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敵同士の探り合い

 輝夜 ミツキが学園祭の準備に勤しむその時の事。


 「どうみかみん?チャンさんの潔白の証拠は集まりそう?」


 「うん、ミツキさんがあちこち動いてるお陰かな?今まで集めた情報の時点で彼女自身はシロの筈だ。ただ、どうにも引っかかる所があって・・・」


 「引っかかるとこ?」


 校舎裏、三上とシャルロットが密談している。三上はネーチャンに対してある疑問を抱えていた。


 「第三帝国・・・奴らは思いの外巨大な組織だ。アウロ以上とは思ってもみなかったよ。それでチャンさんは本人すら気が付かずにそいつらに性格と感情を利用された・・・って考えててね」


 「だろうね。それであの時に誰かが裏で三日月君を狙った・・・そう言う事じゃないの?」


 シャルロットは腕を組んで顎に手を置いて考えた。


 「その筈だと僕も考えてる。けどもしも、もしも第三帝国は僕らの思う遥か上の技術力を持っていたとしたら・・・チャンさんの性格も感情も、第三帝国の掌にあるのだとしたら?」


 三上はチラッと顔を上げる。


 「まさか、チャンさんが操られてるとでも言いたいの?それはちょっと疑うにも程があるんじゃない?人間を完全コントロールなんて、さくらっちじゃあるまいし」


 それに対してシャルロットは半ば苦笑いで反論した。


 「僕もそう思うよ。けど、どうにも違和感あるんだ。彼女がミツキさんと出会うタイミングもなんか変だし、そもそもなんで2年に上がるタイミングでキャラ変えなんて事をしたのか。普通生きててわざとキャラ作りしますなんて、そんな事しないでしょ?」


 「うーん、あのクラスは変わった子が多いとか?ほら、軽音ちゃんも大概だし?ららちゃんもサバゲー好きってかなり変わってる部類だとは思うよ?」


 「東郷さんは別に一途なだけだと思うよ。荻山さんに関しては、僕らがここに来てからあの性格が発覚した。それまでは普通でいる事がこの学校でのモットーみたいだったからね」


 「チャンさんだけがみかみんが来る前にキャラがおかしくなった?うーん、やっぱり考え過ぎでしょ・・・みかみん、ほんとはもっと何か確信に近いものがあるんじゃないの?円卓会議は嘘禁止だよ?」


 シャルロットの質問に三上は口をしばらく閉じた。


 「チャンさんはもしかしたら・・・」





 「もし、それが本当だとしたら・・・ミツキちゃんにも言うの?それは、流石に・・・」


 「円卓会議は嘘禁止だよ、だから言わないとね・・・でも、それは何もしなかったらの話だ・・・そこで、次の会議前に僕の全てを懸けて見つけ出す」


 「誰を?」


 「第三帝国指導者・・・見つけ次第殺害しなきゃね」


 「期限は?」


 「次の円卓会議。つまり、文化祭が終わる前に。それが僕らにとって完全なる勝利なる。明日のROD全体会議ではこれらの事は伝えるつもりだ」


 「まーた無理難題を考えもんだ。けどおっけ!ミツキちゃんには青春を謳歌して貰うよ!」


 「うん、今回は相手が相手だ・・・僕も出るよ」


 「みかみんだって文化祭華型でしょ?まーた無茶しないでよ?」

  

 「わかってるよ」


 「因みに女装?」

 「男装!!ん?あれ?男子が男装?あれ?」


 「ほほほ!いい加減認めちゃえば良いのに」


 「やーだ!」


 ・

 

 ・


 ・


 翌日、RODの定例会議


 「っと、いうわけで・・・ミツキさんの為にも当面の目標は永零ではなく、第三帝国指導者討伐を最優先として扱う。みんなその為に協力して欲しい。既に道山会やガイアも動いてる。


 そこで次の議題だけど、とりあえず現在集めた情報をここで整理したい。まずはヴォイドさんからお願い」


 ヴォイドが前に出た。


 「チャンの件だが少し奴の過去を調べた。出身は中国、仕事の都合で小学校5年の時に来日している。そこで両親の仕事だが、捧げられし者たちと関係のある企業ではあった・・・だが捧げられし者たちと関係のある企業はこの世界は何千とある。そして両親の役職から考察しても、捧げられし者たちはおろか、アウロ等とも関係があるとは思えない。俺からは以上だ」


 ヴォイドは後ろへ下がった。


 「そう、両親が関係している線も薄いか・・・麗沢君たちはどんな感じ?」


 「拙者から言える最も近い可能性は、先程名が上がった捧げられし者たちの1人、アレクシア殿でござる。この者のステルス性能はこのROD総力をかけても以前見つからぬ存在。その者なら人知れず三日月殿に接触出来たのではあるまいか?と考察した次第でござる」


 「こっちもまた憶測かぁ。けど、可能性としては大いにあるね。うーん、純恋先生は何か思い当たる節ってあります?先生は三日月君に力を与えた大元の存在、セカンダビリティ時間支配は他者に移っても、その力を感じると言った事は出来るんですか?」


 三上は柱にもたれかかっていた黒乃に問いかけた。


 「三上君、神様の規定・・・人間に対する援助としての神の力の使用は出来ないって前に言ったわよね?」


 「はい、けどものは捉え方。僕が聞いたのはあなた自身の事です。神に助けを求めた訳じゃない。あなたが出来る事を聞いたまでですから」


 「ふふ、相変わらずね。答えはイエス。三日月君が私の力をどのように使われたのかは手に取るように分かるわ。前回の時戻しは驚かされたわ。けど、それ以外にこれと言った能力の揺らぎは感じた事ないわね。京都の一件でも能力の揺らぎは感じなかったわ」


 「んー、もしかしから、クラークが私たちを撹乱する為に適当言った。なんて考えられない?」


 リザヴェノフがすっと立ち上がって発言した。


 「だとしても、あんなタイミングで言うかなぁ・・・」


 「そもそも、本当に狙われてたのぉ?」


 「・・・っ!!?」


 がだんっ!!!


 リザヴェノフのぼやきに三上は突然机を叩いて立ち上がった。


 「狙ったのは・・・命?」


 そして三上はとある可能性を呟いた。


 「え?それだと霧矢君も命を狙われてたって事にならない?敵の目的はセカンダビリティだったんでしょ?」


 シャルロットが口を挟んだ。


 「そう。だけどもし、それ以外は要らないのだとしたらどうなる?ニヒルさんの過去を調べた際に、捧げられし者たちは一度ニヒルさんたちの抹殺を図った、能力を恐れたからだ。セカンダビリティはコントロール不可能な力。だから因果律支配を彼らのコントロール下に置く為に霧矢君を襲った。クラークに指示されていた本来の指令はもしかしたら、厄介な時間支配を持つ者を殺せ。だったんじゃないかな?」


 「じゃあ失敗したって言うのは?」


 「第四勢力、僕の仲間でもなければ永零の味方でも捧げられし者たちでもない者の介入・・・」


 「え〜・・・まだそんなのがいるのぉ〜?」


 シャルロットは机に突っ伏した。


 「いや、多分僕らに近い筈。全く関係ない組織とは思えない。むしろ個人だ。三日月君自身を殺させる訳にはいかないと考える人物・・・考えられるのは、ユルグか」

 

 ユルグ、飯綱の兄で本名は稲荷。三上は彼の名を口にした。


 「ユルグかぁ、確かにあいつは何考えてるのかマジで分からねぇもんな。カラスちゃん同様あの戦い以降全く姿を現してねぇしよ。ミカミ、あんたあいつの目的知ってんの?」


 レオナルドが腕を組みながら眉間に皺を寄せて呟く。


 「目的は知らないよ。けどフォックスから聞く限り狙いはフォックスだ。ユルグはあの子に自身の子を孕ませる事を目的に行動してる。それがこの件と何を意味するのかは分からないけどね」


 「あいつシスコンなのかよ、ぽってりお腹が癖に刺さってんのか?因みに俺は大好き」


 レオナルドが性癖を更に暴露した。


 「レオナルド、その話は置いておいて、今は会議だから」


 「へいへーい、んならもっこだけ質問するぜミカミ、あんたほんとは、誰が三日月を襲ったのかそろそろ予測出来たんじゃねぇか?」


 レオナルドはニヤリと笑い、机に手を置いた。


 「流石、エージェント隊期待の新星だ。ただその狙った奴はユルグに既に殺されているだろうという事だ。襲ったのはおそらく、 捧げられし者たちの一人にして、キーセブン候補、中国軍参謀、黒星(ヘイシン)。チャンさんの両親の企業に近い男だ。まずこいつを洗い出す・・・」


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


 だっだっだっ!!!


 コツン、コツン・・・


 慌てて走る音と、ゆっくりと歩くヒールの音が日本のとある路地で響いていた。


 追われているのはアジア系の男、黒髪おかっぱ頭のスーツ姿をしている。服は切り刻まれあちこち焦げたような穴が空いている。


 一方歩いて追いかけるのは長い金髪と縁の大きなメガネが特徴の女性だ。手には刀を持って男をゆっくり追っていた。


 「やれやれ、何故逃げるです?黒星・・・」


 「アレクシア!!私を裏切る気か!?貴様は我々捧げられし者たちが作ったのだぞ!?私を助けるのが貴様の役目だろう!!それなのに!なぜ!?」


 黒星は命乞いをするが、アレクシアは何食わぬ顔で刀を構えた。


 「いや、私の役割は世界監視装置サクリファイス2。この世界を監視し、不必要な要素の排除を行う存在。私はお前を不要と判断しただけだ」


 「何だと!?我々に敵対するプログラムはない筈だ!!」


 「あぁ、捧げられし者たちへの裏切り行為は私には出来ない。しかし、貴様が裏切ったのだから話は別だ。あの姉弟の抹殺命令を貴様は受けていない。にも関わらず貴様は勝手に輝夜 三日月に接触しようとした。あの女を利用して時間支配を奪うつもりだったんだろう?」


 「っ!?」


 黒星はバレる筈の無いと思っていた策を読まれて驚愕した。


 「私のシステムを遮断していたようだが、AIとは進化する知能だ。掻い潜る方法は思考すればいくらでも出てくる。人間のちっぽけな脳とは訳が違うからな・・・そして貴様はその時ユルグに襲われた・・・運の悪い奴ですね。奴はああ見えても神の使い。穢れと自ら呼称してはいるが、本質は神を守る存在だ。その神の力を持つ者を狙ったんだ、当然の報いだろう。


 とは言え、なかなかしぶとく生き残ったみたいですね。私はそんなお前を始末する為に来た訳だが、まさか二週間近く逃げられるとは思わなかったですよ。だがその鬼ごっこももう終わりだ。裏切り者が」


 「・・・私は裏切ってなどいない!!時間支配はこの先必要不可欠な力だ!!貴様ら!それを捨て去ると言うのか!?」


 黒星は必死に弁明した。その必死な訴えの前にアレクシアは心底冷めた目つきで黒星を見下した。


 「やれやれ、やはり裏切り者だな・・・永零と捧げられし者たちの間に定められた協定を忘れたか?セカンダビリティの排除、互いにその部分で利害が一致した。我々がやるべき事はセカンダビリティの排除であって手に入れる事ではない」


 「なに!?そんな話は聞いていないぞ!?」


 「あぁ、お前には話して無かったな。そもそも話す必要あるのか?第三帝国の密偵風情に・・・この戦いは貴様らのような過去の遺物がしゃしゃって良い戦いではない。永零と三上、互いの創造する世界を懸けた最後の聖戦。貴様は指でもしゃぶってあの世から見てろ。大人しくしていれば生き返る」


 「くそ!!永零め!最初から私を利用していたか!!」


 黒星は間合いを取ってハンドガンを取り出し構えた。


 「利用してきたのは貴様だろ、永零はあえてのさばらせただけだ。そろそろ立ち話も良いだろう、殺してやるからそこに立て」


 「ふざけるなぁぁっ!!」


 ズガンッ!!ズガンッ!!ズガンッ!!


 黒星は銃を放つ。だが、アレクシアの刀は全てを弾いた。


 「こんなのが効くか?」


 「効くんだなそれが、今撃った弾は特殊な電磁波を出す。サクリファイス、貴様の機能を停止させる為だけの弾丸だ」


 がくっ!!


 途端にアレクシアは膝から崩れ落ちた。


 「勿体無いが・・・貴様は優秀過ぎる・・・貴様こそこの世界から排除されなければならない存在だ。消えろ!!」


 黒星はアレクシアの頭めがけて引き金を引く。しかし・・・


 「あ、あれ?」


 目の前に自身の腕と銃が舞っているのを黒星は見た。現実を受け止められない間抜けな顔をして黒星はそれを眺めた。


 「おいおい、何ニヒルちゃん虐めてんだ?黒星よぉ」


 「う、うああああああああっっっ!!!」


 黒星の腕から血が噴水のように吹き出した。その目の前には黒髪の堀の深い顔の男が槍で黒星の腕を切り飛ばしていた。


 「レイノルド、私はニヒルではねーですよ。姿形のモチーフなだけで私はサクリファイス2、アレクシア アダムスだ」


 「わかってっからんな事、あだ名として言わせてくれよ」


 レイノルドは自前の武器『なんかごちゃごちゃした凄いの』を担いだ。


 「っ!!!レイノルド!!貴様!!」


 「あーはいはい、うるさいのは消えろって」


 ジュッ!!!


 黒星は何か反撃をしようとした。しかし、その攻撃ごと電撃を纏った槍を振った瞬間、蒸発して消えた。


 「終わりっと!!おーいだいじょぶかー?ニヒルちゃーん」


 「むしろ傷がお前には見えてるのか?レイノルド」


 「いんや?にしても、第三帝国って面倒な奴がいたもんだなぁ。ホコリみたいにぽんぽん出てくるわ」


 レイノルドは布団を叩くモーションを取る。


 「あぁ、人類史40万年の膿は凄まじい。異世界のたかだか五百年程度とは訳が違う。永零も奴らには手を焼いていて三上の手を借りたいと言っていた。私としてはこんな周りくどい停戦協定に三上が気がつけるのが疑問だが、永零は必ず三上なら気がつくと言っていた。レイノルドはどう思う?」

 

 アレクシアはレイノルドに疑問を投げかけた。


 「あー、礼の奴なら気がつくな。なんなら第三帝国を最優先に切り替えてる頃じゃねぇか?」


 「お前も奴を買ってるんだな」


 「勿論、俺はあいつニヒルちゃん並みに大好きだからな!」


 レイノルドはえっへんと腕を組んだ。


 「お前が得意そうになってどうする。それよりもだ、私の任務は変更か?」


 「いや、クラークへの命令はニヒルちゃんに移行した。人類抹殺、中でも最優先はセカンダビリティ持ちを真っ先に殺せだ。あ、その前にその任務に追記しておいてくれ。中でも更に最優先は言霊使い、輝夜 ミツキが最優先抹殺対象だってな。クラークの一件で永零はあの子をガチで危険視した。あの能力は、目指す世界を根本的に概念ごと変える異常すぎる能力だってな。永零は神のいない世界を作ろうとしている。あの能力は神そのものと言っても良いってな」


 「ヤハウェとも違う、あの子のみの力・・・私のAIは捕らえて正体を調べろという反面、現在の頭脳では理解できない可能性が50%を超えている。ここは命令に従おう」

 

 「頼んだぜニヒルちゃん。俺はさっき逃しちまった黒星を追うからよ」


 「・・・レイノルド貴様、しれっと失態をあたかも無かったかのように言うな」


 アレクシアはじーっとレイノルドを眺めた。


 「ぎく・・・さ、サーセン。でもちゃんと追いかけるから!」


 「やれやれ・・・」


 アレクシアは呆れた顔で首を振った。

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