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森の魔女

ーダミアン先輩に連れてこられたのは学校の書庫だった。

彼は慣れた様子で本棚を見回すと、「これだ」と言いながら一冊の本を取り出す。

分厚い本の表紙には、「世界の魔女」と書かれていた。


先輩は本のページをパラパラと捲ると、

そのまま開いてそれを私に見せる。


…「森の魔女」…

エディさんのお母さん…だ


「その女はかつて数多の男を誘惑し、

 現国王陛下までもがその毒牙にかけられた。

 しかし彼女の危険さに気付いた現女王陛下により

 黒き森に幽閉される…

 …それが森の魔女、サエラの実態だ」


ダミアン先輩は本を読みながら、わかりやすく解説をしてくれる。

黒き森にいる森の魔女…エディさんのお母さん…

エディさんは女の人に叱責される夢を見るって言ってたけど…まさか彼女に?


「エディ•エーレーンが14歳の頃にこの事実が判明して…

 貴族や魔法使い達は彼を避ける様になった

 あいつと関わればお前も貴族や魔法使い達に

 相手にされなくなる…!

 夢があるんだろ、今すぐ縁を切るべきだ」


ダミアン先輩は私を真っ直ぐに見て言う。

もしかして…心配してくれてるの?


「で、でもじゃあ…何でシエル様は避けられて無いんですか?

 兄弟…なんでしょ?」


「異母兄弟なんだよ、『光の魔女』

 セレス・エーレーン…

 それがシエル様のお母様だ、

 だから彼は排他されない」


そんな…同じ家の兄弟なのに、そんな扱いに格差があるだなんて…

そりゃ、引きこもりたくもなる…のかも。


「でも解ったろ、あの兄弟に関わっちゃ駄目だ!

 シエル様は自分でお前を釣って騙そうとしてるんだよ!

 もし脅されでもしてエディ様と婚約させられたら…終わりだぞ!」


そんな…「騙す」とか「脅す」とか…

そんな人達なのかな、あの2人って。

確かに結構謎は多いしエディさんの研究室とか爆発してて危なかったし…

シエルさんもたまに怖い時があるけど…


だめだ、彼らが危険かどうかなんて私じゃ判断できないよ…


『メイ、しっかり見ておくのよ』


私は、母の言葉を不意に思い出す。

…植物が好きで、植物園を作るのが夢だった母は、聡明で賢い女性だった。

彼女なら、きっとこんな時…


「ご忠告、ありがとうございます」


私は、ダミアン先輩の顔をしっかりと見て言う。


「先輩が私の事を本気で心配してくれてるって解って…嬉しかったです」


私の言葉に、彼はほっとした様な笑みを浮かべる。


「でも、本の知識や噂からだけじゃなくて、

 私は本当の彼らを見て全てを判断したい!」


私は震えた声で言う。


…私が幼い時、本の知識の通りに完璧にお世話した花に元気が無くなってしまった事があった。


その時母は、

『メイ、本の知識も大事だけど…お花さんをしっかり見て

 きっと春にしては最近暑かったから、

 普段よりお水が欲しかったのよ…』

と言って花に水と栄養を与えた。

すると花はみるみる元気になり、復活したのだ。


…私は、少しの間彼らを見て来て、

「悪い人間」だとは思えなかった。

だから、こんな事で離れるのは…勿体無いって気がする。


「メイ…」


「大丈夫です!やばそうって思ったらすぐに逃げますから!」


私はダミアン先輩にそう言って笑いかけた。



ダミアン先輩と別れ、エーレーン家に帰宅するとエントランスで話し込んでいるシエル様達の姿が見えた。


「だから、その身なりじゃまずいって…」


「只今戻りました!何あったんですか?」


「ああ…急に兄さんが王都に呼び出されてね

 すぐに身支度をと言ったら

 王族は嫌いだからこのままでいいって聞かないんだ」


私は話を聞いてエディさんを見やる。

彼の髪はボサボサでまるで箒のよう、クマは多少良くなったものの

肌の色はくすみ、服さえだらしなくヨレている。


「…今のままだと色んな人に

 『シエル様はあんなにかっこいいのに』って言われますよ」


私は遠慮なくエディ様に鋭い言葉を突き刺す。

すると彼は少し動揺した様子で

「でも身なりを整えた所で別に大して変わらないし…!」

と言う。


「変わります、エディ様きっとちゃんとしたらシエル様と同じくらいかっこよくなれますよ」


彼は私の言葉に少し照れ臭そうに俯くと

「じゃ…たまには本気出すかな」

と言って自室に戻って行った。


「…驚いた、いつの間にあの偏屈オタクの扱いに慣れたの?」


シエルさんが目を丸くして言う。


「なんとなく常にシエルさんを意識されている様でしたので…

 引き合いに出したら効果あるかなーと」


「…上手くやってそうで何よりだよ、

 あんなお世辞まで言えるなんて偉いじゃないか」


「お世辞…?私いつそんなの言いました?」


私が会話を思い出そうとしていると、シエルさんは一瞬不快そうな顔をした後にすぐに笑顔になり

「君も王都まで一緒においで、

 兄さんが癇癪を起こした時ストッパーになるかもしれないだろ?」

ともちかけた。


「いいんですか!?私なんかが同行しても…!」


「勿論!彼が国王陛下と謁見している間、どこでも連れて行ってあげるよ?

 王都が見下ろせる素敵なレストランを知っているし、君に似合いそうな洋服屋にも連れて行けるけど…」


王都…!王都の近くと言ったら!


「西の森に行きたいです、私!」


「…え!?」


…西の森…それは王都の近くにある「危険」とされる場所。


階級の高い貴族か高名な魔法使いでないと入れないらしいが

きっとシエル様なら入る事が許される…!

あの場所には沢山の希少な魔法植物が群生しているらしく、一度入ってみたいと思っていたのだ。


「だけど、あの場所は…悪い存在がいて危険とされているんだけど…」


「大丈夫です、手前の地区なら危険も少なくて申請すれば貴族は入る事が出来るらしいんです…!

 禁止区域には絶対入りませんから!

 ただ魔法植物を見るだけ!

 お願いします!」


「…宝石店とかよりもそっちがいいの?

 君の好きな石を選んでいいと言っても…

 森がいいのかい?」


「はい!宝石と言えばまるでサファイアのような美しい色の蘭やルビーの様な実の成る林檎の木もあるそうです…!

 見てみたいなあ!」


「また魔法植物…僕とのデートより植物か…」


彼は何かをぶつぶつと呟く。


「…?だ、ダメですか…?

 シエル様程の方じゃないとお願い出来ないんです…」


「…いいよ、解った、

 ただ西の森に行く事は

 兄さんには内緒にして、解った?」


「はい!」


何でエディ様には内緒なんだろう…?

でも連れてって貰えるならいいや!

明日が楽しみー!

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