sins of the human
とある休日のミツキ宅
昨日、三上君の家で会議があった、決戦が近づいているって。
この間の文化祭、そこで一兆は敵のアレクシアから敵のアジトの場所を聞き出した。今すぐ行動したい所だけど現状、完璧な勝利を手にするのに準備不足が否めないらしい。決戦は年末頃になるだろうだって。
それのせいか最近みんな慌ただしい、それぞれ修行だとか、グレイシア先生も三日月のとこの純恋先生となんかやってるっぽいし、三上君に至っては1週間ほどおフランスさんに行くんだってさ。なんでも必要な人がそこにあるから、との事だ。
そして私も、それに巻き込まれる事になる。
ピンポーン・・・
玄関のドアチャイムが鳴った。
「あ、はい、三日月ー」
「手が離せねー!バカ姉行け!」
ちっ、何やってんだ?仕方ない、出るか。私は玄関のドアを少し開けた。
「あ、どうも!」
「初めまして。あなたが輝夜 ミツキさんですね?」
営業スマイルが素晴らしいスーツ姿の男女2人組だ。
「あ、はい・・・あの、どなた?」
「あ、私こういう者で・・・」
男の方からとある手帳が渡された。『INTERPOL』いんてるぽれ?読めん・・・
「インターポールのサディア マーキュリーです」
インターポール・・・聞いた事あるなぁ。あ、あのとっつぁん!!
「え、刑事さん!?え、わ、私何かやらかしました!?」
頭ぼーっとしていたのが急に醒めた。そして一気に冷や汗が・・・
「安心して!そういうんじゃ無いから!!」
慌てる私を女の人は宥めた。
「ふ、ふぅ・・・」
「私はテレサ ディアナ。あなたのお父さんに用事があって来たの」
「ほぎゃっ!?あのバカ父遂に犯罪を!?」
落ち着いたのも束の間。そうか、アイツついに・・・
「おーい、どったのー?」
「ぎゃー!!来ちゃダメー!!」
こんな時に普通にかき氷食いながら出てくるな。
「これは!新月さん!!ご無沙汰しております!!」
サディアって人は父にビシッと敬礼した。
「おー、サディア君じゃん。立派になったなぁ・・・んで、あっしになんか用で?」
「はい、我々が追っていた第三帝国が崩壊したと聞きました。そのおかげか、今国連やら様々な国際機関はてんやわんやの状態です」
あ、やっぱりテレビでは特に何もやってないけど、相当な問題になってるんだ。
「すみません!すみません!私たちなんかが勝手にやってすみません!!」
「大丈夫よミツキちゃん。そこに関してはとても感謝してるの。けど、彼らが崩壊したお陰である問題が浮き彫りになった」
テレサさんは一気に重たい表情を浮かべた。
「そう。この事実は我々も、そして大統領すら知らされていなかった、不都合な真実と言うやつです」
続けてサディアさんが語る。
「まさか・・・」
父は何かを察したようにインターポールの2人と同じく酷く思い詰めた表情を浮かべた。
「そのまさかです、あなたがかつて示した理論。それが今現実になろうとしている。皮肉な事にあなたの理論に対して動いていたのは捧げられし者たちの中に入り込んでいた第三帝国だけでした・・・そこでです、我々が来た目的をお伝えします。輝夜 新月さん、あなたに新たな国連組織の事務総長になってもらいたい」
っ!?今・・・なんて言った?これって、あの時の?
「あっしがっすか!?」
「はい、第三帝国がひた隠しにしていたこの事実が浮き彫りになり、今国連は大慌てなのです。事態は今すぐにでも対策を打たなければならない状況に陥っています。そこで、」
「ダメ!!」
思わず私は叫んでいた。
「うおっ!?びっくりしたぁ・・・なんだミツキ、心配してくれたのかぁ?珍しい。けど大丈夫だ、コイツらはチャールズとかと違ってちゃーんと信用できる人間だぁ。あっしが保証しますぜ?なんてったってサディアは誰もが怯える拷問官でよ」
「尚更ダメじゃん!?って、そういうんじゃないの。すみませんが、一つ聞いて良いですか?」
私はインターポールの2人に質問をする。
「なんだい?」
「その国連組織の名前・・・世界環境機関、じゃないですか?」
「え、何故君が既にその名前を・・・三上君らから聞かされたのか?」
サディアさんが驚いた顔で私を見た。
「いえ・・・夢で見たんです」
「夢?おいおい、そりゃまたなんつーかふわっとしてんなぁ」
「ちょーっとお父さん黙って。話止めないで」
「あ、はい」
父は黙った。
「その夢を見たのは1学期の始まる前。まだ三上君や、ネーちゃんとも知り合う前の日。私が目を覚ましてこのリビングまで降りるとテレビの向こう側に父がいました。普段のこのちゃらんぽらんとは違う、ビシッとしたスーツ姿。私は弟に一体なんなのかと聞いたんです。そしたら弟は呆れた顔で父が新たな事務局長に就任すると言ってたんですよ。その時の機関の名前が世界環境機関・・・」
「成る程・・・正夢、いや予知夢というやつか。それで、その後はどうなったか覚えているのかい?恐らく、今必死で止めたのはそこが理由なんだよね?」
流石に鋭いなこの人たちは。
「そうです。その夢の続き、父はこれまでに無い程怯えてというか、恐怖を押し殺すように持論を述べ始めました。一言一句は覚えてないですけど、父は、これからの運命を分かってるかのように語り続けました。人類は来てはならない領域に踏み込んだとかと言ってましたね確か・・・それで、そうだ。最後に言っていた言葉・・・彼が来る・・・我々人類の罪を裁きに、怒りと悲しみを胸に・・・全てを終わらせに彼は来る・・・この世界を終わらせる彼の名は・・・坂上 桜蘭」
「・・・予知夢にしては、少し異常だな」
サディアさんは顎に手を置いて考えた。
「確かに・・・その夢を見たのって坂上 桜蘭と出会う前って言ってたわよね?」
テレサさんが私に聞き返した。
「はい。出会ったのはその夢を見た日です」
「予測できるとすれば・・・警告か、罠か。ミツキさんの知り合いにいるリリア アンダーソンは夢に干渉する能力を持っていると聞いた。それ以外にも予知能力を持った存在というのはこの世界には案外いる。ここは一旦慎重に考えるべきかもしれないな」
サディアさんは父に向かって提案した。けど父は、
「いや、受託するよ」
即答だった。
「なんでお父さん!?確かに夢だけど、これは明らかに変でしょ!?」
「あぁ、分かってる。けどもう時間が無いんだろ?第三帝国さんも、それ分かってたからこんな無茶してまで早急に異世界技術を求めたんた。ミツキ、さっきサディアが言っていたあっしがかつて提唱した理論ってのはな、名付けて『あっしらの近未来超激ヤバ論』ってよ」
「ダッサ!!もうちょいマシなネーミング無いの!?」
私は思わずツッコミを入れた。
「あーはいはい、話し止めるから黙ってねー」
「ぐっ・・・」
同じ言葉で返された。
「これでも真面目な話なんだ。あっしが大学時代に世界各地巡ってたのは知ってるよな?そん時にちょいと世界の気候変動なんかも調べてたわけよ。それであっしが提唱したのは、このままいけば30年足らずでこの星は、人間が住む事が不可能になるってな。ここ最近の地球温暖化はガチで実感してるだろ?これまでは気温上昇の振れ幅は緩やかだったから誰も気にもとめてないがよ、あっしの理論はある特定の期を過ぎるとその振れ幅は一気に跳ね上がる。ある所に行けば年間平均気温50℃とかザラなところがあれば、逆に氷河期を迎えるような所も現れる。これまでの地球の環境が一気に変わり果て、人間も動物もこれまでの環境に耐えられなくなるってんだ」
あ、結構ガチなやつだ・・・けど、そんな事有り得るのか?
「最初は誰もそんな空論なんて気にもしていなかった。どっかの馬鹿が何か言っているとしか思っていなかったんだよ。だが、それを真に受けたのが捧げられし者たちのサクリファイス2、そしてそれを利用していた第三帝国・・・彼女は新月さんの理論を更に探求し結論を出していた。その答えは10年だ・・・この星は10年後を皮切りに一気に気候変動を迎える。地球温暖化もそうだが、太陽フレアの影響による磁場の乱れ、月の引力の変動、様々な要因が重なり、この星は死の星へと向かう。だからこそ第三帝国は早急に異世界技術を手に入れようとした」
サディアさんは淡々と事実を語った。嘘としか思えないけど、どうやら事実みたい。この世界はあと10年でヤバい事になる。
「それを止める手立てはあっしら人間のこれからの生き方にかかってる。そこまでがあっしの提言した内容だ」
これからの人間の生き方・・・
「永零は、もしかして知ってた?だから人類を一度滅ぼして新たな生命に変えようと・・・」
「そうね。彼、いや彼女もそれを分かっていたからあなたが巻き込まれているゲームの期限を1年に指定したんだと思うわ」
こんなタイミングでとんでもない事実を聞かされた・・・三上君も知ってるのかな?あ、これからの人間の生き方・・・
「お父さん、人間たちはどうすれば良いのかってのも結論出したの?」
私は気になって質問した。
「おん、普通に考えりゃまずこの事実を公表して各国が手を取り合えばすぐに済む話だよなぁ?世界中の奴らが今すぐ喧嘩止めてこの事態に専念すりゃすぐに解決出来る」
確かに・・・けど、
「そこが一番簡単なのに不可能なんだ・・・恐らく、その事実を目の前にしても多くの者が手を取り合う事を拒否する。その結果、何も出来ずに我々人類は滅亡へと突き進む事になるだろう」
サディアさんが重たく言い放った。
「うーーん・・・っしゃ!!あっしがなんとかしてやるか!!ちと悩んだがやっぱりその世界環境・・・軍団?団体さん?の事務員やってやるよ!!」
「世界環境機関、事務局長!!」
私は秒で訂正した。
「そうそれ!丁度良くないか?あの三上君も第三帝国さんとやりあってんならもう知ってるだろうし、ガイアの令嬢ちゃんもここにいる。世界を動かせる権力者が今、この町に集結してる状態なんだぜ?この機を逃せばそれこそガチで人類崩壊するだろ?ここはあっしなビシッと就任してだな!」
「けどそれじゃ夢の通りに!!」
「させなきゃ良いじゃんよぉミツキ!夢に見たんなら、夢になかった事をすれば良いじゃねぇか。あんたも第三帝国相手に結構戦って来たんだろ?んだったら、あっしの事守ってくれりゃ良いじゃん。野望は現実に、そんな悪夢は幻にしちまえ!」
言われてみれば・・・要するに私の見た夢が未来なら、止められる可能性もある・・・この父が今、いつになく頼もしく思えた。
「てなると・・・私は桜蘭さんよりも強くならなきゃいけなくなるね」
普通に考えて、今の私があの人に勝てるなんて思えない・・・けど、あの夢を変えるだけなら出来るかもしれない。分かっているのなら・・・利用しない手はない!
「あんたなら出来るって、あっしは信じてるぜ?ミツキ」
「あーあ、私もみんなと漏れずに更に修行しなきゃいけないか・・・」
「なんかあてあんのか?」
「ちょいと、巻き込ませて貰うよ。三日月、明日道場だったよね?」
「ん?うん・・・あ、まさか!?」
「私も剣を学ぶ」
翌日、私は学校に向かった。そして教室に入り、ある男に声をかける。
「ねぇ、霧島君。今日の放課後ちょっと良い?」
「あ?え、ぁあ?あぁ」
なんだ今の変な反応・・・
「じゃぁ、部活終わりに体育館裏来てくれる?」
「・・・あ、あぁ・・・」
なんじゃいキョトンとした顔しやがって・・・ん?
「な、なに?ネーちゃん。と、荻山さんと・・・東郷さんも」
遠くでネーちゃんはニヤニヤ、軽音はニッコニコ、東郷はハンカチ食いしばってる。あ、そういう事・・・
「少し、剣術教えて欲しいの。みんな今修行してるし、私のこの銃も剣になるから、今のうちに覚えておかないといけないと思った」
「あ、あー・・・そういうこと」
ズゴゴォォォッ!!!
後ろで盛大にこけた音がした。
「大変かもしれないけど、良い?」
「いや、俺もやらなきゃいけないと思ってたとこだ。剣道ではなくて、敵を倒す剣術・・・ミツキ、頼むわ」
「分かった」
そして部活が終わり、空も大分暗くなって来た。私は体育館に向かい、キョウ君はそこで待っていた。
「俺は8時からも稽古がある。それまでの1時間だけだ、いいか?」
「それで良い、私のこの銃は便利な事に戦いを学ぶ。武器を通して戦い方が分かってくるの」
「それ、そんなヤバい代物なんだな・・・」
「うん。多分これ、身体が出来上がって無い人が使ったら、ついていけなくて体が壊れるかも・・・基礎的な体作り教えてくれた東郷さんには感謝だよ・・・」
「らら本人聞いたらどういう反応するだろうな?」
「変わらないと思うよ?なんならもっと感謝しても良いのよ的な事言う」
「だな・・・さてと、準備運動は済ませてるな?俺もコイツを使って戦う、気を抜けば怪我じゃ済まないぜ?」
「私の目標は打倒坂上 桜蘭さんだから・・・手加減はしちゃダメだよ」
「アイツか・・・俺アイツ嫌いなんだよな。妙にあんたに馴れ馴れしいし・・・」
「女々しいなぁ・・・」
「うるさい。行くぞ・・・ミツキ!!」
「来い!!ライトニング・ソード!!!」
私とキョウ君の修行が始まった。