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【6】見えない壁

 日が落ちるのを待ってから、ミーシャとグレンは出発した。グリフォンの体毛は暗く、夜目が利くため、夜の闇に乗じた方が目立たずに済むと判断してのことだった。それでも完全に姿を隠せるわけではない。首から下げた識別旗は、遠目でも判別がつきやすいよう、光沢のある色鮮やかな魔術糸が織り込まれている。第二中継基地は、セリオン教国の国境付近にある。敵の国境警備隊に発見されることのないよう、木々の合間を縫うような低空飛行を徹底した。予定では、第二中継基地で識別旗を外し、空からセリオンに潜入する手筈になっている。敵の目に留まるような真似は極力避けたかった。相手の警戒心を煽れば、警備を強化させるような結果を招きかねない。

 しかしそれでも相手の方が上手だった。

 森の中で突如、まばゆい光の柱が伸びた。柱は次から次へと現れ、まるで花火のように天高く昇っていく。

「しまった……」

 ミーシャは魔力の流れを読む。この場に張られた罠ではない。遠方で仕掛けられた探知型魔術の射程範囲内に入ってしまったのだ。術者は自国の領土内で魔術を使ったに過ぎない。遠くで角笛が響き、猛禽類が一斉に羽ばたくような音が聞こえた。

「セリオンの国境警備隊が来るぞ。有翼人の斥候部隊だ。急ごう、ミーシャ」

 二人はグリフォンの手網を握り、夜の森を疾駆する。頭上で突風が吹いたかと思うと、枝や葉が降り注ぎ、二人の視界を遮った。魔術による威嚇射撃だった。敵の飛行部隊は、遠方から魔術弾を立て続けに撃ち込むと、二人を深追いすることなく引き返していった。しかし無傷では済まなかった。第二中継基地に着き、厩舎に引きそうとしたときに初めて、ミーシャはグリフォンが傷を負っていることに気づいた。

「……空からの潜入はやめた方がいい」

 ミーシャの話を聞いた兵士はそう口を揃えた。

「でも、私は行かなければ……」

 ミーシャが反論しようとすると、兵士たちはにやりと笑った。

「おいおい。行くななんて一言も言っていないぞ。ただ単に、空からは駄目ってだけの話だ。セリオンにはな、陸路で潜入するんだよ」

「そんなことができるの?」

「ああ。セリオンは宗教国家だからな。巡礼者に紛れ込むんだ。……セリオンの巡礼者は酷いものだよ。紛争に発展することを恐れてこちらが手出しできないのをいいことに、平気で国境を侵犯しやがる。だがそれは、巡礼者に化ければこちらからも入れるってことさ」

 そうやって何人ものスパイがセリオンに潜入したよ、と別の兵士が付け加えた。

 彼らの協力のもと、ミーシャとグレンは巡礼者に身をやつし、セリオン教国の国境を越えることに成功した。

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