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縮まる距離

「おお…」


ダミアン先輩は屋敷を見て絶句する。

まさかエーレーン家に連れていかれるとは思っていなかったようで、彼の額には冷や汗が浮かんでいた。


「…住んでんの!?ここに!?」


「はい、昨日から!」


「ーっ!おいやめとけ!

 あの兄弟はな!」


彼が何か言いかけると、玄関からシエルさんが現れてダミアン先輩を見る。


「…どうも、うちの家庭教師を送り届けてくれたんですか?」


シエルさんはそう言って微笑む。


「あ…えっと…こいつ、平民っすよ!?

 シエル様やエディ様に教えられる事なんて…」


「それは貴方の決める事じゃない、

 何か文句でも」


「い、いえ…!」


シエルさんはゆっくり先輩に近づくと、何かを囁く。

…何て言ったんだろ?聞こえない…

先輩はシエル様に何か言われた後顔を真っ赤にして小さい悲鳴をあげ、「そんなんじゃねえよ!」

とぼやきながら何処かへ走り去ってしまった。


「…君の想い人?あれ」


「いえ…何故かいつも揶揄ってきて少々苦手です」


「良かった、じゃあ今日もよろしくね」


シエルさんはそれだけ言うと屋敷に戻ってしまう。

ダミアン先輩があんな慌てるなんて…何て言ったんだろう?



…ダミアンは、赤面しながら敗走していた。


『彼女の良さが解るのは自分だけだと思ってた?』


(くっそー…あのボンボン馬鹿にしやがって!覚えてろよ…!)


ーーー


私は給仕服に着替えると、いつもの様にエディさんの部屋の扉を叩く。


「エディさーん!良ければ一緒に食事しませんかー!?

 好きな物作りますよ、私!

 だから出て来て下さーい!」


…しかし、またいつものようにシカトをされる…

もうそろそろ我慢の限界よ…!

無視してればこっちが引き下がると思わないでよね!


私は魔法でバイオリンを召喚すると、彼の部屋の前で演奏し始めた。


私のバイオリンは…すっごく下手で

唯一続かなかった習い事でもあった。

あまりに才能がないせいで先生に「悪魔の演奏」と言わしめた私の奏でる音色は、

屋敷中に不協和音として響いた。


「うるさあああああぁい!」


耳を塞ぎながらエディさんが扉を開く。


「あ!出て来てくれましたね!」


私は彼にそう言って微笑みかける。


「…さっきの、君の演奏!?

 才能ないよ、兵器だよそれ

 2度と俺の部屋の前で演奏しないでね」


「はい!もう演奏しないので私とご飯食べてくれますよね!」


「えー…だる…」


私は静かにバイオリンを構える。


「やめろ!

 それ没収!何、君の作った飯食べろって言うの、俺に!?」


「だめですか?」


「昨日も言ったろ、シエル目的の奴は相手にしないって…!」


「よく考えてみたんですけど…

 私はシエルさん目的じゃないですし、

 エディさんの方が身長高くてかっこいいです!

 …もうちょっと背筋伸ばした方がいいとは思うけど…

 だからね、私とご飯食べましょ!」


「…本当?本気で言ってる?」


「はい!」


「…じゃがいも食べたい、それでなんか作って」


やった!乗ってくれた!


「かしこまりました!」



「どうぞ!フィッシュ&チップスです!

 あとソーセージがあったので焼いてみました!」


「…何これ」


見た事の無い食べ物だったのか、彼は皿を見て戸惑っている。


「食べた事無いですか?私の地元ではよく食べられる料理なのに」


「へえ…」


彼が料理を口に運ぶのを躊躇っていると、シエル様が食卓の前を通りかかり目を丸くする。


「驚いたな、兄さんが人と食事をとってるなんて」


「こいつが研究の邪魔すっから仕方なくだよ」


「それ…メイの手作り?」


言いながらシエルさんは皿を見る。


「はい!」


「………食べないの?」


彼は何か言いかけてから黙り込み、エディさんに尋ねた。

エディさんは何かに気付いたようにニヤリと笑うと、ポテトを口いっぱいに頬張る。


「うま、こんな美味いもん初めて食べた」


「えっ!本当ですか!?」


そこまで気に入ってくれるなんて…!作った甲斐があったな!


「これって俺の分だけなんでしょ?

 いやーシエルも可哀想に…

 こんな美味しい物食べられないなんてさ」


そう言われたシエルさんは、口角を引き攣らせながら笑っている。


「そういや聞いたよ?彼女、お前と婚約する気無いらしいじゃん!

 良かったね、いつも『モテすぎちゃって僕困っちゃーう』とか言ってたろ?

 彼女はお前より薔薇がいいんだってー!」


エディさんが揶揄うように続けると、シエルさんの顔はどんどん曇っていく。

なんか…煽りに利用されてる!?


「兄さんが彼女を気に入ってくれたようで何よりだよ、それじゃあ僕はこれで」


そう言い残し、シエルさんは顔を曇らせたままどこかへ消えてしまった。


「君、使えないと思ってたけど結構役に立つじゃん…

 あと案外飯も美味かったよ、

 気が向いたらまた付き合うから

 それじゃあね」


彼が立ち去ろうとするので、私は彼の腕を掴む。


「あ…まって…!良かったら、その…

 研究してるとこ、見学しても…いいですか?」


「絶対に邪魔するなよ、したら追い出すから」と言われ、私は彼に同行する事になった。


彼は研究所に戻るなり、黙々と研究を始める。


「あの、それって何をー」


「邪魔しないって言ったろ、話しかけんな」


む…本当に見てるだけしか出来ないようね。

彼が持ってるのは…月光蘭かな?

リラックス効果のある香りがする花…

その隣は夢見茸、食べると強い眠気とめまいを起こす毒キノコ。

あの粉末は何だろう、チョコレートみたいな匂いがする…


もしかして


「睡眠薬?」


私が呟くと、彼は手を止める。


「…わかるの?材料で」


エディさんは私の方を振り返り、初めて関心を寄せてくれた。

このチャンス、無駄にしてはいけない…!

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