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8 照陽陽葵の決意

 ――自分の気持ちに正直になってから、優人を見る目が変わった。

 あの時の彼に戻ってほしい反面、今のちょっぴり悪な彼もかっこいいと思ってしまったり。


 私が好きになったのは昔の落ち着いていた優人だったのに、今となっては別人へと変わり果ててしまった軽薄そうな彼にも好印象を抱いてしまっているのは、恋が盲目だからなのだろうか。


 まぁ何でも良いとしてとりあえず、もう一度、あと一度だけで良いから、私は彼とちゃんと喋りたかった。

 欲をいえばまた優しく頭を撫でてほしい。でも彼の周りには怖い人たちで集っている。


 言ってしまえば私のグループと彼のグループは水と油のようなもの。だから私は彼に近づくことができず、また少しでも近付こうとすれば私の取り巻きが阻止してきて、ずっと避けてしまうような感じになっていた。私はただ嫌われていないかなと願うばかりだった。


 別に私は、自分の体裁を気にしていたわけじゃなかったんだ。

 周囲の目線よりも自分の目的や感情を優先したい。そのためならば、例えみんなから嫌われているような不良が相手だとしても仲良くしたい。

 それが、私の求める『お嬢様』だった。


 それなのに、そんな理想像とは乖離した高嶺の花のような存在になってしまっていることに、私はずっとモヤモヤしていたんだ。

 いっその事一人にしてほしいとさえ思ってしまっていた。


 そんな煩悶する日々を送っていたある日、優人が女の子に告白したとの情報が入ってきた。

 同じ女子でありながら、その伝達の速さには怖さすら覚えてしまうほど。でも本音をいえば、こと優人に関しては感謝しかなかった。

 

 相手は優人たちと同じグループにいる中学で茶髪染めをしている『ギャル』だった。


 私はそれを聞いた途端、ドキリと心臓が飛び跳ねて世界のどん底へ突き落とされる錯覚に見舞われた。

 でも次の「振られたらしいよ」という一言で、意外にも耐えれたのだ。


 ホッとした。良かった。

 しかしそれと同時に怒りが湧いてきた。


 あれだけ一緒にいながら優人の魅力に気付かないなんて馬鹿な女。

 私なら彼を幸せにしてあげられるのに!


  これまでの人生を彼に幸せにしてもらった分、私はその数倍で恩返しをする覚悟が……いや生涯を添い遂げる覚悟があったのだ。

 なのに彼は私のことなんて見向きもしてくれなかった。


 何でと考えて単純な結論に至る。


 きっと容姿がダメなんだ。


 部活をやっていることも相まって、髪は黒髪のベリーショート。対して彼女はメイクまで施したセミロングな茶髪ギャル。全然違いすぎる。


 優人はああいう女の子がタイプなんだと思って、そこから髪を伸ばすようにし、『ギャル』についての勉強も始めた。


 少しでも優人に見てもらうために――!


 メイクにネイルに服装に髪型や色の統計まで。仕草や口調も一応真似てみたことはあったけど、私には合わなくて気持ち悪くなったのですぐ止めた。


 髪を伸ばしていたからか、私に対する周囲の視線が増えていたような気がするけど、肝心の意中の彼には中々見てもらえなかった。


 単純に興味を持たれていないのか、それとも幼馴染が故に未だに子供だと思われているのか。

 前者だと死にたくなってしまうから、どうか後者であることを祈って私はもっともっと自分磨きに精を出した。


 私以外見れないようにしてやる――!


 そんな私の情熱の前には、他者の慕情が入り込む隙など与えなかった。



 そうして自己研鑽に励む中、世間は受験シーズンへと突入していた。


 ああもうそんな時期か。


 元々私は成績が良い方だったので、受験に対する不安などはなったんだけど、流石にそろそろ体面的にも勉強しなきゃ不味いよねってことで、再度勉学に熱中することにした。


 特別行きたい高校はなかったのだが、ある時優人の志望校を知ることになった。これも女子の情報網によるものだ。

 それに合わせてヤンチャな人たちと喋ってる所も見なくなって、図書室に入り浸っているとの情報も入ってきたのだ。


 放課後、私は優人が図書室に出向くのを見計らって後を追うように入室した。


 コンタクトから眼鏡に取り替えており、端には積み上がった参考書。机に向かって黙々と勉強に励む姿は、小学生時代を彷彿とさせて私は不覚にも嬉しくなってしまった。


 不良少年っぽかった彼も良かったけど、やっぱり優人はこれが一番落ち着く。


 私は偶然を装って優人に勉強を誘ってみたら、彼はあの時と変わらない口調で、微笑みで、優しく私を包みこんでくれた。


 ――ああ、やっぱり優人は変わってなかったんだ。


 心が満たされて、悩み事が全て吹き飛ぶような感覚。

 中学初頭からは考えられなかった奇跡の光景に、私は自然と涙が流れた。

 彼はそっと指で拭ってくれた。

 その姿は、紛れもなく童謡に登場する王子様のようだった。


 日々を生きる事が、こんなにも楽しく感じるのは何時ぶりだろうか。

 彼とまたこうして一緒に勉強ができるだけで、胸がいっぱいになってしまう。


 今はただ、これで良い。


 でも、何時かは必ず振り向かせてみせる――。


 もう二度と、あんな思いをするのは嫌なんだ。


 今は受験期だから勉強に集中するとして、高校に上がったら積極的になろうと、私はそう固く決意したのだった。

完結です!  ここまでありがとうございました!!


「面白かった」とか「続きが気になる」とかとか思ってくだされば、よければ下の【☆☆☆☆☆】をタップして教えてほしいです! またブックマークや感想などもくれると嬉しいです! 何卒よろしくお願いします!

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