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翌日の日曜日、陽葵から個人メッセージで十二時に駅前で待ち合わせの連絡を貰っていた俺は、規定時間よりも少し早く到着して待っていた。
陽葵の姿はまだ見当たらない。
それにしても、高校生の女子って普段何して遊ぶんだ?
クラスの男友達とは放課後によくゲーセンに行ったりカラオケとかボーリングとかして遊んだりしてるが、陽葵は女の子だ。男友達と同じようにってわけにはいかない。
とりあえず当たり障りのない映画とかスイーツ店何かは調べたりしたが……あいつって何が好きなんだっけ?
確か小さい頃はよくケーキを食ってたか。苺の乗ったバターケーキ。物欲しそうな目で俺の分のケーキも見てたから、よく譲ってやったっけな。懐かしい。
しかしだ、昔がそうだったからといって、必ずしも今も同じというわけでもないだろう。
ケーキが嫌いな女性はいないと何かで見た記憶はあるが、人間である以上どんな物であれ好き嫌いはあるものだ。
陽葵の好き嫌いって、何なんだろう――?
俺って陽葵のこと、知ってるようで案外何も知らなかったんだな。
ま、とりあえずそこら辺は、合流してから要相談ということで。
そんなことを考えていた時、どこかからトラブルを臭わせる声が聞こえた気がした。
「――興味ありません、迷惑です!」
「そこをどうか、お願いします! 話だけで良いので聞いてください!!」
その方へ目を向けて見ると、被害に遭っていたのは陽葵だった。
黒スーツに眼鏡をかけた中年の男性にしつこく付きまとわれているようだ。
恐らく何かのスカウトマンだろう。
一度すれ違えば振り返らずにはいられない陽葵の美貌は、その手の人間からしてみたら格好の的なのだ。
故に、これまでにも幾度となく声をかけられてきたのだが、彼女はその尽くを断ってきた。
ま、今回も同じように何とかするだろう。
俺は彼女の強さに甘えて、大丈夫だろうと楽観視していた――。
「キャ――ッ!! やめて、離して!!」
スカウトマンが陽葵の腕を掴み、陽葵の歩みを無理やり止めさせる。
「なぁ? 頼むよ、話だけでも聞いてくれよ」
あれ、これもしかしてちょっとヤバい?
いや、でもあの陽葵のことだし、それに彼女ならわざわざ俺が助けなくても他の人が――。
あれ、何言ってんだろう俺。
他の人って、全員赤の他人じゃないか。
そんな奴らに助けられた所で、人が変わるだけで状況は何も変わらないじゃねぇか。
他じゃダメなんだ。
俺が、助けないと……。
でも、足が動かなかった。
クソっ、何でだよ、動け、動けよ俺の脚!!
まるで腿に鉛でも入っているかのように、踏み出そうとする一歩が重く、微動だにしない。
この感覚、あぁ、そうだ。あの時もそうだった。
陽葵が虐められていた時、俺はずっと見ていることしかできなかったんだ。
自分が標的になってしまうことが怖かったから。足を震わせて傍観することしかできなかった。
あの時の情景が鮮明に想起され、幼少の自分が幻影している。
今回も同じだ。
もしあいつが刃物なんかを持っていたら?
刺される。刺されたら死ぬ。
死にたくない、怖い、足が震える。動けない。
――あ、陽葵と眼が合った。
「優人、助けて……」
陽葵の涙が地面を濡らした。
俺は――走り出していた。
ハァハァと息を上げながら、とにかく彼女の方へ走る。
もう、涙はみたくない。そう誓ったんだ。
だから、俺は――。
「ハァハァ……その手を……離してください。 その人は俺の、大切な人なんです!」
陽葵を掴んでいた男の腕を掴み、力いっぱい握り締めた。
「い、いたっ、離せ!」
男は陽葵から手を退けて、その隙に俺は陽葵を引っ張ってしばらく全力疾走していた。
男が追ってくる様子はない。
陽葵から手を離し、肩で息をする。
「陽葵ちゃん、大丈夫でした――」
「優人――っ!!」
途端に陽葵に抱き着かれていた。
「か? ぁ、え?」
「ありがとう……怖かったよぉ……」
「い、いや、俺は……」
正直、あの助け方は情けなかったと思う。
本音を言うなら、もっとかっこよくスマートにやりたかった。
でも、陽葵の安堵で流すその涙を見たら、全部どうでもよくなっていた。
今はただ一つ、助けられてよかった。
あの時の、臆病だった頃の俺はもういなかった。
「――とりあえず、怪我はなさそうで良かったです」
「うん、ありがとう」
ベンチに腰をかける二人を、しばらくの間、沈黙が支配していた。
「あーっと、今日はもう解散にしますか?」
ずっとこのままでいるのも申し訳ないし、陽葵も心の整理が必要だろうから、俺は解散を提案した。
だが、陽葵はバサッと勢いよく立ち上がって、
「ほら、早く行くわよ!」
そう言い出した。
「行くってどこに?」
「約束したじゃない! ショッピングモールよ!! あんたに似合う最高の服を、私がコーディネートしてあげるんだから!!」
あぁそういえばそうだった。
陽葵はこういう奴だった。
どんな災に見舞われても、自分の目的は意地でも貫き通す。
そんな彼女だったから、俺は断ることをしなくなったのだ。
「ほらほら、早く立って!! 時間なくなっちゃう!!」
そうやって快活に笑う陽葵の笑顔は、やはり世界で一番だと、改めて実感した。
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