2日目、力を持つ者
「ミツキさん、双金を・・・」
「は、はい・・・」
私は三上君に鞘を返した。
「・・・大丈夫だよ。君の声はとっくにメガリスさんに届いてる。後は、彼女が己を受け入れるかどうか・・・」
聞いてもいないのに三上君は私の求めてる答えを言ってくれた。三上君は羽織っていたコートを脱ぎ、刀を鞘に収めて前へ出た。
そしてメグも、あの包丁を逆手に持ち前に出る。
「・・・」
「・・・」
2人の間にしばらくの緊張が走った。
「あんたらはあたしを人形つったけどよ、あんたも同じだろ。運命に縛られた哀れな人形だ」
「世の中そんなもんだよ。いくら自由を闊歩したつもりでも、結局は誰かに操られなきゃ生きていけない。それが人間ってなもんだ。けど・・・僕はその中で足掻くさ」
「それは力のないやつのセリフだっての。力を持つ者は操る者・・・あんたはせいぜいその次元で足掻いてろっての!!」
先に仕掛けたのはメグだ。そして三上君も後に続く。
「せぃやぁぁぁぁっ!!」
「死ねやごらぁぁっ!!」
メグは包丁を振り下ろし、三上君は抜刀術で受けた。その直後にあちこちで瓦礫やら何やらが砕けた。私に見えなかっただけで今の一瞬で凄まじい攻撃の応酬があったのだろう。
現に今見えてるのは激しい火花と時折現れる2人の影。やっぱ強い・・・この間のチャールズなんかより断然強い。自分で豪語するのも納得だ。三上君が割と本気で戦ってるのが分かるもの。
「あっははははは!!!」
「笑うな気持ち悪ぃ!!」
「ごめんごめん、強い相手だとつい頬がゆるんじゃうんだ。楽しくてね・・・けど君は楽しく無さそうだね」
「うぜーだけだっての!!どいつもこいつも邪魔ばっかしやがってよぉ!!」
昨日メグが私に悪魔を差し向けた時はすごく楽しそうだった。何にも縛られない事、それがメグの願い。
「邪魔なんてした覚えはないね、自分で自分の邪魔をしてるんだよ君は。僕らが邪魔をする理由は君自身には関係ない事、君は自分で邪魔されてると思ってるだけなんだ」
「頭こんがらがる事言ってんじゃねぇよ!!」
三上君ってたまに哲学的過ぎてよくわからない事がある。けど、今のは私でも意味が分かった。要するに自分に正直になれって事だ。
そうだよ、メグの1番良いところは自分にこれでもかって程に正直なとこだったんだ。なのに、急にその長所を潰した。それ以上の何かに潰された。
何が・・・何が彼女をそうさせたんだ?
「はぁ・・・はぁ・・・くそが!!」
「せぃや!!ほらほらどうした!?息が上がってるよ!?」
「ぎににに!!!はんっ!!呼吸整えてるだけだっての!!」
メグはあからさまに押されて来た。にしても、戦闘狂って三上君の事を言うんだろうか。自身へのダメージは寧ろ回復になってるのか?ってレベルで戦いが激しくなって行くに連れて三上君の攻撃の強さが跳ね上がっていく。
「あっははははは!!!楽しいや!!流石に強いよメガリスさん!!」
「はっ!!分かったかっての!!あたしの強さがよぉ!!」
「とてもよく分かったよ!!けどまだまだ!!まだ強くなれるでしょ!?さぁ!僕ももっと本気になるから君ももっと本気にならなきゃ!!こんな楽しい時間が勿体無い!!」
「減らず口がよぉ!!」
「にひひっ!!その攻撃も面白いや!!じゃぁ今度は技出すよ!!」
三上君は一瞬にして抜刀術の構えをとった。
「殲滅斬鉄剣!!」
「くそが!!」
青白い閃光が縦横無尽に駆け巡る。その攻撃にメグも防御をかなぐり捨てて互いに斬り合った。
って、危なっ!暫く見ていたら戦いが激しくなりすぎて衝撃波的なのがこっちまで飛んできた。
「おっと・・・やり過ぎるとこの町が壊れちゃうとこだった」
町一つ潰せる強さって最早なんなんだろう・・・
「ちっ、いちいち俺の方が強ぇみたいな言い方しやがって!!ムカつくっての!!いいか!?最強はあたしだ!あたしなんだ!!」
「そんなに強さが欲しいの?」
「当たりめぇだ!!テメェはなんで!なんでテメェはそこまで力があんのにこのままが良いだなんて言うんだっての!?力を使って何もかも手に入れようとしねぇんだっての!!」
「知りたいの?」
「教えて欲しいもんだねぇ!ま、所詮しょうもない理由だろうけどな!!」
「分かったよ・・・なら教えるよ、僕が僕のままでいたかった理由、力を無駄に求めない理由・・・簡単な事だ」
この雰囲気・・・さっき感じた。あり得ないくらいに落ち着いてる三上君の雰囲気だ。あの爽やかな雰囲気じゃない、
「っ・・・まだ何か隠してやがんのかよ。そういうとこだよ・・・そういうとこがほんと腹立つんよ!!なんでテメェらばっかりに力が行くんだっての!!求める奴になんで力が来ねぇんだ!!」
この感覚は・・・決着がつく。
「その理由は・・・」
刀を収めた・・・抜刀術?いや、そのまま棒立ちだ。一体何を?
「うおおおおおおっっっ!!!!」
メグは問答無用で三上に切り掛かった。
「・・・・・・・っ!!!!!!」
光、そして熱。私が感じたのはそれだけだ。三上君を中心に爆発するように光と熱が放たれた。私は思わず目を瞑り、開いた瞬間にはメグが大きく血を吐き出しながら倒れていく最中だった。
「求める力に対して支払う対価が大きすぎるからだよ」
「な・・・んで・・・」
女の子・・・私の目の前にいるのは紛れもない女の子だ。私と同じかちょっと上みたいだけど、ロングコートにまん丸ボブヘアーは変わらない。三上君から完全に雄を抜いたような雰囲気だ。
メグは元の姿へと戻り、力が入らずにどさっと音を立てて倒れた。
「血が・・・止まらねぇ・・・なんで・・・」
「この刀は魂ごと切り裂く、どれだけ肉体を不老不死にしても無意味」
「・・・ズリィ、ズリィっての。そんなんで・・・こんな、力が手に、入るなんて!!」
「そんなん?僕は男として生きたかった。それが何よりもの望みだった。もう元には戻れない、女性として生きていく事しか出来ない。かと言ってそれを受け入れても、女性の本懐である子を授かる事もこの肉体は不可能・・・この三上 礼の未来全てを捨てて手に入れたのが君を難なく倒す程度だ。これが、そんなんで済むと思うの?
考えてみてよ、君は力を手にして何がしたかった?何が欲しかった?欲しいものの為に力を手にして、全てを捨てて、結局手に入ったのは欲しかったものじゃなくてそれを壊した結果だけ。それを、そんなんで片付けるなぁ!!!!」
あのいつもニコニコ笑ってた三上君が、笑いながらも怒りと後悔と屈辱と、そして諦めの表情をして声を荒げた。
男として、普通の人間として生涯を全うしたい。それが三上君の望みだとしたら、今のこれは男でもなければ、人間なんて遥かに超えた存在になってしまった。側から見ればどうって事ないように見えるかもしれない。けど、三上君にとってそれは、自らを怪物にする以上の罪悪感に苛まれてるのかもしれない。
「・・・っざっけんなよ。あんたがなんと言おうとそんなんはそんなんだ。あたしは、それでも欲しいんだよ」
「嘘だ」
「あ?」
私は呟いた。
メグが何度も言ってた力欲しいって言葉、それは今の三上君のような力じゃない。本当に欲しがった力はそんなんじゃない筈。今のメグはまるでその三上君の力を手に入れる事を強制されたみたいな言い方だった。
「あなたが望んだ力って物理の力じゃないでしょ?」
「ぁあ?じゃなきゃ、なんなんだっての・・・」
「昨日、あの姥捨山で言ってたのはそんな意味じゃなかった。なんていうのかな・・・良い言葉が見当たらないし、思い当たるのは恥ずかしい言葉だけど・・・絆の力なんじゃない?」
何言ってんだろ・・・けど、それ以上の言葉が見当たらない。
「きずな?んなもんでどうやって強くなれんだっての・・・」
「強くはなれないかも。けどそれ以上に大切な物が手に入る。友達って案外めちゃくちゃ強いのがさ。私が思ってるのは昨日あの悪魔を倒せたのも、チャールズを倒せたのもその力だと思う。
昨日の悪魔は私が嫌ってた奴に頭下げて頼み込んで鍛えてくれたお陰で倒せた。メグのバイクに乗る時、相性が良かったのも三上君が前に乗り方を教えてくれたお陰。それだけじゃない、その三上君と知り合う事の出来るきっかけをくれた人もいる。そしてそこから繋がって、弟と弟の友達たち、私はこの数ヶ月で今まで全くいなかった知り合いがいっぱい増えた。その中には前に私の人生をめちゃくちゃにしようとした人もいる。けどその人も今は私の友達・・・友達かなぁ?ともかく前より良い関係に変わった。
そのおかげで私たちは圧倒的な力を持ってた筈のチャールズに打ち勝てた。今までの1人のままじゃ多分私はとっくに死んでたよ」
「・・・なら、なんであたしにその力はねぇんだっての。なんでミッキーにはあってあたしにはねぇんだ?あたしは生まれた時から望めばなんでも手に入った。おもちゃ、ゲーム、スマホ、バイク。欲しいと言えばなんでも手に入ったんだ。それがあたしの力だと思ってた・・・けど違った。力を持ってんのは親父だった。道山会のトップの親父は権力も財力も、そして喧嘩も最強だった。
あたしはそれがすんげームカついたんだっての、なんでも持ってんのは親父であたしにはなんにもねぇ。あたしは必死になって親父の後を追った。けどその先には親父よりも更に力を持ってた永零がいたんだっての。何処まで行っても、何処まで行っても追いつけねぇ。欲しい・・・誰もがあたしにひれ伏す力が欲しい!」
メグは右手を伸ばして天に掲げた。そして悔しそうに歯を食いしばってる。
「メグ・・・私はあなたのその欲望に忠実な所は正直好き。だって羨ましいもの。今まで私は思っても口に出せなかった。心の中でツッコミを入れて勝手に満足してた。それを口にして、行動に移せるのはメグにしか出来ないよ。けど、そのせいで私もあなたも友達がいない。
メグ、あなたはもう充分に力を手にしてる。後はそれをどう使うか、どう受け止めるかで変わってくるだけだと思う。力を持ってても結局使えなきゃ意味がないのなら、友達の為に使ってみない?あなたが友達の力を知らないって言うのなら私が協力する・・・なんて、上から目線過ぎたね。あの、正直な話私も友達ってのをようやく少しずつ分かって来た段階だから、なんて事言えないんだけど友達ってのは、どんな力にも変え難い物なんだって思う」
「どんな力にも変え難い・・・」
「そう、メグは友達の事を全然知らないんだよね。私もそんなに知ってるわけじゃないし、友達と呼べる人は数える程しかいないけど、私から出来るせめてもの事は、あなたの友達になる事だけ。後は、あなたがそれをどう受け止めるかどうか。私に背を向けるのもありだと思うし、まだ反撃するのも一手だと思う。けど私はしぶとく手を差し出すだけ。メグ、私とあなたは相棒じゃなくて、友達にならない?」
私は手を差し出した。
「・・・ぐず、てめ・・・ほんとズリィっての。人前で女の子泣かせる奴があるか?んな言葉、今まで言われた言葉ん中で1番ショックだっての・・・友達になって欲しいだ?誰かにそんなの言われたの初めてだバーカ!」
メグは初めて嬉しそうに笑った。人を馬鹿にする笑いじゃなくて自分の喜びを噛み締める笑いだ。それと同時にポタポタと大粒の涙が溢れ出た。
「私も。私から友達になろうなんて言葉言ったのこれが人生で初めてだよ。三上君、メグの怪我は治せるの?」
「問題無いよ」
「良かった・・・なら行こうよ。日も暮れちゃったし、あんまし楽しくは無いけどキャンプファイヤーは林間学校の締めには必須イベントでしょ?」
「はん!ならあたしが教えてやるよ、本物のキャンプファイヤーってやつをな」
「本物って・・・キャンプファイヤーに偽物なんてあるの?」
「そういやねーや、きゃはは!って!いだっ!!」
メグが笑ったら、忘れていたのか切られた傷の痛みに顔を顰めた。
「三上君、お願い」
「うん」
三上君がメグを治療しようとしたその時だった。
「っ!!三上!!後ろ!!」
「っ!?」
ズガンッ!!
メグが叫んだ瞬間。乾いた発砲音が響いた。そして視線をメグに戻した瞬間。彼女の頭に穴が空き、血が吹き出していた。
「ちっ、流石に早いな・・・あんたがメグの野郎に気を取られた瞬間が狙い目だと思ったんだがな」
三上君は一瞬のうちにキャロラインの方へと周りこみ刀で何かを防いでいた。
「メグ!!」
私の方はメグへと駆け寄った。これ、頭を銃弾で撃ち抜かれてる・・・息は!?
「ヒュー・・・ヒュー・・・」
僅かに息がある、心肺蘇生法をやるべきか、その前に止血を!!
「あ?死に損なったのか?っかしいなぁ。確実に脳天ぶち抜いたんだけどな」
「全く・・・どうして力に固執する奴ってこうもクズばっかりなんだろうね。一つ言っておくよ、僕がこんな姿になったのは君みたいな奴が来ると踏んでたからだ。けど今のはかなり危なかったよ、本当に隙を突かれた・・・本当に腹が立つなぁ、ここはもうみんなでキャンプファイヤーやって大団円で終わる所でしょ?それを台無しにしてくれちゃったね、道山 龍太郎」




