私の見た世界
「なんでフルネーム?それよりミツキちゃん、三上君追いかけてたの?ストーカー?」
「い、いや・・・」
「ふーん、まぁいいわ。それよりミツキちゃん、今とっても楽しそうだねぇ」
軽音はニヤニヤして私に笑いかけた。
「おかげさまで・・・」
ほんと何考えてるのか分からない・・・
「そうなんだ、今楽しいんだ・・・ムカつくなぁ。何でお前幸せなの?」
「は?」
「私はあなたの曇った顔が見たいのにさぁ、ミツキちゃんってば何やってもあんまり意に介さないんだもん。もっと曇れよな・・・」
っ・・・なんだこの目つき、ざわざわする。まるで、八つ当たりの為だけに買われた人形の気分だ・・・
「前弄ってた子はすっごい私好みの良い子だったのに、壊れちゃってさぁ、引っ越しちゃったんだぁ・・・残念」
軽音は頬を膨らませて不貞腐れた。前弄ってた子って・・・それに引っ越したって・・・確か、去年1学期で転校した子がいたけど・・・まさか。
「ミツキちゃんは簡単に居なくならないよね?それにしてもあの時はほんと興奮して濡れちゃったなぁ・・・震えた手でスマホを握りしめて、冷や汗ダラダラ流しながら画面と睨めっこしてる時の君の顔さぁ。けど、奴に邪魔されちゃってムカついちゃったんだ。三上 礼、それにキャロライン ガイア・・・ねぇ、ムカつくと思わない?去年から学級委員は私のポジションだったのに、急にあいつが乗っ取っちゃってさぁ・・・あー腹立つ。けど、霧島君に聞いたよ、特にガイアは手を出したらヤバいってね。三上も何か関係あるっぽいし、ムカつくけどやめとく。ね?ミツキちゃんは自分をいじめられてるって思ってる?」
急に何の質問だ?
「い、いや・・・」
「そんな遠慮しなくて良いよ。私は自覚してるよ?私はミツキちゃんをいじめてるって。世の中の仕組みって簡単でね?誰か1人いじめられてる子を作ればそのクラスにはもういじめは無くなる。私たちの学年、荒れてるって有名じゃん?学級崩壊も多いって、私そんな学校にはいたくないんだ。だから手っ取り早くそれを治める方法があるの。たった1人でいい、その子には何をしても許される存在を作り出す。それだけで一つに纏まる。世の中いじめに加担する人はいるけど、助ける人なんていないんだよ、せいぜい見て見ぬふりをする。助けようものなら今度はそいつに手が伸びるだけ、簡単な話でしょ?」
まさか・・・こいつ、こいつは!!ネーちゃんも巻き込む気なのか!?
「なに、なんで睨んでるの?あぁ、チャンさんの事?安心してよ。あなたがこれから関係を断てば何もしないよ。あの子はお人好しすぎるからねぇ。あの子を曇らせるのも悪くは無いけど・・・私はミツキちゃんが良いなぁ。その常に攻撃的な目つきは本当に腹立つ程気持ちいい・・・」
「な、なんで、なんで私なの?」
全然分からない。何で私はこんな目に遭わなきゃいけない?私は声を絞り出した。
「うん?原因は色々かな?勿論私が君の事が大好きなのが前提、けどそれじゃ意味ない。クラス全員から敵意を向けられるきっかけが必要だよね。ちょうど良かったのは霧島君。彼、ミツキちゃんの事をすっごく嫌ってるみたいだから私は彼に付いたの。
それから新庄と東郷はそれを引き立たせる為の役に呼んだ。東郷は霧島君にくっついていればそれで良いから、あなたが近づこうものなら敵対する、そう言う役回りで十分。新庄はただのバカだから、そこに釣られて何かを吹き込めば簡単に言いなりに動かせる」
「全部・・・あなたが仕組んでたの?」
私のいじめが始まったのは去年の2学期から・・・私はそれまで根暗ではあったけど、何かしたつもりは無かったのに・・・こいつの自分勝手が、私を今の私に変えた・・・
「仕組んだって言い方酷いわね。必然なのよ、あなたがここに生まれて私のこのクラスへと来た。その時点であなたの運命は決まってるんだよ?あなたは私の為に人生壊されないといけない・・・それがミツキちゃんがこの世に存在する理由。全ては私の為にね・・・」
「・・・っ、嫌だ」
「は?今、嫌だって言った?なんで?」
軽音はさも不思議そうに聞いて来た。
「ふざけないでよ・・・私は私なのに!!何であんたの言いなりにならなきゃいけないの!?」
いい加減にキレた、いじめられてた原因は私にあるって、分からないけど何か私に原因があるんだって思ってた・・・けど、そうじゃない。仕組まれてたんだ。荻山 軽音のただのわがまま・・・こんな事、あって良い筈がない!!
「・・・か、可愛い!!子犬みたいに吠えてさぁ!!何それ抵抗のつもりなの!?けど、悪い子犬には躾をしなくちゃね・・・」
ーーーバチッッ!!!!!ーーー
「っ!!?」
全身に鋭い痛みが走った。手足に力が入らない・・・アレは、電気バトン?なんで、そんなものを・・・
「あのさミツキちゃん、誰に口答えしたのか分かってる?ねぇ?私を怒らせたらどうなるのかなぁ?こんなのじゃ終わらないよ?お前の家族もろとも日の下を歩けなくする事だって出来るんだよ?そうなりたくなかったらあなたは私の1番のおもちゃにならなきゃダメ。良いじゃない、ミツキちゃん1人で全員救われるんだから。それに大丈夫、そのうち私の言いなりになるのが楽しくなってくるから、一石二鳥だよ?」
せっかく・・・せっかくこのダメな自分を見つめ直せる機会だって思ってたのに・・・こいつのせいで、こいつのせいで!!
殺してやりたい、殺してやりたい!殺してやりたい!!
『罰を与えて欲しいか?』
当たり前だ!!こんな自分勝手な奴なんか死んでしまえばいい!!
『そうか・・・お前は選ぶんだな、罰を与える事を。なら、手伝ってる。荻山 軽音に罰を』
え?
「な、何・・・これ」
『アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!』
突如響いた甲高い笑い声。軽音の視線の先、そこには3人の人型の何かがいた。
「ピエロの仮面?」
私から分かるのはそれだ。二足歩行と、ニヤついたようなピエロの仮面を被っている謎の生き物。人間と呼ぶには異様な形過ぎる、細過ぎる手足、長過ぎる胴体。そして聞いた事ない笑い方・・・
「何なのよあんたたちは・・・」
『オマエノ罪ハナンダ?』
お前の罪は何だ?そう聞いたのか?
「はぁ?」
『コイツハイッパイコロシテル。ケド、チョクセツハコロシテナイ』
『デモゲンインハコイツ。イッパイフコウニシタ』
「ちょっと、警察呼ぶよ?」
3人は何かを話し合っている。軽音も何がどうなってるのか分からないのか、スマホを片手に固まってる。
『ナラ、ナンノ罰ヲアタエル?』
『コイツノカラダヲバラソウ』
『ナイゾウヲヒキズリダソウ』
『ウデヲモギトロウ』
『アシヲチギロウ』
『ソシテ、ヤツノコヲハラマセヨウ』
『ソウシヨウ!!』
『オマエヘノ罰ガキマッタ。執行スル。アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!』
「ちょっと来ないで!!誰かぁぁ!!はっ!?」
「っ!!」
私も同時に気がついた。何だこの景色・・・確かに夕方ではあった。けど、この赤い空は見たが無い・・・それに、この路地は住宅密集地なのに、周囲に物音が全くしない・・・誰も、いない・・・
「ちょっと、これ以上近づいたらタダじゃ済まないわよ!?」
『アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!』
あのピエロの仮面は軽音の脅しになんの反応もせずただ笑いながらゆっくりと迫っていった。
その時、先に痺れを切らしたのは軽音だ。軽音の持っていた電気バトンをピエロの1人に突き出した。
ーーーバヂィィィンッ!!!ーーー
当たった、ピエロの体から煙が出ている。あのバトン・・・法律に触れる代物だろ。
「知らないわよ・・・あんたのせいだから、あんたのせいで死んだんだから」
『アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!オマエノツミハナンダ?』
『ヒトツフエタ』
『サラニ罰ヲ』
『デンキヲナガソウ』
『ソウシヨウ!!執行スル!!』
「や、やだっ!!」
声が裏返って引けた腰で軽音は距離を取った。私は、それをただ見ていた。
その直後、ピエロの腕が一気に伸びて電気バトンを取り上げた。
「え、な、なにっ!?」
急に手元から自分を守る為の道具が消えた。軽音から激しい汗が流れてる。
『・・・執行スル・・・』
そしていつのまにか3人が軽音を取り囲んでいた。
「ぁ、ぁぁあああああ゛あ゛あ゛っ!!!!!死ねぇぇっ!!!!!」
あれが・・・軽音の最後の手段、バタフライナイフ。簡単な話だ・・・そんなもの通用しない。
ーーーガシッ!!ガシッ!!!ーーー
ピエロたちは一気に手を伸ばして軽音の全身を掴んだ。あれじゃ全く身動きは取れない・・・
「ぁ、ぁああ・・・やめて、お願いだから・・・」
どう考えても、コイツに命乞いなんて通用しない、やるだけ無駄だ。
『執行スル』
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
私がその直後見た景色は、ピエロの言葉と同時に軽音の右腕がもぎ取られた景色だ。そして次は左脚、あたりに真っ赤な生臭い液体が散らばる。
「やめて!!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ママ!!ちゃんとするから!!今度こそちゃんとするからぁぁぁっ!!!ごぼっ!!!ごがっ!!!」
ピエロの身体から変な触手みたいなが生えて軽音の口から侵入した。そしてみるみるうちに腹部が盛り上がってくる。
「がっ!!!!ごごっ・・・ぼぇっ!!!」
ーーーバチバチバチッッッ!!!ーーー
もがいていた軽音の体の動きが、急にガクガクと痙攣したような動きになった。あれは・・・口の中に入れられたアレから全身に電気を・・・
ーーーどさっ!!!!
その直後、軽音の体は解放された。
「うぉぇっ!!!がふっっ!!!お、おなか・・・お腹のなか!なにかが!!!い、いや!!ダメ!や、破れる・・・お腹が!!!あ、あぁ!!?」
『コレデ罰ハ執行サレタ』
「た、助けて・・・ミツキ・・・ちゃん、お願い・・・助けて・・・」
「ぁ、ぁぁ・・・・・」
軽音は突然私を見て無い腕を私に向けた。けど、私はただ腰を抜かした。助けるって何を・・・何をすれば良い?
「ぐぁはっ!!?だめ、出て来る・・・た、助け・・・ッッッ!!!!!!」
ーーーぐしゃぁっ!!!!ーーー
何かが破裂したような音がした。軽音の腹だ・・・中からあのピエロと同じ顔した四足歩行の生き物が出て来た。
『アハハハ!!アハハハ!!』
周囲には形容できない色々な物が飛び散っている。その中であの生き物は笑っていた、その後ろで軽音はぐったりと倒れた。
『オマエヘノツミハナンダ!?オマエノツミハナンダ!?』
そしてその四足歩行は私に向けてそう言った・・・それが示すのはただ一つ。私もこうなる・・・
「ぁ、ぁああああ・・・ああああ・・・・」
逃げなきゃああなる。それはわかってるのに、私の体は動かない・・・
『死』
「うあああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!!」