4.月を見上げて
機嫌よく自らの寝屋に戻った星華を、世話役である一人の宦官が出迎えた。
「お帰りなさいませ」
「なんだ浩然、起きていたのか」
「陛下を待たず床につくなど。夜の散策は如何なものでしたか?」
「じつに愉快な夜であった」
星華は微笑を含ませ、衣の襟元を整えながら答えた。
「華の宮でおもしろい華妃に逢った。白詰草の華妃だ」
「白詰草のというと四叶様ですね。去年の秋に華の宮入りした、妃の中では最も新しい華妃様と記憶しております」
星華は思い出すように、夜の池畔での少女の表情を脳裏に描く。
月光に照らされた頬、緊張と好奇心が入り混じった瞳。
無意識に頬へ伸ばした指先の感触までもが、まだ残っているかのようだった。
「あのような華妃が後宮にいるとは……退屈せぬものだな」
「陛下がそのように楽しげにお話しになるのは、久方ぶりにございます」
「そうか?」
「恐れながら陛下は、華妃の皆々様に対して然程の興味を持たない方と存じ上げておりますもので」
「フフ。事実だが、まあそう言ってくれるな。いい気分転換になった。明日からの公務にも多少身が入ろう」
星華が紙紐を解くと、浩然は無言で礼をして退室した。
肩を覆っていた重い衣をするりと落ち、白い喉元と細くしなやかな鎖骨の線が月明かりに浮かび上がる。
鏡前に立ち帯を緩める。
胸元の布が少しずつ解け、呼吸に合わせて柔らかな起伏がわずかに覗いた。
「失せ物探しの四叶……か」
『十割ほどでございます』
「何を占い光を止まらせたのだろうか」
世界は存外、知らない華で彩られていると知った。
次はいつ逢えるだろう。
星華は窓の外に浮かぶ月を見上げ、白詰草の華妃を思い浮かべた。
――――――――
「これでいい……これでよかったのよ……」
その女は闇の中で震え、そして笑っていた。
「この女がいけないの……そうよこの女が……アハ、アハハハハ!」
誰も知らず。
何も知らず。
華の宮の夜は更けていく。
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