永零の目的
やれやれ・・・水着買うのにえらい目に遭った・・・にしても、恥ずかしいなぁこの水着。結局ジェンダーフリーは三上君がしれっと買ってっちゃったし。
私はそそくさと帰った。
「おー!ミツキー!!良い水着はあったかぁ?丁度良いから今年の夏休みは家族で海行こうぜ!!」
・・・父よ、何を言うてんねや?
「やだ」
私は即答した。
「なんでぇ!?海なし県民の我らが海に行きたくないとは!!」
海こそ行きたくないわ!!ぬめっとした海藻!尖った貝殻!うざったい日差し!クラゲ!ナマコ!鮫!そもそも生物の排泄物まみれの液体の中に何が好きで入らなきゃならないんだ!
そして何より!!そこのビーチにいるパリピ共と同じ空気を吸いたくない!!
「上記の理由」
「ミツキお前なぁ、心の声じゃなくて普通に喋りなよなぁ・・・」
「ともかく海は・・・あ、」
海へ行け・・・まさかそういうこと?
「どした?ミツキよぉ」
「バカ姉が馬鹿なのはいつもの事だろ。どーせ海はどっちだ?とか考えてたんだろ」
リビングから三日月の毒舌が聞こえる。
「ちゃうわ」
「つーか父ちゃんよ、海つっても何処行くんだよ。太平洋、日本海、瀬戸内海、オホーツク海、東シナ海、日本にゃ海ってのは沢山あるんだぜ?ここに近いなら湘南?」
相変わらず無駄に博識だの三日月はよ。
「アホか三日月!湘南なんてヤリ目の男どもしかいない所にうちの大切な家族を連れて行けるかぁ!!」
父よ、そこは私と同意見なのか。とは言ってもこの根暗な私に誰が声かけるんだ?
「じゃぁ何処だよ。つーか分かった、なんか当てただろ。商店街でくじ引きかなんかやってたもんなぁ」
「おっ!!だいせーかーい三日月!!コイツだ!南紀勝浦!ペア宿泊券!!コイツが当たったんだ!!そこに2人分料金上乗せしたら4人で行けるってよ!!」
なーるほど、三日月よく分かったな。
「ならお母さんと一緒に行けばいいじゃん。たまには夫婦水入らずってやつやれば?」
「何を言う!!それを言うならたまには家族で旅行だろ!てか!友達同士で旅行は行くのに家族旅行はダメなのかぁ!?あっしは行きたいよー!一緒に行ってくれないと拗ねるからなー!!」
面倒くさっ!!この父親!!いい年して駄々こねるな!!
「つーか、南紀ってこっからじゃめちゃ遠いだろうが。何で行くつもりなんだよ」
「無論!新幹線と電車!んでもって!向こう着いたらレンタカー!!それくらいなら運転出来るぜ!」
「ふーん・・・三日月、そこ温泉ある?」
「あるぜ、勝浦温泉ってやつ」
「なら行くか」
最近のマイブームではないが、京都行って以降温泉が割と好きになった。海は行かずとも温泉あるならそっちへ行けば良い。
「よっしゃ!!今年の夏休み楽しみにしてなよー!あっし頑張るよー!!」
別に頑張るのはあんたじゃないだろ・・・車出す訳でもあるまいし。父ははしゃいでどっか行った。
「ねぇ三日月、そのかつうら?って他なにがあんの?ジンギスカンある?」
「バカ姉どんだけジンギスカン好きなんだよ。つか食った事ねーだろが。そーだな、食べ物だとクジラだな。それ以外だとあ、熊野古道とかか、まぁそっちはどーせ知らねーだろ。那智の大滝とか言われてもよ」
うむ、全く分からん。
「那智の滝は行くぞー。ここ巡るって書いてあるー。因みに夜はバイキングだぜ」
行くんかい。またひょっこり顔だけ父が戻ってきた。バイキングか・・・腹減ってきたな・・・あ。スマホに何やら・・・ネーちゃんか。
『ミッちゃん!お昼ご飯どっか行こーネ!追伸、軽音ちゃんが勝手に帰らないでよー!!だってさ』
さーせん。なんかこう、解散せざるを得なかったじゃない。
私はまた外へと繰り出した。お昼ご飯食べに・・・
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で、また集合・・・まぁ今回は軽音と東郷、三上君とそしてネーちゃんだ。いつものファストフード店に来てる。
「で、三上君。あの坂神 桜蘭って奴についてもうちょっと詳しく聞かせて頂戴」
軽音が詰め寄るように三上君に問う。成る程、このメンツな理由は桜蘭さんか。私もそろそろもうちょっと詳しく聞きたい所だったから丁度良い。
「彼は、零羅さんや麗沢君と同じ時に異世界に飛ばされた人でね、あの時の彼は少し不安定だけど優しくて正義感のある人だったんだ。元々は僕たちと共に道を歩んでいたんだけど、あの最終戦争を皮切りに彼は、永零の元へ・・・あの時何があったのか、何が彼を今動かしてるのか、正直わかってないのが現状ってとこかな。
あ、そうだ。ミツキさんは最初にこの世界で桜蘭君と出会ってるんだよね。それで、永零の目的も聞いたって言ってたけど・・・」
「あ、ううん・・・その」
三上君から振ってきたか・・・正直三上君からこの程度の事気付いてる思うんだけど・・・
「ごめんね、僕も今お手上げ状態にあるんだ。特に永零に関しては。だからなんでも良いから情報があるなら欲しいな」
マジか・・・まさか三上君ごそこの結論に至ってないのか。
「・・・えっと、永零の目的は・・・三上君と・・・子供つくる・・・こと」
・・・言ったけどなんかむっちゃ恥ずかしい!!
ほら!三上君固まった!!え、固まった?あの三上君が?
「そうか・・・そういうことか・・・あいつ、まさかここまで読んでいたなんて!!」
三上君はガタッと立ち上がった。
「どういうこと?読んでた?」
「あいつ、僕をずっと煽ってたんだ。僕には到達できない場所・・・けど僕は到達した。それが一手になると踏んでいたんだ・・・けど、あいつはそこまで読んでた。いや、嬉しい誤算ってところだね、ファースタビリティに至った者同士で子を成す。永零の到達点なら、通常不可能である僕を孕ませる方法を見出せるかもしれない!!」
えっと・・・つまりは、どゆこと?今の言い方だと、永零の目的は逆で、三上君が産むんだよって事?
「盲点だった・・・女性化についてもうちょっと深く考えておくべき・・・ん?」
三上君の独り言が暴走していた事に今気がついた。周りがぽかーんとしてる様子に・・・
「アノー、三上君?イマイチ話が掴めないネ。ドユコト?」
「この間の林間学校から妙に違和感あるんだけど・・・急に身長伸びた気がするし、やたら女装が似合ってたし・・・もしかして三上君・・・」
ネーちゃんと軽音に詰め寄られてる。私に助けを求める視線を送らないでくれ。どうしようもない。
「自分で言っちゃったんだから、私にはフォロー出来ないよ。寧ろ言えるのは真実。あのね、本人の意志を尊重して言わなかったんだけど・・・三上君、あの林間学校以降・・・女の子になっちゃってるんだ・・・」
私に出来るのは介錯だけだ。心は男なら潔く認めたまへ。
「「「・・・・・・」」」
ガタッ!!
東郷が立ち上がった。
「今、すごく真剣な話してるんだよね。そこは分かる・・・けど」
「うん、コレは・・・」
「「「めっちゃ面白い展開じゃん!!」」」
全員声が揃った。
「そうと決まれば行動あるのみ!」
軽音が手を叩いた。
「ほらミツキ!!なにぼさっとしてんのよ!!珍しく仲間に入れてあげるってんだから三上君連れてくの手伝って!!」
私は東郷に連れられて三上君を運ぶ準備させられた。
「あの!ちょっと!?」
「にゃふふふ!!三上クーン、ちょっとトイレ行こっカ!!勿論女子トイレネ!!」
わっしょーい。わっしょーい。わっせろーい。
私たちは三上君を女子トイレまだ運んだ。
「おら!服脱がせろ!身体測定じゃ!!」
「あばばばばっ!!!」
個室に突っ込まれて東郷に服脱がされた。いやぁ・・・改めて見ると・・・すんげースタイル良いなおい。これで男でいたいはちょっと贅沢な悩みに思えるぞ。
「胸おっきぃ!!」
「バスト93ダトー!?Fカップたぁたまげたネー!!」
「ケツもデカい!!こいつぁ安産型だ!!」
調べれば調べる程理想的なスタイルしてやがる。もしかして、天照の仕業か?ここまで100点なスタイルにしたのは・・・
ってな訳で、このいじめっ子といたずらっ子に三上君の正体は無事バレましたとさ。
「にしてもズルいわー、そのスタイル私にも分けてよねー。私が仮に男だったとして、いきなりそんなスタイル手に入ったら普通に受け入れるけどなー」
席に戻った東郷がじーっと三上君を見つめる。
「これは男の矜持ってやつなの。いくら理想的な体型を手に入れても僕は僕が良い」
「女には分からない誇りってやつ?まぁ、確かに京也君がTSを受け入れるかって言われたら分からないわねー」
「そういうこと」
「けど、その姿は女の子が滲み出すぎてる気がするわね。ほら、新庄君はなんとなく察してたじゃない?あれもあれで可愛いとこあるけど、バレたく無いのならもうちょっと徹底的にやらなきゃ」
「知り合いにも嘘は吐くものじゃないと言われてましたです。そういえば・・・」
これは軽音の言う通り。男である事を望む割には定期的に女の子っぽいとこあったもんな。
「だったらサ!ワタシ手伝うヨ!コレ下着もサイズ合ってないし寝!三上クンよ、いくら否定してもネ、身体は女の子なのヨ?それなのニ男の子が良いからってブラをしなイ。パンツもトランクスなんてのは流石にキツいデショ?」
「う、うん・・・ごもっともですチャンさん」
「今度プールの授業あるんだし、ジェンダーレス水着でもその体型はバレちゃうよ?だから私も手伝う」
まぁ、男の子でいたいってのはひと個人それぞれだからね。けど、それで1人でやれるかって言われたら無理だろ。私も男になったらどうすれば良いのか分からないし。ここはお互い様だな・・・
「あはは・・・女子ってこういう時の団結力凄いね・・・じゃぁお願いするよ」
この後は一日中ショッピングだ。下着やら一応三上君の個人的観念を尊重してボーイッシュスタイルの服を探したり・・・
あれ?私、なんか物凄い陽キャな事やってない?