1.天気屋の娘
「今日は雲行き怪しいなぁ…」
シエルは空を見上げながらぼそっとつぶやいた。
(なんか起こるのかねぇ…)
ここは白い壁と青い空が映える海辺の町。
そこで雲や風を見て天気を予測する「天気屋」の娘がシエルだ。
自作の葦ペンを動かして紙に記録を書いていく。
シエルは毎日、港から見える天気の様子を記録につけている。
今日は水平線に黒い雲が浮かんでいる。
この時期に雨が降るなんてめったにない。
(異常気象か?)
シエルは父親のリアムには敵わないが、予報士としての知識はそれなりにある。
(帰ったら父さんに雲のこと話してみよう)
歩きながらそんなことを考えてるとシエルの目にあるものが映った。
(あれは…気象の本?!)
港に停めてある船の入り口に気象の本がたくさん積まれていた。
本のタイトルは角がカクカクしている東の国の字、たしか漢字といっただろうか。
シエルが住むリッテラは文学が発達していていろいろな国の文字を学ぶ。
そのためシエルも東の国の字を知っていた。
「東の国の気象の本だぁ…!」
きらきらと目を輝かせるシエルには「他人の船だから」という躊躇は全くなく、船の中に入って本に飛びついた。
(あっちの国はこんな気象の特徴があるのかぁ…)
東のほうとシエルがいる西の気象は違うらしく、知らないことばかり書いてあった。
(さすがに持ってったらやばいよな…)
そんなことを思っていたら後ろで猫の声がした。
「ん?野良猫?」
猫に近づこうと振り向いたら上から声が降ってきた
「おいお前誰だ?!」
「?!」
見上げてみると階段からシエルを見下ろす男がいる。
「お前まさか見たのか?!」
(え、なにを?)
シエルは顔をしかめた。
男はシエルの前まで来て見下ろしてきた。
「ならここまま帰すわけにはいかないなぁ」
「え?」
男はにやりと笑うとシエルを捕まえた。
抵抗するが床に押さえつけられる。
男はシエルの口になにかわからない液体を無理やり入れられた。
なんだかぼうっとしてくる。
(睡眠薬…?)
曖昧な意識の中、シエルの目の端には気象の本と猫、そして本に挟まった「半月後 リッテラ 爆破」
と書かれた紙が映っていた。
☀︎ ☔︎ ☁︎
「ん…」
激しく揺れる船の中でシエルは目を覚ました。
(あぁそういえば…男に囚われてここにいるのか。)
でもさっきの船とは違う。
どうやら違う船に乗せられたようだ。
「ねえねえ」
「?!」
隣には女の子がいた。
「あなたも売られてきたの?」
「売られてきた?」
あぁなるほど。
あの男は私を売り飛ばしたようだ。
「うん、そうみたい」
「そっかぁ」
女の子はずいぶん幼く見える。
こんな幼い子が売られるのか…
「私、可馨!13歳!」
13歳の割にはずいぶん幼く見える。
(なんか妹みたいだなぁ)
「私はシエル。15歳だよ。」
「シエル!よろしくね!」
可馨の他にも子供たちがいる。
疲れ切ってみんなぼうっとしている。
可馨も瞼が重そうだ。
シエルはため息をついて壁にもたれかかった。
(そういえばあの時、なにかを見た気がする…)
本と、猫と…
「?!」
そうだ。爆破予告。爆破予告が書いてあった。
「半月後、リッテラが爆破…?」
記憶があいまいで本当にそんなことが書いてあったからわからない。
わからないけど…
(そんなこと絶対にさせたくない。)
何も知らない町の人になんとかして伝えなければ。
(なにか…なにか伝えられるもの…)
天気の記録に使っていた葦ペンと紙はいつのまにか無くなっていた。
(こうするしか…)
シエルは着ている白いワンピースの端を破いた。
小さな部屋の端から染み出しているオイルを手につけてワンピースの端に「半月後 リッテラ 爆破」と書いた。
格子から見える海にそれを落とした。
(誰かに届いて…)
そう願いながらシエルは疲労に襲われ目を閉じた。
☀︎ ☔︎ ☁︎
船に揺られて何日が経っただろうか。
部屋にある備蓄用の食料のおかげでなんとか生きながらえているが果たしてあと何日船に揺られ続けるのか。
(あのメッセージは誰かに届いたかな…)
そういえば最近船の揺れが少なくなり、ゆっくりと進んでいる気がする。
陸が近いのかもしれない。
こんなに長い間船に乗っているんだからそうとう遠いところに来ているんだろう。
正直、異国にとても興味がある。
知らないところに連れて行かれて、「恐怖」というより「好奇心」の方が勝っている。
リッテラが爆破されると知った時は動揺したが、今はこんなに冷静でいる。
(どんなところに着くんだろうなぁ)
☀︎ ☔︎ ☁︎
船が停まった。
どうやら陸に着いたようだ。
「おい出ろ」
急に扉が開けられ光が差し込む。
久しぶりの太陽に目を細めて外に出る。
「わぁ…」
そこは世界で1番栄えている国、華国だった。