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白詰草の華妃  作者: 無色


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1.四叶《スーイェ》

 華精かせい。読んで字の如く華の精霊を指す言葉。

 古来よりこの国に生まれる女児は、稀に華精の加護を受けて生まれてくることがある。

 証たる華の紋を身体に浮かばせ、華のように美しく、特別な才に富む彼女たちは華妃(かひ)と呼ばれ、皇帝の庇護を受けし後宮……通称華の宮(はなのみや)にて寵愛を受け咲き誇ることが至上の誉れとされていた。

 斯く言う私こと四叶(スーイェ)も、華の宮(はなのみや)に入ることを認められた一人。

 白詰草の華精(かせい)の加護を受けた華妃(かひ)であり、華の宮(はなのみや)に招かれた私は世の女性が羨む勝ち組人生を爆進中……のはずなのだけど。


「いったい私の幸福はどこにあるのかしら」


 窓の外を眺めては気怠げに呟く毎日の寂しいこと。


「まるで押し花の標本のようだわ」


 華妃(かひ)として生まれた瞬間に、勝利者の人生が定まっている。

 それは華妃(かひ)が尊き存在であることの証であるが故に、華の宮(はなのみや)にて保護されることが確約されているということ。

 この世の贅を極めた美酒美食に、金銀財宝の山、望めばあらゆるものが手に入る夢のような暮らしが華妃(かひ)というだけで与えられるのだ。

 両親にめでたいことだと送り出されたはいいものの、田舎の貧乏一家出身の私には、この華美な暮らしはどうも肌に合わない。

 集まりがあれば重たい衣に似合わない化粧をしなければならず、簡単には街へ外出も出来ない不自由さも息が詰まる。

 極めつけが華の宮(はなのみや)の刺々しい空気。

 華やかな後宮のイメージとは裏腹に、女特有の陰険で陰湿な蹴落とし合いが日夜絶えないのだ。

 今日は誰が誰に針のついた衣を贈っただの、鼠の死骸が転がっていただの、泥玉を投げられただの、食事に毒が混ぜられただの。

 他人より多く皇帝の寵愛を受けようという気概の果てなのだろうけど、まったく気が重いことこの上ない。

 悉くに漏れず私もその被害に遭っているわけだけど。

 特に私は白詰草という、華に比べると些か……いやかなり見劣りする華妃(かひ)であることと、今現在最も新顔であることも相まって、他の華妃(かひ)からはやけに見くびられている傾向にある。

 華妃(かひ)ならぬ雑草妃(ざっそうひ)とは、誰が呼んだか機知に富んだ(あざな)だ。


「こんなことなら田舎で本の虫をしてた方がずっとマシだわ」

「そんなことを言っては、また他の華妃(かひ)から目の敵にされてしまいますよ」


 そう諌めるのは私の侍女頭を務める風妹(フォンメイ)

 華の宮(はなのみや)では唯一、私の心の拠り所たる存在だ。


四叶(スーイェ)様はただでさえ、変わり者の華妃(かひ)と呼ばれているのですから。取り立てて飾るわけでもなく、華妃(かひ)でない侍女や官職たちに偉ぶるわけでもなく」

「妃らしくないって言いたいの?」

「滅相もありません。慎ましく思いやりある貴き妃様のおかげで、私は悠々自適な侍女頭をやらせていただいております故」


 なんて芝居めいた物言い。

 たしかに私は宝石や派手な衣を纏わない。

 ともすれば侍女頭の風妹(フォンメイ)よりも地味だ。

 にしても、仮にも華妃(かひ)たる私に軽口を叩ける彼女も、十二分に侍女らしくないと思う。


「ところで、四叶(スーイェ)様に宛てての文が届いてございますが。如何なさいますか?」

「はいはい。どこから?」

「椿の華妃(かひ)様の侍女より」


 日がな一日空を見上げている罪悪感を紛らわすためには、身体を動かすより他はない。


「支度を――――へぶちっ!!」


 立ち上がろうとして裾を踏んだ私は、前のめりになって間抜けな声を出した。


「〜っ、もう! だから着物って嫌いよ!」

「ドジ」

「あァん?! 今何か言った?!」

「いえいえたかが侍女風情が華妃(かひ)様を嗤うなんてとてもとても。直ちに支度いたします」


 私は風妹(フォンメイ)を連れ、椿の華妃(かひ)の宮へと赴いた。

 用件は概ねわかっているけれど。


「うぅ……鼻打ったぁ……」

挿絵(By みてみん)

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