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透明な薔薇

「今日はありがとうございました、シエル様

 …しかし大変ですね

 あの様なお兄様の尻拭いをするのは…」


「はは、そう言わないで

 人には向き不向きがあるだろ?」


「流石、ご立派だ」


「…ねえ、あの…いつも薔薇の手入れをしてる女の子

 彼女ってなんて言うの?」


「え?…ああ、特待生のメイですよ

 名ばかりで目立たないし平民くさい地味な女です

 …あの薔薇、希少種なのに育成に失敗して無色透明にしてしまったんだとか

 もう枯れたような花に毎日世話なんかして…何がしたいんでしょうね」


「…ふーん…

 …なあ、サークル見学ってどういう手順でやるんだっけ?」


ーーー


―ここはメルケル魔法学校、多くの優秀な魔法使いを輩出してきた

 格式高い学校である。


ここに通うことが出来るのは貴族のみ。

…しかし、私は「努力」でこの学校の特待生に迎え入れられたのだ!

「努力は私を裏切らない」、「魔術の才能や家柄なんて関係ないんだ」

そう思っていた時期もあったが…現実は非常だ。


「ねえ、『ノールさん』…

 …『メイ・ノール』!」


私は声を掛けられていたことに気付き、驚いてその場に躓くと

手に持っていたジョウロの水を思いっきり被ってしまう。

バシャン、という水音と共に地面に伏せる私。


声の主…「魔法植物サークル」の「セナ・スピアーズ」部長はそれを見て

「わっ」と小さく悲鳴を上げていた。


「う…な、何でしょう…」


私が水浸しになりながら部長の顔を見ると、

彼は慌てた様子で私に駆け寄る。

ああ、憧れの先輩の前で盛大にこけるなんて恥ずかしい…!


「大丈夫かい!?ごめんね急に声をかけて…

 聞いていると思うけど、今日はシエル様がこのサークルを見に来るから

振る舞いには気をつけてって言おうとしたんだけど…」


「シエル…さん、ですか?」


私は聞いた事もない名前を復唱する。

有名な貴族とか何だろうか…?


「シエル様を知らないの!?『エーレン家』の次男で、

 とてもご高名なお方なんだけど…」


「すみません…初めて聞きました」


私がヘラヘラと笑うと、彼は私に手を差し伸べながら

「ねえ…ノールさん、俺心配だな

 君って…普通の子過ぎると言うか

 この学校では家柄こそが序列、その内失礼をやらかして

 退学なんて事にならなきゃいいんだけど」

と言う。


その表情からは憐みの感情が滲んでいて、本当に私を心配しているのが解った。

セナ部長…本当に優しいな。


「す、すみません」


…そう、「特待生」なんて肩書は私の大した付加価値にならなかった。

寧ろ「ちょっと頭が良かったら入学できた貧乏人」と裏で罵られ、

相手にされる事なんて殆どない。

情けない限りだ。


「部長!シエル様いらっしゃいました!」


庭園の奥から男子生徒の声がする。


「ああ、今行く…!ダミアン、メイをお願い!

 水浸しなんだ」


彼女はそう言うと庭園の奥へと走り去ってしまう。

代わりに来たのは1つ上の学年の「ダミアン」先輩だった。

うわ、よりにもよってこの人かあ…

彼は私をニヤニヤと見下ろして、


「まーたやらかしたのかお前…しゃーないな」

とだけ言うと、静かに杖を私に向け、振り下ろす。


すると瞬く間に私の体は乾いてしまった。


「あ、ありがとうございます…」


私は苦笑いで言う。


「今の、どんだけ高度な事したか解るか!?

 詠唱無しですぐ乾かすって本当なら中々できないんだぜ?

 お前だったらこれやるのに10分は掛かってたかもなー!

 ほんと、俺がいなきゃ何にもできないんだからさ」


この通り、ダミアン先輩はすっごく頼れるんだけど…

すぐにマウント取って来るし、いつも付き纏って来る。

正直かなり苦手だ。


私は「本当にいつもお世話になってます…それじゃあお世話に戻りますね」と言って彼から離れることに成功した。


庭園の奥で、私はガラスの薔薇の手入れをする。

…私の夢は、魔法植物園を開く事…

それは亡き母との悲願だった。


夢の為に今まで頑張ってきたはいいものの、

こんなぱっとしない日々ばかり過ごしているせいで私は自信を喪失していた。


ああ、私の人生を大きく変えてくれるような…

それこそ童話に出て来る魔法使いのような存在はいないのかな。


そんな事を考えてため息を溢していると、

「その薔薇、綺麗だね」

と背後から声がする。


ダミアン先輩の声じゃない…誰だろう?

振り返ると、そこには金細工の様な美しい金髪に同じく星の様な金色の瞳を持った、

まるで天使の様な男性が立っていた。


うわ…!何この人、絵画から出て来たんじゃないかってくらい綺麗…!


「あ…あー!『シエル様』!そんなとこまで入ってらっしゃったんですねー!あはは…」


シエル…この人が?


私と彼が二人で話しているのはまずいと思ったのか、

ダミアン先輩と部長が彼の元に駆け寄る。


「…この薔薇、誰が育てているんですか?」


シエルさんが訪ねると、部長はバツが悪そうに

「そこの彼女が…」と言って歪な笑顔を向ける。


「いいセンスだ、気に入ったよ」


彼はそう言って私に微笑む。

ほ…褒めて貰った!この学校に来てからというもの、まともに褒めてもらったの初めてかも…!


「いやでも…この薔薇実は『失敗作』なんですよー!

 本当は綺麗な赤い色がつく筈だったのに、

 この子の世話が不十分なせいで無色透明になっちゃって!」


ダミアン先輩が大きな声で言う。

…せっかく褒めて貰ったのに…

そんな大きな声で言わなくたっていいじゃない…。


そう、この「ガラスの薔薇」は育てるのがとても難しい魔法植物。

特に「水分量」にはかなりの注意が必要で、少しでも多いと色が薄くなってしまう。

だから水はあまりあげない様にしていたんだけど…何故かこの薔薇は無色透明になってしまった。

ちゃんと育ててあげたかったな。


私が寂しげにガラスの薔薇を見つめていると、


「無色透明でこそ綺麗だって事もあると思うよ、

 失敗なんかじゃない…素敵だ

 でもそうだな、強いて色を付けるんなら」

シエルさんはそう言って軽く指を振り、

ガラスの薔薇を青く染め上げてしまった。


「僕はこの色がいい、青い薔薇って高潔って感じがするだろ?」


凄い…!杖も使わずにどうやったんだろう?

私は一輪摘み取ると、その青の美しさに目を輝かせる。


「…気に入ってくれた?」


「はい!すっごく綺麗です…!」


「良かったな、ミスを庇って貰って」


「…そうですね、ありがとうございます…」


「シエル様、実はこいつ貴族でも何でもない平民でして…!

 特待生として入って来たらしいんですけど、

 所作はなってないわ貴族の関係に疎いわで

 こんな平凡な奴がこの学校に居るとか笑っちゃいますよねー!」


「ちょっと、やめないかダミアン」


追い打ちをかけるが如く、ダミアン先輩は続ける。

まただ…こうやっていろんな人の前で貶されて…


「ふーん…合点が行った、君ってなんか普通の子だよね」


ああ、ここから馬鹿にされるパターンね…いいの、場違いなのなんて解ってるし…。


「でも特待生なんて凄いじゃないか、うちは教科も実技もレベルが高い!

 相当優秀なんだろう」


私は思いもしなかった言葉に顔を上げる。

また…褒め…られた!?


「君…いいね、まさに僕の探していた逸材だ

 ねえ、僕の家で家庭教師をやってみないか?」


「「「えっ!?」」」


その場にいた全員が言葉の意味を理解できず、思わず驚きの声を漏らした。


突如、どこからともなく現れたスーツ姿の男達に取り押さえられると、

私は何がなんだか解らない内に校門前に停まっていた車に乗せられてしまう。


「あの!私やるって言ってませんけど!」


私が言うと、彼は笑った口元はそのままに凄く冷たい目で私を見ると


「よく聞こえなかったな

 嫌ならこのまま帰してやってもいいけど…

 まさか僕が『家に来い』と言ってるのに

 断る気じゃないよね?」

と言う。


私は彼の言葉に顔を青くする。

すっごい圧!なんか怖い!


…でも…この人、初めて私を認めてくれたし…

薔薇…に、色を付けてくれた…。

どうしても悪い人じゃ無い気がして…

強引なのにも何か事情があるのかも。


「どうする?帰る?」


彼の問いに私は無言で首を振ると、


「…車を出して」


私を乗せて車は知らない土地へと走り出した。


短編を書こうとして長くなってしまった為連載にしました。

10万字以内には終わると思われます。

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