エディの夢
「はい!私魔法植物に詳しいんです!」
私は初めて関心を寄せて貰えた事が嬉しくて、
上機嫌に言い放つ。
「へえ、意外といい特技持ってるじゃん」
彼はそう言って少し口角を上げる。
褒めてもらえた…!
「良ければご相談にも乗れますよ!
どんな睡眠薬を作ろうとしてるんですか?
…見た感じ睡眠薬ってよりは、
睡眠の質を上げる効果のものが多い気がしますけど…」
「そこまでわかるんだ…
笑わない?」
「勿論です!」
「…悪夢を見ない薬を…作ってる」
エディさんは目を伏せながら言う。
「悪夢、見るんですか?」
「見るよ、毎日…
女に叱責されて、殴られる夢
だから寝る時間が怖い」
「あ…」
『兄さんは毎日研究に没頭して寝不足だから寝かせてあげて』
私は、初日シエルさんから聞いた言葉を思い出す。
もしかしてこの人研究してるから寝れないのではなく、寝れないから研究してる…?
「そういう効果がある魔法植物って…あるかな」
初めて頼られた!
「シソの仲間のアオオウギとか…リラックス系ならハートイチジクもいいですね!」
「ふむ」
「キノコで言うなら!
少量であればシロキリダケもいいかもしれません、
元々その人が見たい幻覚を見せる効果がありましてー」
「…ほお」
私は持ちうる限りの植物知識を話した。
彼は最初はメモを取りながら興味深そうに聞いていたが、段々と相槌も減っていき…
「…なので、もし選ぶならリジャカ産の豆よりフィオール産の豆の方がいいんです!
どうですか!?参加になりました!?」
彼の方を見やると、彼は机に伏せて寝息を立てている。
ちょっと!寝れないとか言ってたくせに寝てるじゃない!
「ちょっと!寝るの怖いんじゃなかったんですか!?
聞いておいて語り出したら寝るなんて酷いですー!」
言いながら私がゆすっても彼は起きる様子を全く見せない。
私はため息をつくと、膝掛けを彼の体にかけて静かに部屋を出た。
…彼の見る夢が、悪いものじゃありませんように。
ーーー
朝、エディは目を覚ます。
「…寝れ…た…」
(熟睡していたせいか、夢すら見ていない。
何が原因だ?昨日はメイと一緒にいて…
そうだ、話を聞いていた。
でも話の内容に興味がなかった訳じゃないんだ、
聞いてたらだんだんと眠くなって…)
「…声?」
…
―エディが目覚めた一方で、シエルとメイは食卓を囲んでいた。
「シエル様…庶民の食べ物ですけどお口に合いますか?」
私は彼にフィッシュ&チップスを振舞い、こわごわと尋ねる。
まさか起きて来るなり彼から「僕も食べたい」なんて言われるとは思わず、
少し驚いてしまった。
「うん!美味しいよ!」
彼はそう言って満面の笑みを浮かべる。
良かった…彼って見た目も振る舞いも貴族って感じで、
ちょっと手料理を振舞うのが怖かったんだよね。
安堵していると、食堂にエディさんが入って来て速足に歩いて来ると、
私の腕を掴む。
「えっ!?」
さっき起きて来たのかな?
入って来るなり挨拶もしないで腕を掴んだまま、
彼は私をじっと見つめる。
な、なんなの…!?
「…メイ、君に頼みがある」
「は…はあ、何でしょう」
「これから毎日俺の寝室に来てくれ」
「はい!?!?!?」
私の悲鳴と共に、シエルさんが咳込む。
ししし…寝室ってそれ…どういう…!?
「兄さん!何考えてるんだよ!
僕はそんな事の為に彼女を家庭教師にした訳じゃないぞ!」
シエルさんがそう声を荒げる。
「そんな事…って、何」
「えっ!?…いやその…」
シエルさんが言葉に詰まると、
「昨日、君が植物の話してくれた時…すごく気持ちよく眠れたんだ
話がつまらなかったんじゃなくって、君の声に安心したからだと思う
寝る前に読書とかしてくれたら俺、眠れそうな気がするんだよね
お願いだメイ…!ガラスの薔薇でも何でも贈るから!」
エディさんはそう言って私の手を取る。
な…何だびっくりさせないでよ…!
「そういう事でしたら…」
「何言ってるの、駄目だよメイ
男の寝室で夜二人きりになるなんて…!
子供じゃあるまいし一人で寝たらどうなんだ!」
「は?お前には関係ないだろ」
二人は激しく睨み合う。
「でも…あの…私やりますよ!
彼に他意は無いと思いますし…
沢山眠って欲しいですから」
私が言うと、彼はエディさんから目線を外し私を見る。
「…変な事されたらすぐに相談するんだよ?」
彼はそう言って私の肩を持つと、静かに自室へ戻った。
「何だあれ?何怒ってたんだあいつ…」
恐らく私たちが心配している様な事等一切考えていなかったであろう
エディさんがシエルさんを見送りながら言う。
「あはは…心配してくれてたんですよ、きっと」
私はそう言って苦笑した。
ーーーー
学校が終わり、サークルに顔を出すと
ダミアン先輩が怖い顔で庭園の入り口に立っている。
…もしかして、昨日の事に怒って待ち伏せしてた…?
彼は私を見つけると威圧感を出しながらどんどんとこちらに近づき、
「ちょっと来い」と私に言った。
「ひゃ…ひゃい…!」
私はその圧に負け、渋々かれの後を追いかけた。