶申し上げます。わざわざこのような場所までご足労いただいたということは、いよいよ(わたくし)も寵愛をいただけるということですの?」

「そなたが姿を眩ませたと耳にしたものでな。身を案じた」

「勿体ないお言葉でございます。して……」


 白鈴(バイリン)の目がこちらを見射る。

 なんともこちらを卑下した目だ。


「そちらの華妃(かひ)は?」

「たまたま居合わせました。白詰草の華妃(かひ)四叶(スーイェ)と申します」

「ああ、あなたが。フッ」


 陛下がいるから口にこそしないが、雑草妃の(あざな)に相応しい見窄らしい風貌とでも言いたげな顔。

 もしくは、お前如きが陛下の近くに……か。

 私だって陛下に呼び止められなければ早々に退散したというのに。


「そなたが宮から消えたと騒ぎになっていたが、今まで何をしていた?」

「何と言われましても、ただの散歩でございます。今朝は妙に寝覚めがよく、宮の周りをぐるりと回っておりましたの」

「従者も付けずにか」

「万人に愛でられるべき華妃(かひ)にも、一人静かに咲く時間があってもよろしいでしょう?」


 それはじつにそのとおりだ。

 尤も陛下は納得いかない顔をしているけれども。


「何にせよ一言かけるべきだったな。今後はくれぐれも注意するように」

「心得ました。ご心配をおかけしましたこと、深くお詫びいたします」


 白鈴(バイリン)は慎ましく頭を下げた。

 陛下は厳重注意を申し付けたが、何はともあれ一件落着。

 華妃(かひ)の失踪は、ただの奔放ということで片が付いた。

 のだけど……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ