メイの好きな人
家に帰ると、エディさんはプレゼントをもらった子供の様にエントランスで買ったものを開封していく。
「見てよ!これは貴重な魔石で風魔法の威力を上げるんだ!
こっちは魔黒樹の杖!軽いし火力も出る高級品!」
「兄さん…いくら何でも買い過ぎだよ
父さんにバレたら怒られるんじゃない?」
「お前が黙ってれば大丈夫だよ!
…そうだ、メイも開けてみて」
彼はそう言って私の荷物を見る。
大きな箱には服、小さな箱には…
「わあ!可愛い…!」
エンジェルフラワーと呼ばれる天使の羽の様な見た目の魔法植物と、
おまけかと思われるうさぎのマスコットキーホルダーが入っていた。
素敵…!エンジェルフワラーの実物って初めて見た!
見た目は天使の羽なのに実は猛毒があって…虫も寄り付かないのよね。
「ギフト用って言ったら人形も付いて来た、女子ってそういうの好きなんだろ?
服は今日シエルが選んだの見てもっと似合う服あるだろって思って選んでみた」
シエル様が用意してくれた服は空色でセーラー襟の清楚なイメージのセットアップ、
エディさんがプレゼントしてくれたのは赤とブラウンがシックな、
少し大人っぽいワンピースだった。
兄弟でこうも好みが違うとは…
「メイは空色が一番似合うんだ、兄さんはどうせ胸を強調させたいだけなんだろ」
「お前こそ女に対する理想がもろに出過ぎなんだよ、
女の子には清楚な服着てほちいなーみたいなさ」
ああ…また喧嘩が始まった!
「わ、私はどっちも嬉しいです!ありがとうございます!
ほらお二人とも、いい時間ですし折角だから今日は
3人で食事しませんか!?
きっと楽しいですよ!」
私はそう言うと、二人を食堂まで押し込んだ。
「へえ、鹿肉のステーキ…!
僕等の国の料理じゃないか、
まさか勉強したの?」
「はい!私の国の料理以外も作ってみたくて…」
「美味いよこれ、君結構料理のセンスもあるんだな」
「いやいや、そんな褒めないで下さいよー!
私なんて普通ですから!」
私は少し照れながら言う。
「何でそんな風に自分を下げるの?
俺、結構君の評価高いんだぜ
根気あるし博識だし…
…シエルに食いつかないし
いいとこあるよあんた」
エディさん…そんなに私の事認めてくれてたんだ…!
なんか嬉しいな、心を開いてもらったみたいで…
彼は「ご馳走さん」とだけ言うと、部屋に戻ろうとする。
そして、一瞬私の方を見ると
「寝室で待ってるから」
と呟かれ私は思わず赤面してしまった。
今のエディさんに言われると破壊力が凄い…!
自室に戻る彼を見送りながら、私はへにゃへにゃと座り込む。
や、やばかった…!だめだめ…私にはセナ部長という心に決めた人がいるんだから!
あんな偏屈な人にときめいたらいけないわ!
「メイ、もしかして兄さんの言葉に浮かれた訳じゃないよね」
私はシエル様の言葉にぎくりと体を震わせる。
「君が言ってたんだろ、兄さんにそんなつもり無いって…
…僕には一切そういうのない癖に…」
「え?」
「な、なんでもない!美味しかったよ、ご馳走様」
シエル様はそう言って食堂を後にしてしまった。
ーーー
エディさんの寝室に行くと、
彼はいつものぼさぼさヨレヨレに戻っていた。
よかったー…寝る前まであれだったらどうしようかと思ったよ…
「ん…来たか
ねえ、何か話してよメイ…何でもいいからさ」
彼は読んでいた本から目を外すと私にそうお願いしてきた。
「ええっと…そ…ですね」
私が語れる物なんて植物の話しか…あ!
「じゃあ…好きな人の話…でも」
私は照れながら言う。
「好きな人…シエルじゃないんだっけ」
「はい!違います!」
「じゃあ俺?」
「もっと違いますっ!
…同じサークルの部長で…セナさんって言うんですけど…
私が初めて学園に入った頃のことです」
私は、初めて出会った時の光景を回想する。
ーーーーー
メルケル魔法学校の庭園は素敵だと耳にしていたものですから、
私は入学した後真っ先にそこに向かったんです。
(ここがメルケルの庭園かー!広くて素敵―…!
あ!蝶々!
列を成してどこに行くんだろう…)
すると何匹かの蝶が、同じ方向に飛んでいくのを目にして…
きっとそこに素敵な花があるに違いない、と蝶の向かう先を覗き込むと
そこに…蝶に囲まれた男性が佇んでいたんです。
まるで、絵本で見た妖精王の様だと思わず見惚れていると…
彼は私に気付き
「はは、見られちゃった?」と言って笑いました。
「あの…何で蝶が…集まってるんです…か?」
「魔法だよ、虫や動物と対話して使役する…
俺の得意な魔法なんだ」
蝶に囲まれて微笑む彼の姿は可憐で優美で…
思わず一目惚れしてしまったんです…
ーーーー
「うふふ、こんな甘酸っぱい話聞いちゃったらエディさんも寝れないですかねー?」
「すー…」
「寝てるし!」
ま、まあいいか…夜更かしして寝れないよりは…
「おやすみなさい…エディさん」
私がエディさんの寝室から出ると、様子のおかしいシエルさんとばったり出くわす。
「あれ…廊下で何してるんですか?」
「あっああいや…考え事を…!決して心配でここをうろついていた訳じゃないよ!」
シエルさんはうろたえた様子で答える。
「…兄さん、寝ちゃった?」
「はい、もうそれはぐっすり」
私はむくれながら言う。
「不機嫌だね…何話してたの?」
「私の…好きな人の話です」
私が言うと、シエルさんは少し固まった後「へえ…」と呟き
「僕にも聞かせてよ、君が慕っている人の話」
と言って微笑む。
「ここでですか?」
「僕もこれから寝るんだけど…」
彼は何かを試すように私に言う。
「あ…あー…!じゃあそこでお話ししますね!」
シエルさんまでそんな事言いだすなんて…!
いや、変な事考えちゃ駄目!変な意味なんて無いんだから!
私は高鳴る心臓を抑えながらシエルさんに促されるまま彼の寝室へと入った。