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私のお見舞い

 「なんだよこのおっさん」


 弟がこのチャールズに対して喧嘩腰に構えた。


 「君のお父さんとちょっとした知り合いって所かな?スイスで散々これ以上我々の行動に口を出すなと言っておいたんだが、どうやらあなたは相当な運が良いらしい」


 あ、そう言えば父が言ってた国連に目をつけられたって・・・冗談だと思ってたのに、本当なのかよ。


 「お前らが教えねぇからだろうがよ。今世界が置かれてる状況をよ!」


 「確かに、今この世界は存亡の危機に瀕している、そこは認めよう。しかしだ、我々の計画、プロジェクト・マキシマは全てを救済するのだ。輝夜 新月、君の活動は全て無駄なのだよ」


 話が見えてこないけど、父が環境活動的な事をしてたのは本当っぽいな。


 「それより、まずは第一段階クリアおめでとうと言っておこう。これでようやくゲーム開始と言える状況になった訳だ」


 チャールズは今度、三上君に話しかけた。ゲーム?


 「だね、ようやく君をこの舞台に引きずり降ろせた。けど不思議だな、どうしてミツキさんは知る必要が無いの?彼女が目撃者なら、彼女は知る権利があるはずだよ」


 「理由は単純、輝夜 ミツキ自身が拒んでいるからだ。今の彼女が何を知ろうとも何も変わらない。見たところで理解が出来ないのだ」


 「・・・成る程、一理あるか」


 三上君は何故か納得したように見せた。見たところで理解できない?いや、見なきゃ何も理解できないだろ。


 「なんで?」


 私は声に出していた。


 「私は巻き込まれた。なのに、なんで私はまだ知っちゃダメなの?理解できないからって、それは子供扱いって事?」


 「僕から言えるのは、僕自身では計りきれないからだ。君が何で巻き込まれたのか分からない、何で君が桜蘭君を知ってるのか、何で彼が君の前に現れたのか・・・ごめんね、僕も探り探りなんだ。目撃者とは全てを見てきた者の事。


 失礼な話だけど、僕には君がそんな存在には見えない、普通の子だ・・・それに、もし君が本当に目撃者となり得るのなら、桜蘭君が君の前に現れる筈。そうでしょ?チャールズさん」


 「ご名答、時が来れば自ずとわかる事だ。さて三上君、君のおかげでこの世界へ悪魔及びビーストの呼び出しに成功した。まずはお礼を言おうか」


 チャールズは私を無視して三上君に話を向けた。


 「お礼なんてとんでも無いよ。君のおかげと僕のせいで今、戦争の火蓋が切られたんだ・・・」


 「戦争?違うな、永零は言った筈だ。これはゲームだとね。終われば全てが元に戻ると」


 ゲーム?その話、何処かで聞いたような・・・


 「だね。けど、僕が勝てば多くの命がこの世界から消えるんでしょ?それを戦争と呼ばないでなんて言うんだろうね?」


 「だが我々が勝てばあらゆる命は救われる。故にゲームだ。どうした三上君、この世界の現状を知り、もう降参する気になったのかね?」


 「まさか、僕は諦めないって決めたんだからね・・・やってみせるさ」


 三上君はチャールズを睨みつけた。


 「良いだろう、ならば・・・T()H()E() ()L()A()S()T() ()G()A()M()E()を、ここに開始する!!」


 チャールズはそう宣言し、姿を消した。


 ・


 ・


 ・


 「いなくなった・・・」


 しばらくの沈黙の後、私は口を開いた。それに続いて三上君も口を開く。


 「ミツキさん、君はまだ知りたい?ただ知るだけなら僕でも教える事は出来るけど」


 私は知るべきなのだろうか、分からない。知った所で私に何が出来る?あの戦いを見ただろ。まるで私が妄想してたストーリーのような世界だ。本当に世界がどうのこうのだと言うのなら、私では荷が重すぎる。


 「・・・知らない方が良いのかもしれない。それに、さっきの奴が言ってた、多分聞いた所で理解出来ない。それと、本当に知る時は桜蘭さんが教える。そう言う事なんでしょ?なら、私はただ見ることしか出来ない」


 「そうか・・・みんなも同意見なのかな?」


 三上君はみんなにも聞いた。


 「うーん、だからと言ってこの光景を見たからには、何も知らないは通用しないネ。それに、軽音ちゃん大怪我しちゃったんダヨ?確かに私たちが首を突っ込むにはちょっと事がヤバ過ぎるヨ・・・だから私たちが何もしないのなら、三上君はワタシたちを守る義務がある筈ネ。違う?」


 ネーちゃんが三上君に問いただした。


 「全くもってその通りだよ、そもそも僕はあんな犠牲を出させない為にここまで来たんだ・・・巻き込んだからには必ず守る。綺麗事に聞こえるかもしれないけど、それが出来ない時が僕の負けだ・・・到達してやる、そして証明してみせる」


 「・・・なぁ、確かにあんためっちゃ強いけどさ、流石に1人で何とかなるとは思って無ぇよな?仲間とかいんの?」


 相変わらずタメ口な弟が三上君に聞く。


 「仲間はいる。君の所に来た転入生、神和住 零羅、三上 飯綱も僕の仲間だ」


 「え、あいつらもそうなのかよ」


 「うん、そして僕たちの目的はただ一つ、この世界を守る事・・・彼らは全てをリセットするつもりなんだ。全てが死に、全てが進化する・・・それが彼らの目的だ」


 この世界を守る事、それが三上君の目的?


 「ん?おいおい三上君よ、なんかさっき知る必要は無いとか言ってなかったか?あっさりと話したけどよ・・・」


 父は三上君に尋ねた。けど、私には意味が分かった。重要なのはそこじゃ無い。多分、三上君の目的は昔から何も変わって無いんだ。三上君を最初見た時に思った、ただひたすらに真っ直ぐ前を見てるって。


 「重要なのはそこじゃないよ新月さん。僕たちの目的は今も昔も変わらない、ずっと同じ事の繰り返しなんだ。僕はただ単にこの世界を守りたい。相手はただ単にこの世界を変えてしまいたい。僕らはその中間になる答えを求めてずっと戦ってる。何世代、何百年と・・・いや、始まりはもっと前だろうね。人間の歴史は戦いの歴史、僕らはその延長戦にいるだけなんだ、ただの意見の対立がこの世界を創ってる。


 だからこそ、これまでの戦いの全てを1人の女の子に全てを背負わせる事は、僕には出来ない」


 答えは案外単純なものだ。三上君の目的はただ世界を守る事。いや、三上君は多分そんな大層な人間じゃない。ごく普通の、ただ単に今暮らす事が好きな人なんだ。


 言うなれば自由主義、ありのままの世界を生きようとしてる。その中で争いが起きても仕方ない、そう言う生き方だ。


 一方で相手は徹底的な平和主義、この世界から全ての争いを根絶しようとしてる。そして世界を完全に管理しようとしてる。


 どっちも間違いじゃ無いけど、どっちも間違ってる・・・何処かで誰かが犠牲になる。軽音は、ただそれに巻き込まれただけなんだろう・・・


 「・・・三上君、荻山 軽音は今どこにいるの?」


 私は三上君に尋ねた。これだけは知っておかないとダメだと思ったんだ。


 「無論病院、お見舞いに行くの?」


 私は頷いた。


 「彼女のせいで君は人生壊されかけたってのに、飛んだお人好しだね・・・と言うわけだ、とりあえず今日はこれで解散にしようか。あ、あのバケモノたちの事なら心配ないよ。奴らが姿をこの世界に呼ぶ事が出来るのは、ここの時間、場所、状態。その全てが一致しないと来る事は出来ないんだ、それらが揃うのはそれこそ天文学的数字になってくる。今後しばらくは問題ない筈だよ。ならミツキさん、ついて来て。案内するから」


 私は三上君に連れられて軽音のいる病院に向かう事にした。あの時、みんな何を思ったのか私には分からない。けど、みんな黙って私たちを見送った。1人を除いては・・・


 「あ!チョイ!!私も行くネ!!」


 ネーちゃんが少し間を置いて付いて来た。まぁ、同じクラスだしな。


 ・


 ・


 ・

 

 道中


 「・・・ヌーッッッ!!なんかこう!色々言いたい事あっけどネ!!とりあえずこれだけ言わせてヨ!ミッちゃん!!なんでもっと早くイジメの事相談してくれなかったネ!?」


 ネーちゃんが痺れを切らして口を開いたら、この事だった。


 「ごめん・・・迷惑かけると、思ってて・・・」


 「アイヤーイッ!!霧島君ならまだしもヨ!?普通に軽音ちゃんと仲良いように見えてたのにサ!!」


 ネーちゃんにとって私と軽音が仲良い風に見えてたの?何処が?


 「イジメなんて、最初は軽い悪ふざけな場合がほとんどだよチャンさん」


 三上君が答えた。軽い悪ふざけ・・・確かにそうかもしれない。東郷なんてモロにそれだ、遊び感覚で私を弄ってる。罪悪感なんてこれっぽっちも感じてない。


 「けどサ・・・私、軽音ちゃんとっても良い子だと思ってたから、なんか、こう、ムカムカするネ・・・」


 ネーちゃんが拳を握って胸に手を当ててる。


 「確かに彼女のいじめは少々行き過ぎたのかもしれないね、彼女のせいで多くの人が傷ついたのは事実だ。多くの人を傷つけ、そしてその報いを受けた。今日起きたのはそれだけなんだ・・・けど、たかが自己満足の為にそんな事までするかなって、僕は思う」


 「どう言う事?」

  

 私は聞き返した。


 「彼女はそうせざるを得ない状況にあったって事だよ。ほら、この病院だよ」


 市の総合病院、軽音はそこの個室にいた。


 そしてそこには、


 「あ゛っ!!?なんであんたがここにいんのよ!!」

 「うわマジだ!!」


 東郷ららと新庄 巧。それと、


 「ちっ・・・」


 霧島 京也・・・こいつらも見舞いに来てたのか。


 「おいごら!ここはオメーみてーなやつが来て良い所じゃねーよ!どうせ笑いに来たんだろ!?」


 「わ、私は・・・」


 新庄が圧をかけて来た。


 「や、やめてよ巧君!」


 今、止めたのは誰だ?


 「お、おぅ?」


 「ごめんねミツキちゃん、巧君、今気が動転してるみたいだから、許してあげて?それからありがとう、ミツキちゃんが救急車呼んでくれたんでしょ?」


 荻山 軽音?え、本当にこのおっとりした奴があいつなのか?


 「言ったでしょ、別の記憶が存在してるって・・・」


 三上君が小声で私に話しかけた。


 「け、怪我は・・・大丈夫・・・なの?」


 「応急手当てしてくれた三上君のおかげで、もう痛いとかはそんなに無いんだ。けど、それでも私の腕と足・・・切り落とすしか無かったんだって」


 軽音は布団を剥いで包帯まみれの体を見せた。あの時見た時と同じだ、右腕と左脚が無くなってる。


 「・・・もう、治らないの?」


 「心配してくれてありがとうミツキちゃん、元々私左利きで、そんなに不便じゃないから、そんな顔しないで?」


 まるで別人だ・・・私の知ってる荻山 軽音じゃない。あの何を考えてるのか分からないあの空気が、こいつからは感じない。純粋に私へ感謝の言葉を送ってる、そう言うふうにしか見えない。


 「これで罰は執行された・・・」


 私は記憶を掘り起こした。そしてあのピエロが言っていた事を思い出した。罰は執行された、された後はどうなる?もし、今私が妄想したのが事実なら・・・私の知ってる荻山 軽音は、もういない・・・罪は洗い流されたから・・・


 「それが、桜蘭君の目的なのかもね・・・この世の全ての罪を裁く。彼はそう言っていた・・・」


 三上君はまた私の心の中の声を覗いたかのように答えた。


 「三上、俺たちはそろそろ帰る」

 

 霧島が三上君に伝えてカバンを背負った。


 「うん、今日はありがとうね。巧くんも、ららちゃんも」


 「また明日も来るからな!」

 「私も!!」


 また来るか、新庄の奴少し見直したな・・・こいつらに思いやりって心はあったのか・・・だったら尚更わからない、こいつらにとって私はそれ以下の存在だって事なのか?


 「ふん・・・」


 霧島が私を流し目で見て行った。


 「霧島君・・・何で私の事をそんなに恨んでるの?」


 原因はこいつだ。こいつが私を目の敵のようにして見るから、それが伝染してる。


 「理由なんかいるかよ・・・俺は、昔からお前が嫌いだ。目に映るだけでイライラする・・・それだけだ」


 霧島は少し強めにドアを閉めた。


 「あっ!ちょっと!!京也くーん!!」

 「霧島〜」


 2人は霧島の後を追っていった。


 「ふふ、大丈夫だよミツキちゃん。霧島君は照れ隠ししてるだけだよきっと・・・」


 あのおっとり軽音も少し自信なさげだな・・・


 「・・・成る程ね」

 ーーーガラッ!!!


 今度はさっき以上の勢いでドアが開いた。あのドアって挟み防止機能的なの付いてる筈だよな、壊れんばかりの勢いで開いた。


 「あ、先生」

 「先生ネ・・・」


 「あ、君たち来てたの・・・」


 グレイシア先生だ、手にはノートやらプリント類を一杯持ってる。


 「グレイシア先生、それは?」


 私は聞いてみた。


 「今日の授業の内容、教えに来たから・・・」


 まさか、今から今日の分の授業やるつもりなのか?ここで?

  

 「え、今からですか?」


 「そう、今から。夏休み明けには退院出来るって聞いたから、遅れないようにこれから毎日教えておこうと思った。ダメだった?」


 「いえ、私は良いんですけど・・・グレイシア先生は大丈夫なんですか?」

 

 「??? 私は元気だから」


 この先生、確かに部活の顧問とかは受け持ってないって聞いたけど、それでも生徒1人に対してどれだけやるつもりだ?


 「なら、僕たちは先に帰った方が良いね。先生も、あまり遅くならないようにして下さいよ?」


 急に母さんみたいなこと言うな三上君。

 

 「分かったレイ、七時には帰るから・・・あ」

 

 そして三上君が急に焦った顔でしーっ!!ってやってた。まさか、この人もなのか・・・てか、呼び捨て?この2人どう言う関係?


 「じ、じゃぁ帰ろうか!!またね荻山さん!!」


 「う、うん?あ、ありがとね?」


 軽音も少し困惑してたな・・・私たちは病室を出た。


 そして、帰る道中・・・


 「あのサ、さっきからワタシ余計なことばっか聞いてるかもだけどヨ?聞いても良いネ?三上君と先生って・・・どう言うご関係デ?」


 ネーちゃんはやっぱり気になって聞いた。


 「うん・・・と。何と言うか、その、訳あって同じ家で暮らしてるんだ・・・ちょっとした家族みたいな感じでね?恥ずかしいと言うか、クラスで注目されかねないから、あまり言わないようにしてたんだけど・・・」


 「って事は・・・あの超美人教師と一つ屋根の下暮らしネッ!?それとあの妹ちゃんも!!それから、まさか!!キャロラインちゃんもネ!?アイヤー!!思春期には刺激強過ぎネ!!」


 ネーちゃんが顔真っ赤にして興奮してる。成る程、家はあの幽霊屋敷、あの家で毎日拝んでるのか、羨ましい・・・


 「二人とも?なんか夢見心地なとこ悪いけど、そう言うんじゃないからね?と言うか、キャロラインさんは普通にガイアの邸宅に住んでるよ?」


 成る程、確かに噂されたら三上君は動きにくいな。だから黙ってたのか・・・こうして私は家に帰った。

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