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作戦開始

 12月23日、スイス時間15時50分。


 「ひっひっふー、ひっひっふー」


 似合わないスーツ、似合わない腕時計、似合わない髪型の男が今記者会見の席に立つ準備をしていた。


 「マジかー、マジで俺会見すんのかー・・・こんな時はラマーズ法だ。意外と落ち着くんだ・・・落ち着けぇあっし〜・・・」


 「さ、時間です新月さん」


 (言うべき事は決まってんだ・・・これは、あっしの昔からの夢、届けられなかった言葉を届けるチャンスだ。案の定あっしの手元には作られた作文がある。当たり障りのない内容だ、反吐がでるね・・・ふ、行くか!!)


 新月が壇上に向かって歩き出すと、あちこちでフラッシュが焚かれて無数のマイクが新月に向けられた。


 「えー、この度新組織、世界環境機関の発足について・・・」


 まずは司会の人から開始だ。言うぞー、言うぞー・・・


 「では新月さん・・・新月さん?」


 「・・・ぁ、はいっ!?なんでしたぁ!?あ、」

  



 しーん・・・



 

 意識を集中したばかりに、周りの声が聞こえなくなった新月は声が裏返ってど初っ端からやらかしてしまった。


 「え、えー・・・おはよう!」


 「今は昼過ぎですが・・・」


 「あっしの日本はまもなく日付が変わるでしょうよ!だからおはよう!!」


 新月は無理やり話を進めた。


 「おほん!!ってなわけでえー、改めてみんなおはよう。あと10分もしないうちに日本は12月24日、その日の夜は所謂クリスマスイブだ。聖なる夜ってね・・・あー、今からあっしが話す事はその聖夜を迎えられるかは今の君たちにかかってるって事だ」


 「新月さん?そんな話は予定に・・・」


 「ない。だからと言ってこれ以上問題を先送りにする事は更に出来ないね。まだ世界の九割九分は知らない事実だけどさ、今日この日、世界はまたとない危機を迎えてんです・・・はぁ」


 スパーン!!


 新月は気合を入れる為に自身の頬を思いっきり叩いた。あまりに気味のいい音を立て、会見場に響き渡る。


 「今日、これより君らの知らない場所で、世界で、世界の命運を懸けた戦いが始まります。とは言え、戦争の規模で考えればさほど大きなものじゃない。戦場は2つだけだ・・・けど、その戦いの行く末は我々人類の命運を決める史上最大の作戦だ。


 にも関わらずだ、我々は未だ些細な事で憎しみあっている。肌の色に始まり、宗教感、文化に加え相手の性格、見た目なんかでも我々人類は共存を拒み続け、今日この日を迎えた。


 もうやめにしよう、我々は人間だ。間違える事はまだこれからも多々あるだろうが、他者を認めない生き方はもうやめにして欲しい。


 正直言うと、我々は一度は思い知るべきなのは確かだ。これまで見て見ぬふりをしてきた我々の繋いできた罪。少なくともあっしは・・・いや、私は知るべきだと思う。敵は神、人間を裁くためにこの世界にやってくる。神は人類にとっては敵なんだ。その理由は明白、我々人類とは罪の存在だからだ。


 だからこそ今、人類は手を取り合うべきなんだ。そして罪と向き合う事、それこそ1番の償いだと私は思う。ただ単に神の罰を受け入れるのは結局、我々人類にとってなんの価値もない事だ。


 人類よ、どうか思い知って欲しい、そして考えて欲しい。そしたら後はどうすべきか分かる筈だ。今日、我々に降りかかるのは神の罰か?いいや違う!!来るのは敵の攻撃!!それに対して人類のすべき事は一つしかないだろう!!人類が一丸となって敵を倒す事だ!!我々は人類!!この世に生まれた時に生きる権利を!存続する権利を持って産まれた生命だ!!


 今日!!12月24日が復活の日なのだとするのなら!!我々は今こそ生まれ変わる時だ!!そうなれば!!あっしの国じゃなんの意味か分からないこの日が!!世界の全てにとって自由と平和をもたらされた日となる!!


 あっしは世界の自由と平和の為に戦う!!世界はどうする!?繋がる罪を罰を受けるか!!それとも!!自らの手で!!贖罪の道を進むか!!さぁ!!今!!裁きが来るぞ!!!そしてあっしは!!立ち向かう!!」


 ・


 ・


 ・


 日本時間、12月24日午前0時マーシャル諸島沖


 空母、ヘリオストロープスの艦上。合計五機のカタパルトに戦闘機がそれぞれ乗せられている。


 『ゼロアワー!!ワールズゲートオープンせよ!!』


 艦長の掛け声の元、空母打撃群の前に真っ白に光るゲートが出現した。


 『今!!エアクイーン隊!!出撃せよ!!!』


 空母が光るゲートを潜るタイミングでそれぞれの戦闘機はカタパルトから発進した。


 ・


 ・


 ・


 スイス ジュネーブ。12月23日、16時00分


 しーん・・・


 「あ、あれ・・・みんなもっとこう、うおー!とかって無いの?」


 新月は何も起こらない事に困惑しだした。


 (えー・・・今、作戦開始したんだよな?あっし予定にない事ベラベラ喋っちゃったよ?)


 会場にしばしの沈黙が流れる。だが、それはすぐに破られた。


 


 ガチャン!!!




 「うおー、ってな事にはならないだろうな。理由は簡単だ新月さん、貴方の言葉は誰にも響かなかったからだ。いかに素晴らしい言葉を並べてもその言葉を()()()()に見ている者には、どれだけ足掻いても届きはしない」


 「あぁ、良かった・・・来たぜ」


 静まり返った会場にドアが開く音が響いた。


 「すまない、少し遅れたな。だが、時刻はたった今が日本時間午前0時だ。そしてその日付を持って俺は証明しに来た。新月さん手伝ってあげるよ、今世界が置かれているこの状況を知らしめたいのなら、この俺がこの手でな・・・」


 ドアの向こうからやって来た男は坂神 桜蘭だ。


 「な、なんだお前!?どうやってここへ!?許可証は!!」


 「眠れ」


 どさっ・・・


 止めに入った男は桜蘭の目の前で倒れた。


 「よー、ちょっと心配したぜ桜蘭君よ。まさかあっしらの早とちりじゃないかって思ってたとこだ」


 「三上と永零は肉体も思想も違うが同じ神、一心同体の存在だ。向かい合う時は絶対に合わさるさ・・・それで、お前は1人か?」


 「あぁ。で、あんたは?」


 「今はだ・・・」


 ス・・・




 ズガガアァァァァァンッ!!!!!




 桜蘭は凄まじい速さでホルスターに手を伸ばし、新月に向かって一発の弾丸を放った。


 しかし、ほぼ同時にほぼ同じ口径の弾丸が放たれて潰れた鉛の塊が司会をしていた女性の足元に落ちた。その直後だ、何が起きたのかをようやく理解したこの会見場にいたメディア関係の人たちがこぞってパニックに陥った。


 「止まれ」


 「なっ!!」

 「う、うごけない!!」

 「ひっ!!!な、なに!!?これ!!!」


 だが、桜蘭の一言でパニックは治る。全員もれなく動けなくなり、強制的に誰も逃げられなくなった。


 「さて、俺は今からここにいる全ての人間を殺す。1人1人、自身の罪を噛み締めさせながらな・・・だが、それが全て終わる時ここの人間は更なる進化を得る。さぁ、どうする?新月の言う通り裁きに抗うか、それとも裁きを受けるのか?」


 パチンッ!!


 『グルルルルゥゥ・・・』


 桜蘭が指を鳴らすと地面から害獣たちが這い出して来た。


 「さぁ、お前たちは今自由となる。だが、外には出られない。この狭い空間の中でどう生き延びる?」


 その次の瞬間、動けなくなった人たちが走り出した。


 「うわぁぁぁっ!!」

 「警備は!?護衛は!?」

 「電話!!電話かけないと!!」


 現場は大パニックに陥った。しかし、


 「時よ止まれ!!!」


 『『『ぐぎぃあああああああっっ!!!』』』


 1人の少年が叫んだ瞬間、会場に満ちた害獣は倒された。


 「来たか・・・意外と遅かったな、ミツキ」


 桜蘭の背後、そこには輝夜 ミツキが桜蘭の後頭部に自身の銃を突きつけていた。


 「な、なんだこれは・・・この怪物たち、死んだのか?」

 「あの子どもたちが?あの子たちは一体・・・」


 ここにいたメディアも重鎮も、全員1箇所に視線を集中させた。先ほどまで影も形もなかった数十人の子どもたちが突然現れ、あの怪物たちを蹴散らしていたのだ。


 「天正第二中学!2年3組学級委員長!!キャロライン ガイアですわ!!」


 「宮ノ下小学校!!5年2組!!学級委員長!仙石 茜!!世界の非常事態と聞き!!日本からはるばる馳せ参じました!!」


 「・・・私は引率のグレイシアだから」


 ぺこり


 「あ、あぁどうも・・・」


 グレイシアはいつもの朝の挨拶の要領でぽかんとしてた男に挨拶した。


 「ただの人間をここに置くか・・・大きく出たな」


 「私は信じた、ただそれだけだよ。だって私たちが勝つから」


 「言った筈だ・・・これからお前が知るのは、絶望だ」


 「「ライトニングソード!!」」


 バッヂィィィ!!!!


 桜蘭は一瞬のうちに身体を沈み込ませ、一気に身体を捻らせて銃口から伸びたエネルギーの剣をミツキに振るう。ミツキもそのタイミングに合わせて同じ技をぶつけた。


 「全員俺たちの後ろに!!慌てず下がれ!!カムヒアー!!」


 三日月は各国の重鎮やメディアたちを退避させた。


 「戦える者たちよ!!前に出なさい!!このガイアを戦いの先頭に出させるなんて以ての外ですわ!!さぁついて来なさい!!まだまだ敵は来ますわよ!?」


 キャロラインはサーベルを手に前に出る。そして更に現れる害獣たちを蹴散らした。


 「成る程、あくまでも直接戦闘は上澄みの奴らか、他はサポート・・・そして、俺と戦うのはミツキ、お前だけじゃない・・・」


 「当たり前でしょ。正々堂々1対1であなたと戦って勝てる見込みなんてない、場数が違いすぎる」


 「そうでござる!!!キリッ!!!とぅっ!!」


 ミツキの隣に麗沢が降り立った。安定のフェルトのへんちくりんなアイマスクを装着して目元だけ隠しているが、誰が見ても体型で分かる。


 「相変わらず特撮ヒーローが好きだな麗沢・・・だが、お前がここにいるってのは意外だ。てっきり三上の方にいると思っていたからな」


 「お?それはつまり永零殿を出し抜いたという事でござるな?いやはは!一矢報いたり!!」


 「幸運の効果でここにいる全員を助けるつもりか・・・なら丁度いい。お前から始末するとしよう・・・麗沢」


 鋭い殺気を桜蘭は麗沢に向けた。


 「先輩・・・やはり問答無用なのでござるな。あの日、先輩に何があったのかは存ぜぬが、先輩はそんな人では断じてなかった!!止めさせて貰うでござる!!拙者の覚悟を!!先輩は見ているでござるよ!!拙者の!!変身ッッッ!!!」


 麗沢はどこかで見たポーズをとる。その時腰に小さな爆発と共にやたらデカいベルトが現れた。


 「痛ったい!!腰に転送した時の衝撃が痛い!!」


 「無茶するから・・・」


 ミツキは少々呆れた顔で麗沢を眺めた。麗沢はしばしのたれ回った後もう一度変身ポーズを取り、ベルトの裏側にあるなんかボタンを押した。


 『ピザドライバー!!』


 思いっきりスピーカーから音が出た。


 「ふぉぉぉぉっ!!!」

 

 『ギュイイイイイイッッッ!!キュルルルルゥゥッ!!』


 麗沢が更にボタンを押すと、ベルトの真ん中部分にあるLEDが光り回転を始めた。微妙にモーター音がやかましい。


 「とぉっ!!」


 そして麗沢が若干飛び上がると変身した。


 ぺっかー!

 『ヘンシン!!pizza!!キュピーン!!』

 


 「・・・こんな時にふざけてる場合じゃないよっっ!?」


 「拙者大真面目でござるが!?だって拙者アタオカ戦隊バケモンジャーでござるから!!」


 「その設定引きずってたの!?」


 ベルトから変な音声が流れて、麗沢はパッツンパッツンの全身タイツに身を包み、変なヘルメットを被った。やたら時間かけて作り勿体ぶった割には適当である。思わずミツキがツッコミを入れた。


 「ミツキ、一見ふざけて見えるが麗沢はそういうとこが侮れないんだ。だから・・・」


 「ひょうっ!!ふらいぱぁん!!」


 「ぐっ!!」


 桜蘭は麗沢に向かって攻撃を放ったが、麗沢はぽいーんと跳ねてどういう訳か桜蘭の背後を取り、手に持っていたフライパンで桜蘭の後頭部にぶち当てた。


 「マジか!!」


 ミツキは思わず叫んだ。


 「だが麗沢・・・これだけの人数全てを幸運で乗り切る気か?そろそろ、シリアスでも良いと思うけどな。そうしないとすぐに幸運は時間切れを起こす」


 「むぅ、致し方あるまい。コミケでもあるまいにコレを外す事になるとは・・・行くぞ、先輩!!メガネオフモード!!」


 ガチャ!!

 『メガネ!オーッフ!!』


 相変わらずベルトのスピーカーから変な音が出ているが、麗沢がベルトに付いたレバーをいじると麗沢のメガネが途端に吹っ飛んだ。そして麗沢の太った体はみるみる細くなり、天然パーマの似合う青年に変わった。


 「変わった・・・」

 

 ミツキは呟く。ミツキの中でこれまで麗沢に抱いていた感覚の全てが変わったと感じた。見た目以上に鋭い目つきは彼の深い覚悟を醸し出していた。

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