sins of the brother
宮ノ下小学校 5年2組教室、時間は朝の8時10分。朝の会が始まろうとしていた。
ガララ。
いつもの時間に教壇側のドアが開く。しかし、いつもと違う事が起きた。
「急ですまんが、黒乃先生はしばらくお休みされるそうだ。なんでも急病らしくてな」
「「「え〜〜〜」」」
やって来たのは学年主任。クラスメイトたちはいきなりの出来事で大ブーイング。
「え、でも今朝いたよな?普通にあの交差点で挨拶運動してたっすけど?」
「俺も見たよー」
「おいらもさね」
三日月が立ち上がり、霧矢と飯綱も続いた。
「なんでも、あの後倒れたとかなんとかって、それで天正第二中のグレイシア先生が運んだとか聞いている。まぁ大した事は無いらしいが、大事をとって入院するとの事だ」
学年主任も詳しい事は知らないらしく、時折困惑しながらも教壇で答える。
「んー?けど、グレイシア先生もなんか体調不良で休むってさー。今兄ちゃんに聞いてみた」
霧矢がスマホをみんなに見せる。
「霧矢お前・・・・・・学校、スマホ持ち込み禁止だろうが」
三日月は静かにツッコミを入れた。
「えー、けど兄ちゃんが俺はすぐにどっか行くから持っとけって」
「「「「一理ある」」」」
クラス一同声を揃えた。それくらいには霧矢の方向音痴はクラスに浸透している。
「それにしても、2人とも体調不良だなんて変ですねぇ。しかも、話が矛盾してますし」
零羅が人差し指を頬に当てながら考え、この話の矛盾点を指摘する。
「また、何かが起こっているのでしょうか?」
零羅に続き、リリアも思考を巡らせる。
「・・・っ、この感じ・・・」
その時、三日月は何かを感じ、一つの答えが浮上した。
「んお?どした?みかつきも体調不良か?」
「いや、そうじゃねぇ・・・先生が戦ってる。こいつは・・・」
三日月は胸にしまっていた懐中時計を取り出す。しかし、その時計にはどういうわけか針が一本も無かった。
「あれー、それじゃ時計見れないよ」
「決戦の準備・・・それを始めたんだ。このタイミングしかなかった。だから先生はいなくなった・・・っ!?」
クラス全員、不思議そうな顔して三日月を見ていた。三日月の話を聞いて察する事が出来たのは飯綱、霧矢、零羅、リリアだけだ。
「あ、すまん先生。なんでもねーから、朝の会始めてください」
「あ、うん」
いつもの朝の会が始まった。どこの小学校でも見た景色がここにはあった。
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放課後
三日月は飯綱たちと一緒に下校していた。
「決戦準備・・・わたくしたちも何か始めた方が良いのでしょうか?」
零羅が今朝の三日月の言葉を思い出した。
「一兆の奴や、先生たちがそうなんだよな。んで、三上も始めた・・・けど、今の俺たちが更に上を目指すとなるとどうすりゃ良いんだろうな?」
三日月は腕を組んで悩む。
「みなさま忙しいようですからね・・・あ、ここはいっそのことみなさん一同で一緒に特訓してみては?」
リリアが最初の提案をした。
「えー、俺零羅に殺されるよー」
「時止めても零羅は無理」
「えっ!酷くないですかぁ!?」
俺と霧矢が反論した。特に零羅は無理、死ぬ。
「んならさ、おいらの父ちゃんと母ちゃんは?父ちゃん強いし、母ちゃんも凄いよぉ?おいらん家からすぐ行けるしさ」
次は飯綱の提案。
「あー、それは有りかもな。今日後で行ってみるか?」
「いや、お前らあの2人をみくびり過ぎだ」
それを渋い声が遮った。
「あ、ヴォイドさん」
「きゃるる!!」
三日月が振り向くとそこにはヴォイド ロドリゲスとキャロットがいた。
「鞍馬に玉藻前、立っている次元が違い過ぎだ。修行するにはレベルが高過ぎる」
「なら、どうすりゃ良いんです?」
「俺たちがお前たちに修行をつける」
突然の提案に三日月たちは固まった。
「俺ならそれぞれのレベルに合わせられる。悪くはないだろ?」
「世界最強の男による修行ね・・・あの、それ逆に怖いんですけど」
三日月は逆に心配になった。
「安心しろ。無茶な真似はしない、短期集中。1日あたり30分程でお前たちを鍛え上げる。三日月君は剣道もあるからな」
「そんなのを1人でですか!?」
「いや、俺1人ではない。その為にキャロットもいる。こいつの重力操作能力は身につけて間もないからな。それの修行も兼ねたい」
「きゃる!!」
キャロットはえっへんとポーズを取った。
「成る程、キャロットさんとは戦った事ないですからね。よろしくお願いします!!」
零羅はキャロットに手を差し伸べた。
「それともう一つ・・・この力の修行もさせたい。セグンド・エスタードマキシマ」
「きゃーるるん!!」
「へぇ!?」
キャロットが零羅の手を取った瞬間、キャロットの姿が変わった。身長は零羅と同じ程に成長し、その姿はほぼ人間と言って良いほどに変化した。
「こ、これは!!」
「セグンド・エスタードマキシマ・・・私のタイプフェアリーエンジェルをベースにこの子も進化したの」
「あ、ルイさん」
そこへルイ マイヴェスも現れた。
「そうだ。そしてキャロットのフィアーズビーストはリリアの技術、それ故その姿は人間、名付けるならそうだな・・・タイプ バニーガールか?」
ヴォイドは少し考えて閃いた。
「なんか官能的な名前になったっすね」
三日月はジト目でツッコミを入れた。
「ともかく、私とヴォイド、そしてキャロットちゃんとあなたたち、このメンバーで修行するわよ」
「「「「いえっさー!」」」」
小学生組は元気に敬礼する。
「いんや、ちょっと1人はおらが貰うぜ?」
その時だ、また更なる声が聞こえた。
「この声!!」
真っ先に反応したのは飯綱だった。それと同時にユルグは姿を現す。
「よっ!元気そうだべなぁ相変わらずよぉ。さてと、ちょいと話が・・・」
「あんたは、おかえりなせぇ!!!あ!く!りょ!う!た!い!さ!ん!!!」
「ほげーっ!!!」
飯綱はユルグが現れた瞬間、何処からか巨大な岩塩を持ち出してユルグに投げつけた。
「べーっ!!このクソへんたいやろー!!おいらに近づくんじゃないよぉ!!ぺっぺっ!!更に塩投げつてやる!!」
更に飯綱は食塩の袋を取り出してぱっぱっと振りまく。
「塩撒くって、力士かあんた」
「みかつき、あいつは悪霊さね。悪霊には塩が最適って礼兄ちゃんの見てたドラマの兄弟が言ってたのさね!!ショットガンに塩詰め込んで撃つのさ!!」
「だからって、岩塩持ってきてたのかよ・・・にしても、あいつはどうなった?」
「おう、無事ー」
一瞬のうちに飯綱の後ろにユルグは回り込んでいた。
「ぎゃーっ!!放せー!!」
「いや掴んでないけど、おらはあんたに話しに来た・・・」
「いやー!!けーさつ呼べー!!」
飯綱は暴れ回る。
「おい飯綱、こいつ別に殺気とか感じないぜ?話くらい・・・」
「みかつき!!コイツってばおいらに子ども産ませようとしたんだよぉ!?こーいつなんかの子ども産むくらいならまだみかつきの方が良いよぉ!!」
「ちょっ!?おま、何言って!!」
勢い任せだろうが、飯綱の発言には三日月は顔真っ赤にした。
「だーから聞けって!!おらはもうそんなつもりないって!!」
「信用出来るかぁ!!最初は母ちゃん!その次はおいら!嘘ばっかのあんたはキツネじゃなくてオオカミさ!!だから言う事なんか聞かないよーだ!!」
飯綱は相当トラウマになっているようで耳を傾ける気すらないようだ。
「なー、三日月ー。子どもってどう作るのー?」
その時霧矢が三日月に質問した。
「あ、わたくしも知らないんですよぅ。昔、桜蘭さんに聞いた事ありますけど、その時もはぐらかされました・・・どうなんでしょうか?三日月さん、何かご存知ですか?」
そして零羅も純粋な瞳で三日月を見つめる。
「え、いや・・・い、一応多分、保健体育の教科書に載ってたと思うぜ・・・最後の方のページだったと思う。あれ、あれはバカ姉の教科書に書いてあったんだっけ・・・あれ?」
三日月は知る者の1人ではあるが、答えをどう出すべきか迷った。
「男の人の◯◯◯を女の人の◯◯◯に◯◯して、◯◯すると赤ちゃんが出来ますよ。わたくしが昔奴隷だった頃、わたくしを買った主人に産まされましたから」
リリアが突然爆弾発言をした。場の空気が一瞬でお通夜ムードに変わる。
「・・・り、リリアごめんな?おいら知らなくて・・・」
今の今まで大げんかしていた飯綱も止まった。
「謝る事ないですよ、事実ですから。それより、お兄様のお話聞いてみては?」
「お、おん・・・」
「ありがとなぁリリアちゃん。恩に着るべ、にしても・・・あんたが奴隷時代の時の年齢ってよぉ、いくつで産んだんだべ?」
「◯際の時ですね、無理やり身体を弄られて産まされました。流石にあの時は死ぬかと思いましたけど、死にたくない一心で生きてたので頑張って産みました」
リリアは割と淡々と通常なら思い出したくなくなるような出来事を語る。
「あの、マジでごめんなさい・・・聞いちゃいけない事聞きました・・・」
流石のユルグも標準語になって謝罪した。
「いえいえ、今元気で生きているだけで十分です。産んだ子も孤児院に預けられて元気に育ってるそうですので」
リリアは普段通りの笑顔を浮かべた。
「さてと、飯綱・・・あんたの修行はおらが付ける」
脱線した話が戻ってきた。
「修行つったってよぅ、おいら何すりゃ良いのさ」
「んだな〜、まずは完全体からだべな。おんめぇ今、完全に人間に化けるの無理やろ?それが出来ると出来んとじゃ、ぜーんぜん違うんべ」
ユルグは飯綱の帽子をひょいと取り上げた。
「あ!何すんだよぉ!」
「7割か・・・こりゃ三上同様1週間近くかかんべなぁ。いいか飯綱?おんめぇの本来の力はおらを超える程のポテンシャル持ってんだ。それを全て引き出させやる。けんどなぁ、正直あんたにとっちゃ相当辛ぇぞ?選ぶのはあんた次第、このままこいつらと修行してもええけど、それじゃ人間の限界までが限度だべ。神は神の元で修行しねぇとな・・・いや、おらは神じゃねっか!」
ユルグはケラケラと笑った。
「なんであんた、そんな悲しい顔してんの?」
しかし、その笑いの中に妙な悲しみを飯綱は見つけた。
「悲しい?なんで?」
「昔の礼兄ちゃんみたい。何か抱え込んでるとそんな風に笑ってたよぉ?」
「あ〜・・・抱え込むねぇ。あんたの目もだいぶ肥えて来たべなぁ。けんど、あんたはおらの心配なんざしてる余裕はねぇべ?おらが聞きてぇんは飯綱、あんたが強くなりたいかどうかだ。俺と修行するのが嫌なら俺は帰る・・・それだけだ。こっから先質問はなし。お前は、強くなりたいか?」
稲荷はこれまでに無いほどの威圧感を飯綱に放つ。
「・・・分かったさね。なあみかつき、おいらこの兄と行くよ。んで、みんな守れるくらい強くなって戻ってくるさね。どれだけ辛くてもよぅ、力足りなくて礼兄ちゃんの足引っ張るのはまっぴらごめんなんだ。だから待っててよ!!」
飯綱は即決だった。例え鳥肌が立つ程稲荷が嫌いでも、飯綱は三上の役に立つ為ならなんでもすると誓った。
「あぁ、俺たちももっと強くなって迎えてやるよ。じゃ、気をつけてな!」
「またねー!!」
三日月たちと飯綱はそれぞれ別れ、修行の道へ進んだ。




